【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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オシェイ室内戦

 オシェイはナーガ系の奇形児として生まれた。ただでさえ身を縦横無尽に動かせるナーガ族にあって、ほとんど粘液(スライム)のような柔軟性を持っていた。しかし容貌は生まれた部族の中で異様としか表現できないものだった。

 全身がつるりとした滑らかな肌をしており、仲間たちのような鱗や突起物は一切ない。その容貌ゆえか、部族が使う言語も奇妙な調子だった。

 ここまで来れば部族は社会的生物として当然の反応を示した。迫害、村八分、言葉は何でもいいが、とにかく排斥しようとした。

 オシェイからすると納得のいく話ではない。確かに違う見た目をしているが、むしろ()()()()()のだ。その柔軟性から繰り出される攻撃は他を寄せ付けなかったし、成長した時には敵なしとさえ言えた。だというのに仲間たちはますます彼を遠ざけた。

 追い出されるように生まれた地から離れたオシェイだったが、ナーガは人間種などとは敵対関係にある。そんな彼が行きつく先はズーラーノーンしかなかったのだ。

 

 そこで初めてオシェイは評価された。盟主はアンデッドであり、亜人などさして問題にもならなかったのだ。ならばこそクレマンティーヌを襲撃するのも彼の役目。人間種の破綻者が何を一人足抜けしているのだ、とあくまで組織のために剣を振るうのだ。

 

 

「チッ、奇妙な剣筋だ。だが、大した武技は使えないようだな!」

「コヒュー、ショセンはニンゲン!」

 

 

 レメディオスを襲うのは振り子のような奇妙な剣撃だった。それは、まるで鞭のようであり、射程が長い。オシェイに小手先の武技など必要無い。柔軟性を活かして、遠心力を存分に乗せた一撃を繰り返すだけで相手は死ぬ。強いて言えばそれこそが彼の武技なのだ。

 クレマンティーヌ襲撃員に選ばれたのは、その相性の良さもある。スティレットで射程が短い彼女がいくら速かろうと、絶対的なアドバンテージを持って戦えるのだ。

 

 それに対してレメディオスは……本当に彼女かと疑うような冷静さで防いでいる。確かに攻勢には出れていないものの、殺される気など全くしなかった。

 なぜなら()()()()。ここに至るまでレメディオスはあらゆる敵と戦ってきた。ビーストマン、トロール、死の騎士(デス・ナイト)。更には日常的にレイナースと手合わせを行っている。

 そして、セシル。時折挑む相手の壁は信じられない程高く、強敵相手の経験などそれで十分。あの驚異的な戦士の一撃に比べれば、オシェイの攻撃など常識の範囲内だ。

 

 

「〈善の波動(ホーリーオーラ)〉!」

 

 

 加えてレメディオスは一人ではない。共に戦う仲間たちがいる。カルカから輝くような靄が広がり、オシェイを包む。だが、オシェイは少し目がくらんだだけだ。その隙にレメディオスは浅い一撃だけ加えて、欲深さを見せずに元の位置へ戻った。

 

 

「姉様! この敵は悪の位相ではありません! 〈聖撃〉と聖剣による大技は控えてください!」

「ええい! 亜人は分かりづらいな! ケラ、天使で相手の逃げ道を塞いでくれ! こうなったら絶対に逃がさん! あの女のためではないがな!」

「はいはい。あの子たちのためですね。レイナースさんは階段前にお願いします」

「承知しましたわ」

 

 

 人的被害は出ていないが、暴風が通り過ぎた後のように室内は荒れていく。この補填は出るのかとケラルトは思っていたが、それだけ余裕がある。

 恐らくオシェイは捨て駒だった。あるいは後になって捨て駒と化したのか。“金鎖”が居ると知っていれば突撃などかけまい。

 勝負は一進一退を繰り返している。だが、支援要員が二人いる以上、その均衡は次第に崩れていく。

 

 

「あいつに見せて、目にもの見せてくれる予定だったのだがな……!」

 

 

