【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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いつもの愚痴

 セシルは再びナザリックの部屋に飛んだ。もう慣れたものだが、今日は違う意味で緊張してしまう。こちらから連絡を取るのではなく、久しぶりに招かれたのだ。

 あらためて見るとナザリックの廊下一つで、自分の領主館との違いに驚くものだ。カーペットやタペストリーは一般的な城では石材による寒さ避けだが、ここでは単純に飾りだ。調度品も文字通り桁が違う。

 

 

「遅かったな、セシル」

「申し訳ございません。魔導王陛下」

「やめてくれ……寒気がする」

 

 

 用意してあった珈琲を飲むと、何とも言えない郷愁が感じられる。これ一つで抜け出せなくなるようだ。チョコレート菓子も同じく、他では味わえないものだ。“この世界”は“かつての世界”にあって当然のものが無さすぎる。不便と言うと申し訳なく思うセシルは既にこの世界の住人だ。

 

 

「それにしても……今回の件、非常に助かったぞ。まさか塩とか。塩なんてあって当たり前だから全然気付かなかった。これでひと息つける」

「事務作業的な意味でこちらもひと息つける……財政難なのか? こんなところに住んでいて」

「ユグドラシル金貨は使いみちが多すぎて流通させられない。この世界の金貨となるとまだまだ潤沢とは言えないな。帝国や王国にくださいっていうのもなんか嫌だし」

「感情論かよ」

 

 

 セシルからすると奇妙なことだが、アインズはナザリックの宝は何一つ売るつもりはない。それら全てが思い出の結晶だからだ。

 ゆえに他国で略奪めいた真似をしているわけだが……宝物一つ売っても国家運営にはまるで足りない。それに循環が上手くいってマイナスゼロでも、途中で流れが止まることもある。やはり定期的な収入は不可欠なのだ。

 といっても魔導国ではアンデッドを使った農業と鉱業があるので、時間と共に落ち着くかもしれない。あくまで現時点での領地ならば。

 

 

「その調子じゃエ・ペスペルへの援助は期待できないな。大都市なのに学校もないんだぞ」

「エ・ランテルも負けてはいなかったぞ。ここでユリたちが開いてからだ。王国は身分制度が厳しかったからな」

 

 

 知恵というのは力だ。農民が税に詳しく、計算ができるなら思うがままに奪えなくなる。ゆえに学ぶ場所自体を奪うというのも当然の発想か。

 そこいくところナザリックの身分制度は特殊だ魔導王が頂点で、階層守護者が次。あとは領域守護者か……それ以外に何もない。身分制度に関係なくナザリック出身者は手厚く保護されるものの……ここの連中はアインズのためにする苦労最高! と考えているため、あまり機能していない。

 

 

「ところで、塩の取引額だが……六対四だ」

 

 

 聞いているだけで分かるが、エ・ランテルが六でエ・ペスペルが四だ。まぁ最悪、八対二も想像していたので意外と普通というのがセシルの感想だ。

 

 

「同じ魔導国……五対五としたかったのだが、バハルス帝国にも送って出方をみたい。いいだろうか?」

「いいだろうも何もお前の国だ。と言いたいところだけど王国との貿易をちょっと緩めて欲しいな。こっちは諜報員がいないから、向こうから仕掛けて欲しい」

「そうか。こちらに集中しているからな。そういうことなら……シャドウデーモン!」

 

 

 アインズの声に応じて、影が五つ集まる。黄色い目をした、小さな羽のついた悪魔たちだ。シャドウデーモンは闇に溶け込む能力を持つ隠密能力の高いモンスターである。

 

 

「以後、セシルの指示に従え。私に仕えるようにな」

 

 

 後半の発言に少し不服そうな気配を発しながらも、シャドウデーモンたちはセシルの影に溶け込んだ。名前が無いのでどうやって区別しようか、などとセシルは考えていた。

 

 

