【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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 はぁ? そう間抜けな声を出したのは意外にもケラルトだった。彼女はあらゆる問題を片付けてきた実績があり、そこには当然、情報の把握も含まれていた。それはこのエ・ペスペルでも遺憾なく発揮されていて、多くの問題が彼女の手で処理されている。

 だからレイナースの報告はそれほど意外だったのだ。セシルはその動揺を理解するのにたっぷりと時間をかけた。レイナースの報告は簡潔なものだった。

 

 

「南方にて岩塩鉱を発見しましたわ」

 

 

 それは小さいがあり得ないことだった。時間というのは止まるものだなと、呑気にセシルは思った。

 

 

「はっああ? レイナースさんが冗談を言うなんて珍しいこともあるものですね」

「いえ、お師匠様たちが視察をされている間、訓練を兼ねた遠征で南方に出向いた時に発見しました」

 

 

 レイナースは簡単な図のようなものを執務室で広げた。それは地下に刻まれた傷のように見えた。場所はアベリオン丘陵の近くの小さな山だったと言い。そこまでの簡略化された地図もあった。

 誰も手を付けていないらしく、実際に掘れるようになるまでには時間がかかるであろう。

 

 

「いやいや、待ってください西方にあるのは“真水の海”なんですよ。地理的にあり得ないでしょう!?」

「そう仰ると思って軽く削ってきましたわ」

 

 

 流石にそのまま口に運ぶ者はいなかったが、確かにピンク色交じりの破片だった。

 

 塩。まぁそのままだが、人間にとってこれほど必要なものもそうは無いであろう。だからこそ塩は国家間で協定まで結ばれて、価格を調整されてきた。

 この世界もとい人類生息圏では基本的に海がある東側寄りで採掘される。あるいは海水を干したものか。元は海であった場所が隆起して塩鉱になるので“真水の海”近くでは取れないはずである。

 リ・エスティーゼ王国や聖王国ではそこそこ貴重だ。野菜や肉で間接的に摂取できるので、死にはしないが、やはり味付けとしても基本である。

 

 

「まぁ、なんで西側で採れるかはともかく、いいことじゃないか。探していた特産品になるし」

 

 

 大体この世界の海がどうやってできたかなど、知られてはいない。セシルのかつての故郷でもなぜか山の泉から出たりもしていたので、別に不思議ではないというか不思議で構わない。

 

 

「本当に採れるのか見にいきましょう。セシルさんが初期工事をしてしまえば、大分時間も短縮できますし。剣とつるはしってどちらか効率的なんでしょうね」

「こういうことに使うのもどうかと思うが、つるはしだと道具がもたないから剣でいいと思う」

「ぬぅ、私はまた留守か」

「ではご案内しますね」

「疑問を持つのは私だけなんでしょうか……採れた場合、どうするか調べておきますね。魔導国自体が塩の協定に参加するかどうかから調べないと……鉱夫募集はともかく、工事の経験がさすがにありませんね……バハルス帝国のやり方を参照して……」

 

 

 一番疑問を呈していたのを置き去りに、一番思索にふけり始めたケラルトを置き去りにして一行は当の鉱山に出かけて行った。次に市中の見回りの際に、職をなくした人がいないか目星をつけておくようレメディオスにカルカが指示を出す。

 セシルは慈善事業か、とは言わなかった。岩塩鉱山の人夫とは、肉体以外持っていない奴隷が行きつくというほどきつい仕事なのだ。ならばそれを緩和するのが自分の仕事だ。有り余る力で形を作るぐらいのズルは許されてもいいはずだ。

 

 

「この者たちとご案内いたします」

「レイナース隊か、期待している」

 

 

 領主に話しかけられたことなどない彼らは、しきりに恐縮していた。元は落ちこぼれの集まりが、ここに来ての大発見である。もっと偉そうになっても良さそうだが、卑屈が染みついているのだろう。

 セシルはご苦労ともお疲れ様とも言わなかった。お疲れ様というほど馴れ馴れしくはないが、ご苦労と当然のようにするのを嫌った。その辺りの塩梅はカルカに任せるに限る。

 

 

