ギガントイーグルは後悔していた。普通はアゼルリシア山脈の上空で獲物を待つが、より低い地の方が獲物を取りやすいことに気付いた狡猾な個体だった。
事実、地上の生き物は容易く捕食できる存在がほとんどで、獲物も数多い。中でも爪や牙のない種族は最高の餌食だった。自慢の大鉤爪であっさりと捕まえることができ、大きさもそれなりにあって美味だった。
だから、その日も同じ種族を見つけて捕らえようとしたのだ。鉤爪が肩にかかる瞬間、口に血の味がいっぱいに広がった。まだ食らってもいないのに、おかしなことだ。それほど楽しみだったのか。
次第にギガントイーグルは違和感を覚えた。首が動かない。翼も機能せず、地面を這ってしまったようだ。湧き上がる屈辱の中、あることに気付いた。
首や翼が不調なのではない。そもそも付いていないのだ。
「証拠はこれでいいな」
持ち上げられ、獲物だったはずの存在と目が合う。ああ、こいつは違う。獲物にしていた種族に似ているが、鋭い爪を持つ別種なのだ。手を出すべきではなかった。後悔の中、ギガントイーグルは息を引き取った。
セシル達“金鎖”は
セシルは勿論だが、他の三人もそれぞれ実力を示している。カルカやケラルトは負傷したチームの救援で多くのチームを救い、レメディオスはマンティコアを一対一で倒している。元々が冒険者にすればアダマンタイト級なので当然かもしれないが、大きな脅威などそうそう現れる訳もなく、地道にやるしかなかった。
「というわけで昇格祝いだ!」
酒場でレメディオスが騒ぎ出した。と言っても、他の冒険者から敵意は飛んでこない。これをやるのがセシルだったら容赦なく飛んできただろう。美人の特権である。
「なんかもう慣れたな。ケラ、ミスリルになるとどう違うんだ?」
「はい。名指しの依頼や高額依頼などが来ることはもちろん、それぞれの街……いいえ、各国を通過する際の身分証にもなります。ミスリルから冒険者の上澄みということですねー」
「凄い勢いで他の連中に喧嘩を売ったな」
「ですが事実ですし」
「ケラがそういう風に見てるわけじゃないですよ? きっと位階についての純粋な説明だと思います」
「カルは裏の意味とか見なさすぎな気もするが……とすると他の国に移転したりもできるようになったわけだ」
最も、アインズとの約定でエ・レエブルにいることになっている。そうそう動けるものではない。セシル自身、アインズと友好関係があるのも確かだ。
「さて、結局今回も傍観者か……?」
先日、アインズが語ったのは王国に対する策謀だ。それ自体はセシルにはどうでもいいが、王国が内乱状態に突入するのはほぼ確実だ。
流石に戦争で超位魔法を使った話は呆れを通り越して、笑ってしまった。
それはともかく王国は元々内部が安定していない。アインズがいなくとも、内乱になったかもしれない。まるでアインズ以外にチェスの指し手がいるようだ。
凡人でも長く生きていれば、少しは分かるようになる。
その時、自分はどちらの側に立っているだろうか? 王国側かアインズ側か、冒険者として中立を取るか。長すぎた生に微かな興味が泡立つ。魅せるか、魅せてもらうか……楽しみだ。
「あ、料理が来ましたよ。ありがとうございます」
「おー、まずは飯だ飯」
「ちょっと姉様呼んできますね」
元王族たる人物らしくもなく、ご丁寧に給仕に礼を言うカルカ。離れたテーブルにまで絡みに行ったレメディオスと妹ケラルト。自分が守る範囲はこれだけだ。
そして、並べられる肉の数々に王国の未来はどこかへ飛んでいった。未来より眼の前の飯である。
お開きになり、酒を飲みすぎたレメディオスに肩を貸しながら拠点へと戻る。自分で飲むより酒臭い。
「おい、訓練兵。変なところを触るんじゃない」
「触らないから吐くなよ」
「なんだとぅ。貴様、私に魅力が無いとでも言うのか~」
「言ってない」
奇妙な会話だが、後ろではなぜかカルカが手をわちゃわちゃとさせている。ケラルトは頭痛を抑えるようなポーズだが、本当に頭が痛いのかもしれない。
「わらしだってなぁ~」
「パワハラに加えてアルハラかよ、この元騎士団長」
「カル様と~ケラが何と言われてるか~、事実無根なのに~」
「泣き出しやがったよ! カル、ケラ、どっちか代わって!」
凄い早さでカルカが代わりになってくれた。ケラルトは解放されたセシルを見てため息をついていた。
ようやく自分の部屋に戻ると、黒い穴が開いていて以前見た少女が立っていた。アインズ・ウール・ゴウンのお呼びらしい。
遠慮なくゲートを潜ると、ナザリック地下の味気ない通路に出た。
「こっちでありんす」
導かれるままに進んでいくと、扉があった。それを開くと、中にアインズがいた。
「ご苦労、シャルティア。二人で話があるため、下がってよい」
「ですが、アインズ様! このような得体の知れない者を……」
「よい、と言ったぞシャルティア」
「はい……何か御用があればお呼びくださいでありんす」
少女はしょげかえった様子で扉を閉めて、気配からすると少し離れたらしい。
「ちょっと可哀想じゃないか? ……では」
「ハハハ……普通で構わないよ。さて、まずはミスリル級に昇格おめでとう」
「なんでもお見通しか」
「そう言われるの部下で疲れてるからマジやめて……」
「すまない……」
アインズは収納空間からいくつもの武具を取り出して、並べていった。
「さて、君に手伝って貰いたいことがあるんだ」
レベル100のアインズを手伝う件とは……知らず喉が鳴る。
「そう……ルーン武器の宣伝を!」