【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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男たちの宴

 それはエ・ランテルへの帰り道。ちょっとしたリ・エスティーゼ王国でのこと。セシルは珍しく一人で行動してふと目についた酒場に入り込んだ。それは“かつての世界”でよくやっていたことだが、セシルはもう覚えていない。ただ単に趣味と無意識の間に残っていた。

 

 店内はむさ苦しい肉体労働者がほとんどだった。冒険者、石工、大工……そんな豪放な者たちしか昼間から酒を飲もうとはしないだろう。とにかく席を増やした店で、片付けのためのおがくずも敷いていない。ウェイトレスのような存在も無く、一癖ありそうなひょろりとした男が給仕をやっていた。

 その給仕が机の上にあった銅貨を二枚、さりげなく袖の中に入れたのにセシルは気付いたが、なにも言わなかった。

 カウンターには筋骨隆々とした中年の男がいて、背後には酒樽がいくつも並べられている。

 

 

「セシル! こっちだ!」

 

 

 聞き覚えのある声が聞こえて、少しセシルは驚いた。窓際の丸机の椅子には雑に青く染めた髪の男と、日焼けした少年がいた。そういえばこの国に飲酒可能年齢とかないのだろうか。そんなことをぼんやりと考えながら近づいた。

 

 

「ブレイン。クライム少年。こんなところで会うとは奇遇だな。お姫様の護衛は大丈夫なのか?」

「今日は“蒼の薔薇”の皆様が帰って来ていますから」

「そっちこそいつもの女たちはどうしたよ? 一緒じゃないのか?」

「俺も似たようなものだ。報告は押し付けて来た。リーダーじゃないからな」

 

 

 席に着いたセシルは銅貨を七枚机に載せて、エールの注文を出した。先ほどの細男が通りすがったので、目線だけで止めた。ああした男は鼻が利く。この卓の面子からは何も取れないと理解してくれたはずだ。

 

 

「ブレイン。ここは奢ろう。教わった〈四光連斬〉が役に立った」

「へぇ! 本当かよ! 教えて一月も経ってないんだぞ。どういう習得速度だ?」

「いや実際にやったが三つしか出なかった。いわば〈三光連斬〉だな。生死の境であれだけなら、現時点では俺にアレ以上は繰り出せんだろうな」

 

 

 汚れているのかも不明な木のジョッキが無造作に置かれた。セシルはそれを掴んで半分ほど一気に飲んだ。意外なことに結構、質の良いエールだった。ブレインが来ているわけだと思った。

 

 

「ですが、そんなに早く武技を習得されるとは……やはりセシル殿は凄い戦士だったのですね!」

「殿はやめてくれ。日々鍛錬はしてるが、武技の習熟度はクライム少年とさして変わらんよ。使えるようになってから日も浅いし……美味いな、ここの酒」

「だろう? 個人的にはワインも欲しいところだが、そっちはイマイチなんだよ。それにしてもガゼフの〈六光連斬〉が俺で〈四光連斬〉になり、セシルで〈三光連斬〉になった。アイツの足跡がいかに偉大だったか……だが、まぁ伝わるのはいいことだ」

 

 

 ガゼフ・ストロノーフ。その名は以前の滞在時にも聞いたことがあった。一介の剣士としては会って見たかったと思う。だが、それは叶わない。セシルが所属する魔導国が“大虐殺”で可能性を断ち切ってしまった。

 それを踏まえるとブレインはよくセシルと親しくしてくれるものだ。友人あるいは剣友であったろうに。国と人を分けて考えられる人間なのかもしれないと感じた。

 クライムは良くも悪くも主次第であった。主の敵なら憎むが、味方ならそうではない。ラナー王女は“金鎖”と表向き友好関係を築こうとしているので、クライムも自然とそれにならう。自然と、というところがクライムらしさである。

 

 

「しかし、お前でも生死の境を感じることがあるのか……本当に世の中絶壁だらけだ。相手はなんていう名前だ?」

「リク・アガネイアと名乗っていたが……知っているか?」

「いや……聞いたことがあるような無いような不思議な響きは感じるがな。覚えておくよ」

 

 

 あれだけの戦士が界隈で名が通っていない。そのことは不思議に感じたセシルだったが、正統派の剣士ではなかったしそんなものかと思い直した。

 なにせ武器を浮かせて使うのだ。それもどこかから操って。その視点で行くと戦士ですらない。ただ魔法詠唱者(マジックキャスター)でも無い。何らかの特殊なジョブだろうか?

