カルカたちによって、強制的に休みを取らされたセシルは、結局ウレイリカとクーデリカの面倒をみて過ごした。ここの仕事は忙しすぎて、二人に構ってやれる時間は限られている。なのでまぁ良かったのだろう。他の連中にもなるべく二人と過ごして欲しいところだが、難しいだろう。かといって放置すれば、人質にでもされかねない。護衛をつけなければ外にも出れないのが現状だ。
それを乗り越えるには結局仕事だ。治安のいい街にすれば、それほど腕がたたない者でも護衛を任せられる。
「うーん。孤児院、託児所、病院。必要なものは山ほどあるのに塩鉱山を終わらせないと、手が付けられない」
「まぁ、どれにせよ日常業務の合間で進めるしかないですけどね。文官志望者来ませんねぇ」
「それは……というか、それも前任者の影響ですね。教育にも無関心だったので、それぞれの家庭に任せきりでしたので。私塾も建設予定に入れておきますか?」
「最終的にはな。学校があるバハルス帝国が羨ましい。俺は午後から道づくりの方に顔を出すから、材木店の方を任せる」
「では、その分の埋め合わせは私が」
ソーントンとケラルト、カルカを残して出ていく。エ・ペスペルにも活気が出てきた。鉱夫募集を嗅ぎつけてきた男たちが集まると、それに合わせて女たちもやってくる。ただ、彼らは一時的な雇用者という面が強い。欲しいのはやはり、ここに骨を埋める覚悟でくる人々だ。元々リ・エスティーゼ王国には貧困層が多い。それが少しでもこの地に流れ着いてくれたならと思う。
そのためにエ・ランテルのようにアンデッドを大々的に闊歩させたりしていないのだから。もちろん、ここも既に魔導国である以上、亜人種や異形種も受け入れなければならない。そのための交流の場なども設けなければならない。
とまぁ未来への展望は数あれどまずはエ・ペスペルを富ませなければ。
セシルはトンボとクワが合体したような道具を持って現場へと向かう。ただの貧しい土地にしか見えないがここに道を作っていかなければならない。それもできるだけ塩鉱山とエ・ペスペルを直線で結んでだ。測量員がいない以上、ある程度の誤差は仕方ない。代わりに道を広くとって余裕を作る。
「ご領主だ」
「領主様ぁ今日も一発かましてくだせぇ!」
半裸の男たちからエールを送られ、微妙な気分になりながら手を振る。代理だって、という説得は初日で無駄と悟った。
トンボもどきを地面に突き刺し、引っ張るとそこにあった雑草ごと地面が均等に抉りとられる。そこに男たちが群がり石の類を拾い集めていく。地味な仕事だが、中腰になってやるため結構な重労働だ。
本来は、人足に任せきりの方が仕事が増えるのだろうが、塩鉱山はエ・ランテルも絡む大事業だ。向こうが準備万端でこちらはまだ、という事態を避けなければならない。そこでセシルが出張ってきて工事を進めている。
実際、比較的目立つ場所にあったとはいえ、馬でいかなければならない距離がある。
(途中に村がいくつか建つかもしれないな……)
となると水場がどうしても必要になる。セシルはトンボを引きながら考える。
水は男たちが樽で持ってきている。それを桶で豪快に飲むのが彼ら流だ。これを解決できたら工事も速度が上がるだろう。
つまりは井戸掘りだ。塩鉱山が近くなると塩井戸になる可能性が高いのでこのあたりでいいだろう。そう思いながらセシルは道をつくり続けた。新たな武技でも閃きそうだ。
そして、夜。
「というわけで、やっていこうよ。井戸掘り」
「お前一人でいいんじゃないか? 泥仕事なぞ私は慣れていないぞ」
「レメは俺が出した土をどこかへ持っていく役目だよ。一人じゃできんのよ、この仕事」
「まぁ構わないが……私がいる方向に土を投げるなよ。一応ロープは持ってきているが、下からは〈
