【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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リク

 一方、アーグランド評議国のツァインドルクス=ヴァイシオン。通称ツアーは一連の出来事に介入すべきか悩んでいた。あのユグドラシルのぷれいやーは、いつの間にか落ちてきた個体だ。そのセシルという人物は視野が狭く、良くも悪くも影響力を持とうとしなかった。

 だから排除しなかったのだ。それが、どういうわけか魔導国に所属している。危険人物とみなすべきだが、その活動は狭い範囲に限定されている。そして彼が追い始めたズーラーノーンもまた、評議国という組織には邪魔な存在だ。

 

――ズーラーノーンには滅んでもらった上で、セシルという個体の危険度を確かめる

 

 二兎を追えるのは強者の特権だった。様々な要因を孕んだままズーラーノーンは崩壊する。

 

 

 エ・アセナルは夜中になって静まり返った。元々辺境と言っていい位置にある街だ。あまり夜中に遊ぶようなことはしないのだろう。墓地に“蒼の薔薇”、神殿に“金鎖”が張り込んでいるが、何も今日事態が起こるとは思ってはいないし、どこでことを起こすのかも不明だ。

 

 セシルは街の中央部分である広場で縁石に腰かけていた。いざという時に応援に駆け付けられ、また中央で変事が起こった際に即応できる位置だ。

 

 

「ティラは何か細工しに行かなくていいのか?」

「不要。もう全て終えた」

 

 

 そうか、と返したセシルだったが、多分最後になるだろうティラとの会話を続ける気になった。諜報部門と冒険者部門では職務が違いすぎる。本来はティラのような派遣員を出すことすら稀だろう。

 

 

「ティラは魔導王陛下に忠誠を誓っているのか?」

「前も同じ話をした気がする。誓っている。敗残の身の我々を生かし、受け入れた。その恩義がある。顧客とも違うから戸惑っているけど、そのうち慣れる」

「そうか。それさえ分かればいい」

 

 

 彼女の生き方は健全だ。たとえ内容が後ろ暗かろうとも。だからこそセシルは思うのだ。それに対して俺は一体、どうなのかと。その日稼ぎで皆と生きていくのもいいが……最終的な目的はあの三人を故郷に返してやることではないか。それを叶えるためには魔導国で重要な地位に就くか……あるいは離れるか。

 前者の場合、冒険者という立場がやや邪魔だ。大きな功績をあげる機会はほとんどない。後者は単純に魔導国の刺客からレメディオスたちを守れない。

 どちらを選ぶか……答えは出ない。

 

 

「戦場にあって余念が過ぎる……か」

 

 

 昔どこかで見た本の文章を思い出してみたが、泡のように浮かんで消えた。

 意識を切り替えて戦いに備える。相手はナイトリッチという話とズーラーノーンの組織からするにおよそレベル四十から六十といったところだろうとあたりはつけるが、油断はしない。

 それから数時間経ったとき……墓場の方から火の手が上がった。

 

 

「始まったか」

 

 

 だが、同時に神殿の方からも轟音が響く。セシルの脳裏に“金鎖”の面々が浮かぶが、強いてそれを抑えた。二か所同時に事態を引き起こした? いや、これは既に。

 

 

「何かの儀式か! ティラ! クレマンティーヌを連れて下がってくれ!」

「了解、鬼班長……さようなら」

 

 

 ティラもこれで別れだと思っていたのだろう。以後、彼女は影にもぐる……クレマンティーヌの身柄がいつ帰ってくるかは知らないが……直接顔を合わせることも無くなるだろう。

 

 魔力の奔流とも言えるものが渦巻いている。ガガーランが言っていたことは正しかった。何か事を起こすなら中心だ。

 骸骨姿が〈飛行(フライ)〉で飛んでくる。それなりの質を持つのであろう黒いローブを身にまとう姿は、どこかの王様そっくりで笑えてくる。

 だが、そのナイトリッチは厳かな声を出した。

 

 

「できれば、あと二か所欲しかったところだが……こうなっては是非もない。冒険者と裏切者がやってくれたな。だが、今一度、螺旋の儀を経て力を蓄えよう」

「口ぶりからしてあんたが“盟主”か」

 