 

 酒は進んでいき、近況から始まった話は脈絡がなくなり始めた。卓にはいつの間にか()()()も大量に置かれていた。自分で注文したらしい。

 

 

「セシル。あんたも絶壁に感じるが、魔導王を倒せるか? どっちが強い?」

「国王を殺せるか聞くか普通。どうだろうな……あくまで一対一なら六対四ってところか。向こうが六な」

「やはり魔導王の魔法とはそれほどまでに凄まじいものなのですか」

「いや魔法かどうかは関係ない。相性的にも俺が有利だが……それを覆す装備差と対人戦の経験差がある。七対三に修正するかな……あいつが身に着けている装備は一つ一つが最高級だ。俺が持ってるので同じ質はこのネックレスだけだ」

 

 

 二人にユグドラシルのアイテムにおける等級を説明しても意味は無い。なので最高級という言い方になる。神器級(ゴッズ)と呼ばれるのがそれで、レベル百プレイヤーでも一つ持っているかいないかである。

 セシルのネックレスは不動の首飾り(アンムービングネックレス)というもので、一か所に留まる限り、ふざけた速度でHPが回復するという効果を持つ。あまりセシルの戦闘スタイルには合っていないが、これ以上のものは無いので装備している。手に入れたのも完全な偶然だ。

 

 

「やはり差を埋めるには別の要因……武技が重要だな」

「人に教わるのも良いが自分で思いついたものを形にするのもありだぜ。俺が見せた〈瞬閃〉もそうだし、クライム君もオリジナルの武技を持ってる。人のは勝手に明かせないがな……少年、杯が止まっているぞ」

「いえっ、あまり昼からは……いつ、どのようなご命令があるか分かりませんし」

「あ~その辺は、セシルから習うべきだな。見ろ、三人も綺麗どころを連れている」

 

 

 否定はできないセシルだった。ただ、こうして男だけで飲むのもたまさかにはいいものだ。特に、気を使わなくていい相手とは。

 

 

「俺のところは女性陣の方が上だからな……ってクライム君もそうか」

「はっ、いえ、あの……」

「純情な少年には難しいもんだ。身分差ってのは厄介だからな。ただまぁ高嶺の花を目指すのは男らしくもある。これから出世していくんだろう? 王様とそういう約束だったからな」

 

 

 冗談交じりだったが、国王ランポッサⅢ世とブレインはそういう褒美の話をしていた。クライムが貴族位を得る可能性は無いとは言えない。

 だが、そうなれば作法や処世術も学ばねばならぬし……なによりどこまで出世すれば王女と釣り合うのか、考えれば考えるほど前途多難だ。

 そんなクライムの悩みをブレインは笑って見守っていた。上から目線ではない、どこか眩しいものを見るような目だった。

 

 

「女のことなど何もわからんが……きっと上手く行くだろうさ」

 

 

 ブレインはクライムの“男”を信頼している。であるならば、これ以上は野暮かと思い直す。全体的に空気が落ち着いたようであった。

 

 

「馬鹿話もいいが、真面目な話。俺たち三人ともそれぞれの理由で腕を上げなきゃならんようだな。俺はどこまでも自分本位だが」

「結局はそこに行きつくだろうさ。俺の三人のためにっていうのも、自分勝手だしな」

「私は主君に恥じぬよう」

 

 

 戦う理由が違う以上、いずれ衝突することもあるかもしれないが、今だけはただの飲み仲間だ。

 男たちは最後に残ったジョッキをぶつけ合った。

 




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セシルとお骨様の戦力差は主観+アインズ玉とか考慮していないので
答えは貴方の中に…
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