【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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三つ子と第三王女と

 王都に到着したセシルは不思議な気分を味わった。奇妙に懐かしい。かつてはここで、実力を隠したままザナック王子の護衛などの依頼を受けていたものだ。

 意外にも王都は以前とさほど変わらなかった。人通りもあるし、表通りの治安はそこそこ良い。裏社会も魔導国という圧倒的な支配者に吸収され、落ち着いていた。

 

 魔導国のアダマンタイト級冒険者のプレートを門衛に見せた時は相手の顔が引きつっていたが、社会的な地位というのはやはり中々便利だ。

 それとティラが少し目立っていた。どうも誰かに似ているらしい。

 

 

「王城に寄れる機会はあるかな? 旧知の人たちに会ってみたいものだ。前に来た時は王派閥と貴族派閥の争いや、魔導国の圧力もあって気軽に話せなかった」

「表も裏もどちらも回る。情報は力」

 

 

 セシルが知る由もないが、表にも魔導国の協力者はいる。何も裏側だけに影響を及ぼしているわけではないのだ。例えばこのように……しわがれた声の少年とも青年ともつかない戦士がセシルたちの前で立ち止まった。

 戦士と評したのは装備が騎士のものでもなく、兵士のような簡単なものでもなかったからだ。短い金髪に日に焼けた肌をしていた。

 

 

「失礼します。魔導国の方々ですね」

「そうだが……君は?」

「ラナー王女付きの兵士、クライムと申します。王都を訪れた皆さんを招待するよう、とのお言葉で……」

「ラナー王女。ああ……あの時のザナック王子の妹さんか」

 

 

 セシルは思い出す。ザナック王子に自分たちの素性を暴露してくれた奇妙な人物だ。彼女との交渉はケラルトに任せていたので、セシルにとってはあまり記憶に残っていない。

 しかし、このタイミングで話しかけて来たということは、魔導国と繋がりがあるのか。それもセシルの視点からは判然としない。“金鎖”の、ではなく、あくまで魔導国の一行とされていることから情報通ではあるのだろうが。

 どの道、王城に寄れないかと考えていたのだ。誘いに乗るのも一手だろう。

 

 

「前回はあまりお話できなかったな。喜んでご招待にあずかろう」

「ええ、王城。私、場違いじゃないですかね……」

 

 

 クレマンティーヌは引き気味に言う。場違いとか言ってるが、過去の経歴から犯罪者として扱われることを警戒しているのだ。

 だが、クレマンティーヌは既に魔導国で刑期を終えている。それに末端とはいえ、公務員だ。それを捕まえるような真似を属国化を目指すリ・エスティーゼ王国がすることは無い。

 

 

「大丈夫。この後、どうせ行く予定だった。それに……」

 

 

 珍しくティラが言葉を途中で止めた。短く話を済ますティラが言いよどんだことにセシルは違和感を覚えたが、招待に消極的ということではないのでクライムの案内に従うことにした。

 短い道行だが、セシルはクライムに好感を持った。なんというか、常に張り詰めている様子が微笑ましい。戦士としての実力は大したことがないとも見ている。おそらくモックナックにも劣るだろう。

 

 

「ブレイン殿は元気かな?」

「え、ええ! 今は同じ立場として、色々なことを教わっています!」

 

 

 同じ立場……ラナー王女付きということか。どうにも胡散臭い姫君だとセシルは感じていたが、身の回りには実直な人物を置いているらしい。

 

 

「使者殿はブレインさんをご存じだったのですね」

「セシルだよ。使者というわけではないし、今は一介の剣士として行動しているから敬われる立場でも無し。むしろ俺が気を使わないといけないのかな?」

「いえ! ラナー様のお客人ですので!」

 

 

 そういえば王都に入るにあたってアダマンタイト級冒険者のプレートを使ってしまっていた。自分は“金鎖”に染まり過ぎだなとセシルは反省する。あくまで個人として動かなければならなかったのに……このあたりはセシルの甘さが出ている。自分で心掛けたところで結局は肩書はついて回るのだ。