「まぁその予定だけどあっさりと出てくる可能性もある」
井戸が掘れる地形は他より窪んだ平野地。木が立っていると確率が高い。目当ての地形を探すのに、小一時間ほどかける。
「このあたりか。確か柳の木が立っていると良い場所だとか」
「お前がこのあたりに土を投げて、私はこちら側から土を運ぶのか。この一輪車というのはイライラするな」
「感想が斬新過ぎる。では始めますか」
「いや待て、シャベルで掘るより、武技で穴をあけた方が良くないか?」
「〈斬撃〉だと範囲が広すぎる。〈貫通〉だと穴が小さすぎる」
「武技はイメージだ。独自の武技を持つものはそれに集中力を発揮して発動させる。いいからやってみろ」
言葉に従ってシチセイを抜く。そしてイメージだ。穴掘り……穴掘りのイメージ? と考えたところでふ、と昔の記憶が蘇ってきた。穴掘りといえばアレしかない。そして水を掘る調査に使われるアレも一緒だ。
刀と腕に力を移していくイメージと対象に与える衝撃。集中力は六つの内三から四。人間の腕では絶対に不可能な動きである以上、衝撃波を放つ感じを刻み込む。
「〈
イメージしたのはドリル。奥深くに行く動きと、周囲を巻き込む感触が難しい。
レイナースが抱いた脅威は当たっていた。セシルは理屈が通ってしまう攻撃をそのまま武技にできる!
恐らくは剣も魔法も使うビルドのために、漠然とした力を形成するのが上手いのだろう。ただし、少しでも方法に疑問を抱いてしまえば、発動できなくなるものの、そんなものはデメリットのうちにも入らない。
皮肉なことにプレイヤーでありながら誰よりも、“この世界”の力を使うのが得意というのがセシルという男だった。
貫いた一撃は百メートルにも達していた。岩盤層が穿たれて、中から水がふき出てきている。成功だ。その偉業を前にしたレメディオスは。
「おい……どうしてくれる。土まみれだ」
「中央にいた俺はどうもないな。うわっ! 石を投げるな!」
「まったく……まぁ中々の武技だった。これができて〈空斬〉ができないのはわけが分からないが……」
「配管は専門家に任せよう。とりあえず水をエ・ペスペルから持ってくる必要はなくなるかもしれない。ありがとう、レメ」
「お前はいつまで経っても私の訓練兵だな」
翌日。井戸を掘ったことを伝えると、ケラルトは驚き半分、嬉しさ半分というところだった。一日で井戸ができるなどスピード工事にも程がある。
「位置的にもまぁ悪くないですね。欲を言えば中間点にも欲しいところですが、塩が混ざるかもしれませんね……まぁ塩井戸は塩井戸で用途がなくはないんですが、今度は石工に依頼して内部を整えさせましょう。しかし、セシルさんの力は劇薬です。本当に急いでいる時以外は頼らないようにしましょう」
「俺がやると肉体労働の機会が激減するからな。金は天下の回り物だ」
「そうですね。楽をした分、領主館に金が貯まっていきます。収入が減って、依頼を多くしている今年度はいいですが、一般階層の仕事を奪います」
その時、ズズっとカルカが今日の書類を持ってきた。昨日丸ごと外で作業したので、決済印がたまっているのだ。ケラルトがパンっと手を鳴らした。
「さぁ領民のために、今日の書類を片付けましょう。特に僻地の陳情書がたまっていますからね! 場合によっては領主代理をやりましょう」
「頑張りましょうね。セシルさん」
カルカの満面の笑みが怖い。その時理由がようやく分かった。
「待て、夜にレメだけ連れて行ったのは力仕事だったからで、他に意図は……書類を増やすな!」
折角休みを取った後だというのに再び徹夜の毎日がやってきたセシルだった。
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世界地図はいくつかありますが、川の位置とか載ってないんですよね