【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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エ・アセナル

 北東でも“蒼の薔薇”が無事に仕事を終えていた。現場には高弟が一人いたものの、多勢に無勢という言葉そのままに呆気なく倒されていた。

 後はセシルたちと最終地点で合流することになる。高弟が残り二人となった今、ズーラーノーンも危機感を覚えていることだろう。なにせアダマンタイト級冒険者が二つ攻め込んでくるのだ。流石にそれぐらいはもうつかんでいるだろう。

 

 “金鎖”と“蒼の薔薇”が合流する街はエ・アセナル。王国と評議国の間にある大都市だ。

 国際的に考えても、そんな場所で事を起こそうとするとは狂っていると思う他ない。

 

 

「ティラ。本当にこの速度で良いのか?」

「もちろん。むしろこれが最善。“蒼の薔薇”と私たちの間に差が出ない速度」

「そうか……」

 

 

 セシルたち一行は借り上げた簡素な馬車で移動していた。安っぽい馬車部分はともかく、駄馬でも価値ある馬をそうそう貸すわけはないはずだが、乗り合い馬車の組合はあっさりと手続きを済ませた。

 これはティラたちイジャニーヤのコネクションらしい。つまりはそれも今は魔導国のモノといってもいいだろう。かつては帝国で恐れられたイジャニーヤが苦労して作り上げた、リ・エスティーゼ王国内の移動網というわけだ。

 

 

「ズ、ズーラーノーンはイジャニーヤとも繋がりがあったので、この移動はバレてるのでは?」

「そう。バレてる」

 

 

 元ズーラーノーンのクレマンティーヌが言ったことをティラは肯定した。自分たちの動きは筒抜けであると承知したうえで動いてるのだ。それは先の小都市でも行った手法。

 

 

「なるほど。そうやって活動を誘発させて、居場所と目的を引きずり出すのですか。効率的ではありますが、趣味が悪いと言わざるを得ませんね。万が一、彼らがかつてしたように、民衆を巻き込んで何らかの儀式を行ったら、どうするつもりですか?」

「そのために人員を送り込んでいるけれど、極論どちらでもいい」

「なんだと! 無辜の民だぞ!」

「そう、民。リ・エスティーゼ王国の、民。魔導国のではない。勘違いしているのはそちら」

「な……」

 

 

 そう。ティラたちはあくまで魔導国の諜報部門である。ㇼ・エスティーゼ王国の民草を積極的に守る気などありはしない。いや、彼女たちとしては最大限努力しているのであろう。ただそれはㇼ・エスティーゼ王国がいずれ魔導国の属国になるからにすぎない。

 レメディオス、ケラルトとティラの間に不和がもたらされようとしていたが、セシルには何も言えない。カルカも分かっているから何も言わないのだろう。

 

 

「そもそも今回の任務自体が、セシルと魔導王陛下の間の取り決めで始まった。それも身内に安全を提供するために。身近な者のために大勢を札にした」

「善人を救いたければ賭けに勝つ他はない……ということですわね」

 

 

 レイナースは順応が早かった。帝国四騎士として部下を率いていたレイナースにとって人の命を天秤にかけて、優先順位をつけることは多かったからだ。

 ティラに詰め寄ろうとしていたレメディオスは渋々座り直した。元聖騎士段団長であったことからか。それとも、魔導国の人間の方を軽視しているのに気付いたからか。

 

 

「そのあたりは全部俺が悪いんだ。クーデリカとウレイリカのためだけに一つの組織を潰すと決めた俺がな。殴るんだったら俺を殴ってくれ」

「ふん。お前を殴ったら私の手の方が壊れる。要は素早く敵の親玉を叩き潰してしまえばいいだけだ」

 

 

 御者席でセシルは少し肩を落とす。レメディオスがセシルを殴るはずがない。それを分かっていて言った気がしたのだ。だが、今更だなと気を取り直した。ビーストマンやトロールを自分がどれだけ殺してきたか。それを思えば、罪の一つや二つ。

 レメディオスたちのために戦うと決めたのだから、最後までそうあるべきだ。ただ、カルカとレメディオスは人間種が犠牲になると心を痛める。それを防ぐためにできる限りのことはしよう。

 

 

