【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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激しい前哨戦

 闘技場は内部も立派なものだ。サイズ的にはバハルス帝国のソレとは少し劣るが。観客を全員収納して少し余りが出るほどだ。一体どうやってこの短期間で作り上げたのか、魔法詠唱者(マジックキャスター)専門ではないセシルには分からなかった。

 しばらくすると見知った顔が、最も高い位置から呼びかけた。騎馬王を共に討伐に行ったダークエルフだ。

 

 

「それでは! 皆さん、お待ちかねのリ・エスティーゼ王国とアインズ・ウール・ゴウン魔導国交流試合を行います。司会はあたし、アウラ・ベラ・フィオーラにてお送りします!」

 

 

 見れば数人のエルフがビールガールをしていた。セシルはそのまま野球試合を思い出す。妙な文化が輸出されつつある。

 アウラが使っているマイクはユグドラシル時代にエリア内にチャットを響かせるものだ。さらにゾーンにまで拡大させるスピーカーもあった。発信者は分ってもどこから来ているのか、感覚に優れるプレイヤーでない限り分かりづらいので結構実戦的なアイテムである。

 安いが地味に課金アイテムなので、それをここまで持ち込めるのは流石は魔導国といったところか。

 

 

「魔導国はダークエルフもいるんだな」

「というか、種族間差別は犯罪だから。いるかいないかで言えば人類種も亜人種も異形種もいるよ」

 

 

 ガガーランの呟きに律儀にセシルは応えた。控室では一部を除いて、“金鎖”はいい目で見られていない。当然だ。“金鎖”は魔導国の所属なのだから。それでも喧嘩を売ってきたりしないのは同じ冒険者のよしみというやつか。

 例外はブレインと“蒼の薔薇”ぐらいのものだが……

 

 

「そういえば小さな仮面の子がいないな」

「イビルアイは『魔導国の見せ物なんぞごめん被る』とか言って、別の街にいる」

「そっちこそティラは?」

「アレは元々うちの所属じゃないし、あの一件以来会ってもいないな」

 

 

 個人戦は既に始まっている。

 そんな話をしていた時、王国の冒険者が血まみれで運ばれてきた。止めを刺されていないのはこれが試合だからにすぎない。

 彼はヒーラーに金を渡して、回復してもらうことにしたようだ。小袋を受け取った女神官が呪文をかけると、すぐに傷は消えた。疲労感と恐怖は消えてないようで、しきりに闘技場を気にしていた。

 セシルはひょいと小窓を覗く。会場はアンデッドの勝利で若干盛り下がっている。もっとも賭けに勝った連中は違うが。勝者が控室に帰っていく。

 

 

「オールドガーダーかな」

「強いのか、そいつは?」

「いや、レメなら楽勝……難度は、えーと、五十ぐらい?」

「先ほどから見ていましたけれど、あちらは選手を、徐々に強くしていってるみたいですね」

 

 

 そう考えると、そろそろ中位アンデッドに切り替わる。生半可な相手では通用しなくなってくる。ルール上、同じ選手が何度出ても構わないとあるが、いくらなんでもここでセシルが出るのもおかしく見える。

 

 

「その同じ選手が何度出ても~って部分、明らかにセシルさんを狙い撃ちにしてますよね。どういった思惑があるのか分かるような気がします」

「ケラ先生の講義は聞きたいが、こっちも出す選手をそろそろ選ばないといけないぞ」

 

 

 見たことのない顔の冒険者たちは、先ほどの選手を見てやる気が失せている。ここからは上位陣を出すしかないだろう。そう提案しようとした矢先。

 

 

「じゃあ、俺が行ってくるかね。アンデッドが化け物揃いなのは知ってるが、退く真似はなしだ。なにせちょっとは盛り上げないといけないしな」

 

 

 青い髪をした剣士が緊張することもなく、闘技場へ向かうのを俺たちは黙って見ていた。

 

 

「さぁ魔導国側の次の選手は双剣を扱う、死した剣士! デス・ウォリアーだ! 対するは……」

 

 

