【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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スコーチ村の視察

 エ・ペスペル北西のスコーチ村。何の変哲もない田舎の村である。王国の税率は高く、国の方針で育てている小麦は収穫期になるとほとんど持っていかれてしまう。こうなると村としても、無策ではいられない。生き残るためにはどんな手段も使った。幸いなことに村長は反骨心を持てる人間だった。

 そして今、村長は震えを抑えきれずにいた。まさか領主が視察に来るなど思ってもみなかったのだ。そして、副業の一つは証拠を握られている。

 

 

「スコーチ村の村長か。新しく領主代理に就任したセシルという。だが……随分と苦労する地にある村だな」

「……え、ええ。こんな辺鄙なところまで来られる領主様は初めてです」

 

 

 見たこともない素材で作られた装備を身にまとった領主代理という男が乗る馬には、人間の首がいくつもぶら下がっている。村長は意識しないよう努めたが、それでも視線は時折それを見る。()()()()()()()

 スコーチ村の副業はいくつもあるが、その一つ。猟師たちに旅人を襲わせることだった。少数であればあるほど良い。たとえ素寒貧の人間であろうと古着が手に入るのだ。猟師たちにとっても、獣を狩るより容易い。

 ただ、それでも大所帯や冒険者は襲わないようにしていたはずだ。どこで間違えたのか。このままでは人数が足りないことに気付かれてしまう。村長は()()()()()子どもたちを人数分出すよう指示した。

 

 

「あなたたち、ここでの暮らしを私に教えてください。子どもはこれで全員?」

 

 

 はっと村長は振り返った。今まで猟師たちの末路に気を取られていたが、その横には聖女のごとく煌びやかな女がいたのだ。彼女はその印象通り慈愛に満ちた顔で、子どもたちの集まりを見て、語りかけていた。

 そのカルカに裏表などない。純粋に生活を良くするべく、聞き取りを行っている。カルカとてかつて為政者だった過去がある。ゆえに知っている。貧しい村では子どもというのは使い捨ての道具であるということを。

 カルカは別に村長や村を罰したいと思ってはいない。だからこそ厄介なのだ。現実を知られれば、変化が起きる。

 

 

「領主補佐官のカルだ。彼女は手厚い支援などが得意でな。まずは人数の確認などを行いたいのだろう」

「あ、あ、う、それは……それはなによりです」

 

 

 カルカは子どもたちに優しく語り掛けて、情報を聞き出している。貴種に生まれた人間も出来は様々だが、これは誰もが持っているという能力がある。人の名前を覚える記憶術だ。

 カルカが何気なく会話している間に、この場にいない子どもの名前が混ざっているのを記憶している。話し終わるまでに苦しい生活のことや、隠されているであろう子どもたちの人数も把握した。

 村長はなんとか介入しようとしたが、それは途中で止まった。子どもたちも顔が引きつる。セシルとカルカの護衛、デス・ナイトたちの姿が目に入ったからだ。

 

 分かりやすい怖さというのがある。実際にはデス・ナイトが何百何千といようが、どうともないだけの力をセシルは持っているが。素人にはそんなことは分からない。

 だがデス・ナイトは余りにも分かりやすい恐怖だった。黒い甲冑、常人を遥かに上回る背丈、憎しみに満ちた眼光。それらをアンデッドが持っている。それを前に一体何が言えるだろう。

 

 

「ああ……魔導国の兵たちだ。俺の指示がなければ殺されても動かんから、安心してくれ。ってハハっもう死んでるんだったなコイツら」

「ハハ……そうですな」

「代官による調査は済んでいるんだったな。村長、()()()()は無いか? なに、そうしたことはよくあるものだ。調査自体大雑把なものだからな。それと、たまたま子どもたちは遊びに行っていたとかもな」

「ハイ……ああ、いえ実は新しく納屋を建てたばかりの頃なので案内人が忘れていたかもしれませんな。ご案内いたします」

「そうだな。例えばそこの建物とか……戸が随分と雑な作りだ。デス・ナイトに開けさせようか」

 

 