 現に魔導国の冒険者組合は襲撃を退けたことで、丸ごとズーラーノーンに警戒されるだろう。セシルも同様だ。それぐらいアダマンタイト級冒険者の看板は重い。

 

 セシルは大人しくクライムの先導にしたがって古めかしい街を歩いた。一国の首都だというのに舗装もろくにされていない、懐かしい場所。しばらくすると途端に道が舗装され、城壁が現れる。門衛にクライムは嫌がらせのように止められたが、ラナーが書いた羊皮紙を見せると途端に収まってしまう。

 

 

「苦労してるんだな」

「孤児出身の兵士など、こんなものですよ……それにしても、いえ、なんでもありません」

 

 

 クライムはティラのことを随分と気にしていた。それでも何も言わずに案内してくれる……セシルはティラと知り合って短いのでいまいち分かっていないが、理由が分かるのはすぐだ。

 王城……正式にはロ・レンテ城という。アンティーク調の室内へ通されて進む。気位の高い侍女たちは嫌悪を滲ませて見てくるが、そんなものだろう。

 

 

「ラナー様、お客様をお連れしました」

『ありがとう、クライム。すぐお通しして』

「失礼します!」

 

 

 クライムが一室の扉を開ける。普通王女の部屋はもっと護衛が付いているものじゃないかと、セシルは思うがクライムがドアボーイの真似事をするのも奇妙に似合っていた。

 そして中に案内されて、しばらく前に見た人物を見つける。ラナーとラキュースだ。だが、中にいたのは彼女たちだけではなかった。筋骨隆々の戦士。仮面を付けた奇妙な赤ローブ。そして……

 

 

「ティラが二人いる」

 

 

 ティラそっくりの女性が二人。恰好まで同じであり、違いはバンダナの色だけ。彼女たちは苦無を抜き放ち、戦闘態勢に入る。だが、他は静かなものだ。ティラもまた涼しい顔をしている。後ろに控えていたクライムだけが混乱している。

 

 

「ティラ……!」

「鬼ボス、こいつがイジャニーヤの女首領。どうする?」

「三つ子とは聞いていたけど……ええと、でもお客さんとして来たのよね」

「そう。ティナとティアの早合点。大体、イジャニーヤはもう無い」

 

 

 そこで面白そうに戦士が野太い声で口を挟む。その微妙な声音の高さからそれが女性であることが分かった。

 

 

「イジャニーヤっていや、押しも押されぬ暗殺集団じゃねぇか。そこがもう無いっていうのはどういうことだ。ついでに王女の客ってこともよ」

「イジャニーヤは魔導国との諜報合戦に敗北して吸収された。今の私は魔導国の大型新人」

 

 

 なぜか胸を張って答えるティラ。鶏口牛後というが、彼女の場合牛後の方が性に合っているらしい。

 

 

「皆さん、ここでは私の顔を立てて静まってくれませんか? 大切なお客様ですし、お茶でも飲みながらゆっくりとお話しましょう」

 

 

 ラナー王女がそう言うとポットからカップに手ずからお茶を入れ始めた。セシルは以前と変わらず、どうもこの王女に違和感を覚えるが、落ち着くのには同意だ。席はラナーとラキュースが座り、三つの席は空席だ。他の面子は立ったまま。

 ラナー王女は事前に連絡を受けていたか、あるいはティラのことも知っていたのだろう。

 

 

「前回はセシル様ともあまりお話できませんでしたね。あらためて、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。リ・エスティーゼ王国の第三王女です。そしてラキュースとは面識がありましたね。後ろの方々がリ・エスティーゼ王国が誇るアダマンタイト級冒険者、“蒼の薔薇”のメンバーです」

「ご丁寧にどうも。セシルです。アダマンタイト級冒険者チーム“金鎖”の一員ですが、今回は個人で動いています。こっちが同行者のティラとクレマンティーヌで、冒険者ではありません」

 

 

 ラナー王女の口が弧を描いた。そこで、瞳の色がほの暗さを宿したように見えたのは気のせいだったろうか。

 

 

「今回のご訪問は、秘密結社ズーラーノーンに関することですね?」

 

 

 最初から全部知っていたかのような口調でラナー王女は言葉を紡いだ。




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