「敵の親玉か……ナイトリッチという話だが、どちらが早く倒すかの競争でもするか?」

「随分と強気だな、訓練兵?」

 

 

 にやりと笑うレメディオスの顔をセシルは直視した。こいつはこういう笑顔の方が似合うのだろうなと思う。カルカは穏やかにほほ笑む、ケラルトは苦笑する、レメディオスは不敵に笑う。それが良い。いずれ聖王国に彼女たちを送り届けられる日まで、この関係を守り抜こうとセシルは思う。

 

 

「なんだジッと見て。前を見て馬車を操れ」

「いや……ちょっと眩しかっただけだ」

 

 

 ズーラーノーンの連中を潰すという意思が強固になっていった。

 

 エ・アセナルはㇼ・エスティーゼ王国としては一風変わった街だった。別に建物が変わっているとかそういう話ではない。ドラゴンが支配するアーグランド評議国に近いためか、比率は少ないものの亜人種がちらほらと見えるのだ。

 恐らく王国としてはあまり気分がいいものではないだろうが、評議国との関係上黙認しているのだろう。魔導国の属国となった後にはいいお手本になるかもしれない。いや、あるいはエ・アセナルが評議国に鞍替えするかもしれなかった。

 

 

「で、どうやって連中を探すんだ? 前みたいにこちらから情報でも流すのか?」

「今回は普通に探す。リッチが隠れられる場所は限られている」

「墓場か、逆に神殿と言ったところね」

 

 

 答えたのは“蒼の薔薇”のラキュースだった。二つのチームは騒動が起きる前に無事、合流できたのだ。エ・アセナルは大都市なので、人数が多い方に越したことはない。セシルには及ばなくとも、彼女たちはこの世界では強者と呼ばれる存在だ。被害が一般人にまで及びそうなとき、対応力が増す。

 

 

「儀式か何かをするっていうなら、街のど真ん中じゃねぇのか?」

「あまり神殿を疑いたくはないのですが……」

「気持ちは分かるし、私自身もそう思っているけれど……隠れ六大神信仰って線もあるからね」

 

 

 ガガーランとケラルトにラキュースは微妙な顔で答えた。

 六大神信仰はスレイン法国で信じられている宗教だ。他の国とは違い、より強力な闇の神と光の神から四大神が生まれたという前提があり、四大神信仰とは極めて仲が悪い。

 ただ、何事にも例外はあり、隠れて六大神を信仰している者もいるのだ。そういった人物が闇の神と“盟主”を混同してしまうケースがある。

 ズーラーノーン自体宗教じみているのでややこしいことである。

 

 

「日中は全員で手分けして捜索。夜に墓地、神殿、中心地を見張る。このような体制でしょうか?」

「カルがリーダーだからな。俺は従うよ」

「うん。カル様の意見が絶対だ」

「こちらもそれで問題ないけれど……“金鎖”とは連携の機会も無かったから、基本的に別行動ね。配置はどうするのかしら?」

「墓地に“蒼の薔薇”、神殿に“金鎖”、中央にセシルさんとクレマンティーヌさん、居るか分かりませんがティラさんでどうでしょうか? 魔導国は元々これ以上ないほど神殿勢力とは裏で険悪ですから、関係悪化しても問題ありません」

 

 

 ケラルトの案が出されるが、中央がクレマンティーヌというのはどう考えても餌だった。見た目と違って権謀術数に長けた彼女らしい発想である。

 

 

「その男が中央というのは……」

「“盟主”というからには高弟より強い可能性が高いですからね。手に負えないと判断された場所にセシルさんを送り込みます。中央に現れた場合は一番話が早いですし」

 

 

 イビルアイは納得してくれたようだ。この中では彼女がセシルに次いで一番強い。ゆえに感覚で相手がどれほどかも感じ取れている。セシルがかつて出くわしたヤルダバオトに匹敵すると判断していた。

 

 誰も最悪のパターンである散発的な出現には案を出さなかった。その場合、“蒼の薔薇”は住人を優先するであろうから、散兵となるしかない。

 

 

「まぁ何とかなるだろ。最悪、ホクトセイクンと騎乗動物も出すし。じゃあ、今日の捜索開始だな」

 

 

 その後、街はうろつくアダマンタイト級冒険者たちに驚き、悪人は一切身動きが取れなかったという。




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