「皆様、今日からしばらくお世話になります。領主補佐官のカルです」

 

 

 輝く美貌で旅人姿をしたカルカが挨拶すると、まだ若い彼らは可哀そうなぐらい真っ赤になった。まるで抜け出す姫君を護衛するような気分になり、馬に鼻息荒くまたがる。

 

 

「レイナースで慣れてないのか?」

「何のお話ですか」

「美人の話」

「……そうやって誰彼構わず褒めるから、お三方が固めるのですね。出発!」

 

 

 セシルたちも馬に乗り、歩くような速度で進み始めた。速度を出しても馬がもつわけがない。探索行は暇との戦いになった。セシルはもっぱらレイナース隊の面々と話して過ごした。おかげで最初の挨拶など意味がなくなり、新しい領主様は気さくな方だと思われてしまっている。

 レイナースは同じことでも何度も説明してくれたり、コツを惜しげもなく伝えてくれたりして慕われているらしい。ただ、隊の誰も武芸で勝てないので恋愛感情は畏敬の念へと変わり、厳しい母親役として認知されている模様。

 カルカはレイナースと互角以上に強いと教えたら、どんな顔をするかなと思ったが、口には出さないだけの良識はセシルにも備わっていた。

 

 そんな日をなんどか繰り返し、小山が連なる場所へとたどり着いた。レイナースの案内で少し亀裂の入った山を見ると、ピンク色のまだら模様がある層が確かにあった。

 

 

「確かに。問題は埋蔵量だな……落盤した時に俺以外、命の保証ができん。レイナース、皆に少し離れるよう伝えてくれるか」

「はい。武技を使いますので?」

「日頃の訓練がこんなところで発揮されてもいいのだろうかとは思うがな」

 

 

 レイナースは大人しく下がって、部隊に告げた。

 

 

「領主代理様が武技を使われる。危険なため、距離を取る……だが、しっかりと見ておけ。アレが人類種の最高峰に位置する戦士であるということを」

 

 

 妙に持ち上げられていることを知らずにセシルは〈斬撃〉を起動させる。瞬間、元の亀裂はその大きさを数十倍にも広げた。そこまで深くさらけ出されても、山にはピンク色の層があった。紛れもなく当たりである。セシルは皆の所に戻ってこの功績を称揚した。

 価格や販路はエ・ランテルとも話し合う必要があるだろうが、寂れたエ・ペスペルに新たな産業ができたのだ。新しい金鉱山が見つかったに等しい。

 

 

「と、いうわけでしばらく俺自身が駐留する。マトモな守備兵をいくらかこっちに回してくれるよう、レメに相談してきて欲しい」

「まぁ見た目だけでも数を揃えておかないと、ちょっかいをかける連中が出ますものね。分かりましたわ」

「カルも一旦戻っていいぞ。書類ができるのはまだ後だろうし」

「いえ、セシルさんが残るなら私も残ります」

 

 

 何で? とは言えない妙な迫力がカルカから発せられていた。カルカならいても邪魔にならないのは確かだったが。

 レイナース隊は来たときより速足でエ・ペスペルに戻っていった。その間にセシルは出来るだけ工事を進めておくことにする。とんでもない領主がいたものである。

 

 

「〈貫通〉と〈斬撃〉を使い分けて。綺麗に掘るか……カルは何かリクエストはあるか?」

「そうですね。手押し車が使えるよう斜面はなだらかにした方が良いと思います。大まかな穴はセシルさんがあけるにしても、補強工事をするスペースの確保も考えましょう」

「よし、と言っても俺の力だと十トンぐらいずつしか動かせないか? もうちょっと行ける気もするな。試していこう」

 

 

 こうしてセシルが刻んでトンネルを作り始めた。本格的に工事が始まるまで自分で落盤を受けること六回。鉱夫たちがやってくる頃には、とりあえず穴はあいていた。

 エ・ペスペルの塩産業は西の交易路に大きく変化をもたらし、本国も注目することとなる。なお、逃げ出した前領主は王都内でさらに立場を悪くしたとか。




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真水の海を地図で見て海上都市が随分と東にあるのもあって
この世界どうしてるんだ…と考えた浅知恵です
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