 

 なるほど。この世界の存在としては抜きんでて強い。だが、セシルは負ける気は欠片も無かった。ただ油断せずに切り刻めばいい話だ。特に注意を払わなければならないのは、この世界固有の能力だ。ホクトセイクンを召喚して置くべきか、一瞬迷ったとき。セシルは全力で飛びのいた。

 

 

「なんだ――これは?」

 

 

 “盟主”の体にグレイブと日本刀と大剣が突き刺さっていた。そしてセシルが先ほどまでいた位置にはハンマーが浮かんでいる。リッチなので判断が難しいが、幅のあるグレイブと大剣が骨を砕いているあたり致命傷だろう。そう思っていると、残った日本刀が“盟主”の首を落とす。

 大分、無理をして強化を果たしていた反動か。何も言えずに“盟主”はさらさらと灰になっていき、ズーラーノーンは終わりを迎えた。

 

 

「仕事を替わってもらってありがたいんだが……礼を言おうにもどなた様かな?」

 

 

 浮かんでいた武器が宙に浮く白金の鎧に集う。そうした装備の扱い方は〈念動(サイコキネシス)〉によって操る方法しかないが、それにしては強力過ぎる。

 できるだけ情報を聞き出す。そのうえで戦い方を構築していくしかないだろう。最初の一撃が自分も対象になっていた以上、セシルはそう考えた。

 

 

「恥ずかしがり屋かな? 俺はセシル。魔導国の冒険者だ。礼ぐらい言わせてもらえないか?」

「……リク・アガネイア」

 

 

 セシルは何となく偽名のように感じた。というより今、自分で名付けたようなぎこちなさを覚えたのだ。仮想敵だが、話は通じるのだろうか。

 

 

「リク・アガネイア。先ほど、俺の敵を排除してくれたことに対して感謝する。俺までまとめて潰してしまおうという意図があったにせよ、だ。俺は仲間を助けに行きたい。通してもらえないだろうか」

「……お前は、一体なんだ?」

「どういう意味で言っているのか分からんが。先も言ったように俺はセシル。多少腕が立つだけの冒険者だ」

「力を持つ者には責任が伴う。それだけの力を持ちながら、なぜ魔導国に味方している? いいや、そもそも矮小であろうとしていること自体がおかしい」

 

 

 ……独り言のようだ。とセシルは違和感を覚える。どう答えようが、お気に召さない気がする。だから。こちらから騙すのは悪手だ。素直に答えて、相手が気に入るかどうかだけが重要だ。今、恐らく“蒼の薔薇”と“金鎖”はズーラーノーンの高弟と戦っているだろう。なるべく戦闘は避けたいのがセシル側の意見だ。

 

 

「俺から言わせてもらえば責任が伴う力とは権力のことだよ。強い者が小さな幸せを求めることは、許されないことか? 魔導国と敵対するという考えは俺の幸福を破壊しかねない。力量ではなく勢力が不足している。魔導国が過激なことは理解するが、大虐殺を除けば、一般的な侵略国家だ。第一、正義の味方を気取るには遅すぎるんじゃないか? 俺は。あるいはあなたも」

 

 

 そもそも論で言えば、魔導国に対抗しえる国家など存在しない。魔導国にはレベル百クラスのNPCが幾人も存在する。俺一人が強くとも、俺の仲間は潰されて終わるのだから。

 ……笑って生きていって欲しいんだ。彼女たちには。もうそれだけ苦しんだのだから。

 闖入者との問答がセシルのスタンスを決める。魔導国と争うのは彼女たちを聖王国に戻すときのみだ。それまでは犬にもなんでもなってやろう。

 

 

「なるほど。やはり()()()、間違っている。このような存在を扱うことには無理があった」

「あちゃー、説得失敗かな」

 

 

 ツアーの周りに浮遊していた武器が回転を始める。セシルはシチセイを構えて、手に汗握る。相手はレベル百のプレイヤーと想定して間違いないだろう。だが、セシルはツアーを見ながら、別の存在を思っていた。それは“金鎖”の仲間たち。どうか無事でいてくれと、願いを込めて。

 

 短い死闘を開始した。




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配分間違って三人娘が出なかった
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