「とりあえず、これでいいだろう」

「持て余さないよう努力する。ああ、そういえば塩の件ならビーストマンの国とトロールの国を調べてみればいいんじゃないか? 人間から摂取するにも限りがあるだろうから、塩の採集所があるだろう」

「いい案だ。だが、こちらも人手不足でなぁ……冒険者は思ったように集まらないし、忠誠心高い人間は出てこないし……プレアデスでなんとかなるかなぁ……」

「そういうところの悩みは一緒なんだな。こっちは文官が足りない」

「あ! それはこっちもだ! 採用しても青い顔で辞めちゃうんだよ!」

 

 

 それはアンデッドを近くで見ないといけないからでは、とセシルは考えたが、実際には仕事を奪うなというNPCたちの無言の圧力によるものである。

 エ・ランテルはアンデッドを多用するためエルダーリッチを教育して代用している。だが、エ・ペスペルではそうしていない。モモンがいないことになっているということは、エルダーリッチにも逆らえる存在がいないということに繋がる。そのためデス・ナイトも日頃は出していないのだ。

 

 

「それにしても……セシルは俺と同じかと……ではなく問題が起こっても、自分でなんとかできるんだな。正直、ここまで上手くやるとは思っていなかったぞ」

「言わんとすることは分かるが、俺はできないと素直に言える環境だからな。できるとしか言えないお前とは根本が違うよ」

 

 

 セシルは内心で、アインズは若干自業自得だと思っている。これまでに素直に話せる環境に帰られる機会はいくつもあったはずだ。だが、見栄を張って台無しにしてしまっていた。ただ、気持ちは分かる。期待にそえないことに対する恐怖は誰もが同じだ。

 セシルとて戦士としては最高峰と見なされているが、大体その場で否定している。それでも期待されていることには気付いている。だが、実際には同格が二人以上相手になれば、それだけで破綻するだろう。

 そして、ナザリックは階層守護者という名の札を持っている。数で叩かれれば終わりであり、それが聖王国に帰れない理由にもなっている。

 

 しかし希望は潰えていない。武技という伸びしろを得たセシルはただのプレイヤーとは異質な存在だ。武技の習得に関しても完全な方法は伝えていない。

 その力であの三人を、いつか聖王国へ返してみせる。そのためにもエ・ペスペルの領主代理というのは悪くない地位だ。命令がなくとも、ある程度他国と交流できる。まずは王国の戦士たちの武技を盗ませてもらおう。

 

 

「さて……そろそろ戻らないと、マズいんじゃないか?」

「そうだな。今日は長い一日だった。また今度ゆっくりと話そう」

「仕事の話だらけになりそうだな……ごちそうさま」

 

 

 セシルは後ろに開いた〈転移門(ゲート)〉を潜ってエ・ペスペルに戻った。さて、また明日から忙しい日々が始まる。多くの人が行き来する国にしようとセシルは決意を新たにした。

 

 

「とは言ったが、本当に人通り多いな」

「そうですねっと。まず鉱夫に適正な給金が支払われる国自体が稀ですからね。ドワーフの国は知りませんが……魔導国と契約した傭兵団も護衛のために来てますから、そりゃ人も多くなるってものです」

「そうなると、ケラ。今度は娯楽施設が足りないんじゃないか?」

「うっふっふ。備えは万全です。今日は酒場などの営業認可の採決が待っています」

「監査は?」

「姉様が行ってきた店だけです。完全に新規開店を目指す施設は土地利用許可からですから、忙しくなりますよ」

 

 

 唸り声を一つ、セシルは外から領主館へと戻った。土地の登記書が面倒なのは“かつての世界”も今の世界も同じだ。紙質から指定が入っている。こうしたところは簡単にした方が良いのかすら悩ましい。複雑だから機能する制度も多いのだ。

 こうしたところは首都の長だったカルカが頼もしい。

 

 

「ただ……魔導国式に変える必要があるので、完全には使えません」

「とりあえず王国式でいいや。併用されているし」

 

 

 少しでも時間を作るべく、セシルは気合を入れて仕事を始めた。




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