 レメディオスは()()()()()剣を抜き放つ。それは十二剣の一つ、コランデュラム。レメディオスが焦がれる男からの贈り物だ。

 突然、二刀流となったレメディオス。その姿は付け焼き刃などではなかった。きちんと訓練してきた者の構えだった。

 オシェイの柔軟性なら一本の剣ならある程度衝撃を受け流せる。だが……ハサミのような一撃を受ければどうなるか。

 

 

「〈双剣斬撃〉!」

 

 

 〈剛撃〉ではなく切れ味を重視した〈斬撃〉の双刃が放たれた。その一撃を前にオシェイは生命の危機を覚えた。咄嗟に取った逃亡の後退に、ガクッとした感覚が襲う。いつの間にかケラルトの天使が後ろに移動していた。

 

 

「アァ……ッ! 盟主!」

 

 

 なぜ自分がこんな目に。あなたは理解者ではなかったのかという、嘆きが沸き上がった。聖剣と秘剣の交差が迫る。皮肉にもこの国は亜人と人間が共に暮らす国だった。そこでオシェイの人生は終わった。

 

 

 セシルはマッテオの持ち物を調べていたが、特にこれといった物は見つけられずにいた。マジックアイテムと思しき装飾品だけ、アインズへの土産にするためインベントリに入れた。

 

 

「クレマンティーヌ……同僚の死に思うことは無いのか」

「へへへ……いや、高弟は別に仲良しというわけでもないので。ただ、基本的に自分勝手に動く連中が指示を受けてきたってのは盟主が動いたんだなとだけ……」

「盟主? そいつが親玉か。どこにいるかとか知っているか? 前にナイトリッチだったとは聞いたが」

「知っていたらもう話してますよー。拷問はもう嫌なんで、へへ」

 

 

 ふぅんとだけセシルは返して、これからの計画を立て始めた。マッテオを殺したのは早すぎたとも思った。盟主に迫る線の中で最短なのは、指令をどこで受け取ったかということだろうから。

 そうしている内にティラが帰ってきた。ゆっくりと歩み寄ってくるなり、ため息をつくようなポーズをして見せた。実際には表情などあまり変わらない女であったが。

 

 

「お待たせ。と言おうと思ったけど、少し目を離した隙にとんだ有様」

「仕方ないだろう。ズーラーノーンの高弟だと言っていたぞ。元々連中を全滅させるために動いているんだから、機会を逃すわけにもいかないだろう」

「……まぁいい。目的の書類と証拠は押さえた。子どもたちも確認した。いつでも踏み込める」

 

 

 さて、どうするか。行動の方針を決めねばならない。子どもたちのために速攻で攻め込むか、王国の官憲を巻き込んで行動すべきか。

 いくら一人の剣士として動くと言っても、宮仕えの身分は付いてくる。そしてセシルにとって最も大事なのは“金鎖”だ。

 

 

「エ・ぺスペルに報告してから、急いで戻ろう。生贄ということは次の裸祭りまでは生かされるはずだ」

「玉虫色。思っていたより人間らしい」

「いいから死体の片付けだけ手伝ってくれ」

 

 

 セシルは遠く昔に忘れてきた感情を思い出してきた。自分の決断に胸がむかむかする。今、彼は“金鎖”とクーデリカとウレイリカ、見知らぬ子どもたちに優先順位を付けた。その結果として魔導国という居場所に迷惑をかけない決定をした。

 なんだろうか、俺は全てに飽きて森に引っ込んでいたんじゃないか。そう思ってみても、以前の倦怠感を思い出せなかった。

 せめて早く動いて、邪教の儀式に介入しよう。

 

 

「私がここに残る。間に合わないときは介入する」

「……すまん」

 

 

 ティラに気を使われたセシルは、クレマンティーヌを抱え上げてエ・ぺスペルへと向かい、ティラが手に入れた証拠を提出して戻った。

 結果として無事に下部組織の儀式を阻止することに成功したが、ズーラーノーンに繋がる人物を見つけることはできなかった。

 次なる目的地は久方ぶりの王都。そこの裏社会は魔導国が既に制圧している。有益な情報が得られることをセシルは願った。高弟はクレマンティーヌ除いて残り八人。

 




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