セシルは自分を善悪で分ける資格は無いと思っていた。それは確かにその通りで、彼が助けなかった者の数は助けた者の数で比べると桁がいくつも違う。
他の転移してきたプレイヤー達とも違う生き方、傍観者を選んだのだ。セシルの内面はちゃんと善悪を分けているが、判断に困ることが多すぎた。
例えば誰かを助けたとして、その人物が誰かを害すれば、その責任はセシルにあるのだろう。もちろん、直接手を下した人物は悪いが、間接的にはセシルも加害者だ。
ユグドラシルの肉体という大きすぎる力。それを持て余していたとも言える。
(へー、世間はそんなことになってるのか)
(いや、俺も説明を聞いてて気付いたんだ。あ、デミウルゴスとかアルベドには内緒だぞ!)
(誰だよ。それにしても、そんな長期的な考えで戦略って動くんだな。どうやって考えつくんだ?)
(今更そんなこと聞けない……)
ゆえにアインズ・ウール・ゴウンがどこかの国を害そうとも、関わりの無いことだ。こうしてたまにその愚痴を聞くだけで、人道にもとるから辞めようなどとは口が裂けても言わない。
そうした意味でセシルはアインズにとっても貴重な人間だった。
(あ、こっちも盛り上がってきた。切るぞ)
(ああ、また明日)
(明日もかよ)
今、セシルは仲間が依頼を達成しようとしているところを眺めているところだった。本来、金級冒険者は受けられない大森林から出てきたマンティコア退治だ。マンティコアは奇妙なモンスターで、蛇の尾を持つ獅子の胴体以外にそれぞれの共通点は無い。
人面をしているものもあれば、そのまま獅子の顔をしているものもいる。面白いことにコウモリの羽を持ち飛ぶ個体までいるのだ。
大森林の深層に生息している彼らをなぜ、我々が相手しているかというと
「……レメの方が強いじゃん」
誘ってきた冒険者たちはカルカ達とお近づきになりたくて、こちらに依頼を持ちかけてきたのだろうが、向こうの前衛よりレメディオスの方が明らかに強い。加えて信仰系のマジックキャスターも二人いる。盾として落ちる可能性は微塵もない。
冷静に周囲を判断できるのはセシルが何もしていないからだ。レメディオス曰く
「お前がいると経験にならん!」
のだそうだ。日頃は訓練兵と呼ぶ割に随分な言葉である。だが、この調子なら心配する必要は無かった。当初は
「〈聖撃〉!」
「あ、終わった」
レメディオスのスキルが決まり、マンティコアはどうと倒れた。とどめにケラルトとカルカが放った
戦闘が終わって小休止。セシルはレメディオスの剣の輝きをなんとなく聞いてみた。
「そういえば、レメの剣って変わってるよな」
「今更か? ふふん、これは四大聖剣の一つなのだ。お前のような者には偉大さがわからなかっただろうがな」
「へー、まぁ俺の剣も中々だぞ?」
「変わった形の剣ですよね。カタナというものですか?」
「カタナはカタナだが、直刀という種類だな。まっすぐしていて反りがない、古いタイプだ。シチセイと名付けてある」
「戦士の方々は武器にこだわりますよねぇ」
セシルは鎧を貸したが、カルカとケラルトは杖も持っていない。今度も何か貸すべきだろうかと思うが、物騒な棘の付いたメイスぐらいしか無い。ここから先は自分で買っていく段階だ。また、そうした準備は楽しいというのもある。
そうした先を考える楽しみに水をさす声があがった。
「けっ。良いご身分だぜ」
「お強い嬢ちゃん達に囲まれて、自分は震えて見てるだけかよ」
「……俺か!?」
「なんでそこで驚くんでしょーか」
「セシルさんって変に鈍いですよね」
「まったく、こそこそと陰口とは情けない。おい、お前達。言っておくが、腹立たしいことにこいつは私達より強いぞ。手を借りないで戦う訓練をしただけだ」
ぶつぶつとした不満を背に浴びながら、セシル達はエ・レエブルへと戻っていった。
酒場で夕食を摂っていると、酒も入り雰囲気も明るくなる。セシルは食べながらぼうっと考え事をしていた。
「白の蛇、蒼の薔薇、四武器……俺達ってチーム名無いよな」
「確かにそうだな。不要だと思っていたが……」
「ここはやはり、リーダーであるカル様に因んで名付けるべきでしょう」
「えっ私ですか? ケラとレメにセシルさんのほうが特徴があると思いますが……」
「混沌とした名前になりそうだな。やはり、カルに因んで名付けた方が良いと思う」
全員で悩むことしばし、これといった案が出てこないのはケラルトとレメディオスはカルカの良いところが浮かびすぎるのだろう。
「カルの特徴っていえば、やっぱり髪じゃないか?」
金色の膝下にまで伸ばしている長い髪。時折、艶と光ってさえ見える。それだ! とレメディオスとケラルトも頷いた。チームに名前を付けるなら内面より外面だろう。
こうしてチーム“