 セシルが指を向けた建物に、デス・ナイトは前進する。そして横滑りの戸を力任せに取り払ってしまった。中から出てきたのはみすぼらしい服を着た子どもたち。戸を開けたデス・ナイトの威容に恐慌状態に陥って、走って散り散りに逃げてしまう。

 

 

「村長、視察には村人全員の参加が必要だったな」

「お、お、お許しくださいぃぃ! このような辺鄙な村ゆえ、我らは、我らは……っ」

「山賊稼業、使い捨ての子どもたち、隠し食糧庫か」

「は、はい……」

「許せない点は二つ、山賊稼業は完全に犯罪だ。それと使い捨てる子どもたちの境遇」

 

 

 村長の目が憎しみを帯びていく。何を上にいる者が語っているというところか。気持ちは分かると、セシルはぼんやり思った。馬の上から言われたのではそりゃ憎らしいわな。

 横を見るとカルカが逃げた子どもたちを集めている。彼女もあれでアダマンタイト級冒険者だ。子どもが逃げられる存在ではない。

 

 

「山賊は既に処罰済み。指示役にも相応の責任があるが……見逃していた代官という存在がいる。急な変更はかえって毒だ。この一年ぐらいは同じ税率になるが、必要なものがあるなら正式に新しい代官に書類で申告すること。山賊稼業は永久に停止。遺体には神官を列席させた葬儀を行え。子どもたちにも十分な食糧を……それが不足するようならそれも代官に申告していい。まぁ隠し食糧でどうにかしてほしいところではあるがな」

「……は? い、いえ、それだけでございますか?」

「本来ならお前の首ははねている。だが簡単に降りるのも許されん。一年で魔導国の法を理解した後継を育てたのち、引退。これも全て書類で提出」

 

 

 恐ろしいアンデッドの国が情を見せている。王国の政治より余程善意に満ちている。王国では貴族が全てだった。だが、魔導国では魔導王が全てなのだ。

 

 

「山賊稼業と子どもの境遇改善については、改善が見られない場合……村をお前たちごと更地にしてやる。いいな? 俺の権限でできる情状酌量はここまでだ……村長、お前がやらなくてはならなかったことは理解している。以上だ」

 

 

 こうして魔導国の視察は終了し、セシルたちは帰路についた。賊の首は置いてきた、それにすがりついて泣く者たちの姿も見た。あの村の所業であれだけは許容できる範囲にないのだから。

 

 

「悔いていますか? 死者を出してしまったことに対して」

「いや……うん。ああ、そうだな。捕まえるに留めることもできた。だが、王国の法でも魔導国の法でも、擁護できる知恵は俺にはなかった」

 

 

 カルカの問いに対して複雑そうにセシルは返した。これがケラルトなら、あるいは抜け穴を見つけられただろうか? だが、人を殺すことを覚えてしまった者は、選択肢に殺しが入るようになる。セシルはそうさせないようにする説得力もなかった。

 手綱を握る手にカルカはそっと横から手を添えた。

 

 

「彼らを処罰するという選択も私には取れませんでした。セシルさんはその分の責任を受け持った。誰かには別の選択ができたかもしれませんが、あなたはあの場で最善を尽くしたのです」

「そう、か……そうだな。今更の話だ」

 

 

 少しは気が晴れる。これからは領主代理として、人を裁かなければならない時もくるだろう。戦う術を持たない者を斬る日もくる。ならばせめて彼らに恨まれる覚悟だけはしておこう。

 アインズが言っていた同じ苦労というのはこうしたことだろうか? 一国の王ともなれば責任ははかり知れない。ああ、あの男も色々悩んでいたのだろう。

 

 しかし、この頃はこうした悩みが増えたように思う。丁度武技を覚えた頃から……何か関係があるだろうか。

 

 

「早く帰ってカルの茶とケラの菓子が欲しいな」

「ええ。濃い味にしましょう」

 

 

 クーデリカとウレイリカが苦いと言うだろうな。そう、茶に砂糖を入れるように、自分なりに少し変化を加えて統治しようとセシルは決めた。

 




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