 人間に換算すると頭抜けた巨体の持ち主が、テクニカルに剣を操るのは悪夢だ。だがそれを前に静かに男は歩み寄ってきた。まるでお前たちなど少しも怖くはないというように。

 その態度を受けて、デス・ウォリアーは苛立ったような仕草を見せた。

 

 

「まったく……化け物ってのはどこにでもいるな。ガゼフより少し上か……」

 

 

 やや分の悪い勝負を前に彼は笑みを浮かべて。刀を構えた。

 

 

「王国側! 達人はアンデッドを超えることができるのか!? ブレイン・アングラウスーー!」

 

 

 ブレイン・アングラウスの知名度は低い。同じ戦士として上を目指す者か、かつての御前試合における敗者を

たまたま覚えていた者ぐらいだ。

 だが、観客たちは揺れた。感じ取ったのだ。彼なら何かを見せてくれるかもしれないと。

 

 これが人間同士の試合なら互いの動きを観察し、勝機を練る沈黙の時間が生まれただろう。ブレインとしても静かな決着を望んでいた。だがデス・ウォリアーはそんなことは気にしない。

 

 

「ォォォォォオオオ――!」

「少しは落ち着けないのかよ」

 

 

 デス・ウォリアーは両手に持った剣で、凄まじい速度の攻撃を連発する。加えてアンデッドなので疲労など皆無。敵を微塵に切り刻むまで止まらない。

 一方のブレインは洗練された足さばきで、相手の攻撃範囲からギリギリのところで回避し続ける。

 実際、手数が多いということは厄介なのだ。相手の剣は二本、ブレインは一本。下手に迎撃すればもう片方の剣がブレインを両断するだろう。

 

 しかし、ブレインにとって二刀流など見慣れたものだ。皮肉にも身の程を知らなかった時期の経験が、その身を助けてくれる。

 徐々に反撃を始めるブレイン。巧みな位置取りで相手の右に回り、剣と刀を打ち合わせたあとには既に左手の射程外から離れている。それを幾度も繰り返したが、デス・ウォリアーは常に前面を向けるようになった。腐った身でもモノは考えられると見える。

 だが、ブレインはそれをこそ待っていた。相手の剣が交わる時を。

 

 

「〈神閃〉!」

 

 

 知覚困難なほど速い一撃が、一刀を両刀に打ち勝つ機会を与えた。弾かれて無防備を晒した胴体。

 当然、この瞬間を逃す手はない。再び同じ構えを見せて……

 

 

「〈爪斬り〉!」

 

 

 放たれる四光の連撃が集中し、デス・ウォリアーの心臓部分をえぐり取った。

 既に死している身であるが故か、しばらく目に憎悪の炎を滾らせていたが、それも消えて倒れこんだ。

 

 

「なんとぉー! 意外な結末! 人間がアンデッドを打ち破ったぁー!」

 

 

 会場は盛大に盛り上がった。人間の剣士が恐ろしいアンデッドを正面から倒してのけたのだ。かつて手に入れることのできなかった喝さいが空気を、そしてブレインを揺らす。

 

 ブレインは苦笑した。強がって立っているだけで、本音はその場に腰を下ろしたかった。その証拠にブレインの鼻から血が滴り落ちている。

 かなりギリギリの勝利だった。相手の剣を弾き飛ばした〈神閃〉で消費した集中力が回復しないままでの〈爪切り〉。今のブレインは一切の余力を残していない。

 無理して腕を上げて観客に応えただけで、体が軋んでいる。控室に戻るまでの道のりは千里より遠かった。

 

 たどり着いた控室でブレインはようやく倒れこんだ。闘技場は未だにブレインの名を叫んでいるが、それも聞こえてはいない。

 

 

「まぁ後で料金は請求しますかね」

 

 

 ケラルトの重傷治癒(ヘビーリカバー)を受けて、ブレインはようやく座ることができた。壁に背を預けて、ようやく口を開いた。

 

 

「ほら、料金だ。勝った後で死ぬところだったぜ」

「喋るので限界なんだから、口は利かなくていいぞ」

「いや、あのクラスの敵が出てきたんだ。次はいよいよお前の出番だな……セシル。なんとか立ち上がって見物しなきゃならん」

 

 

 ブレインは腰のポーチから各種ポーションを取り出して飲んだ。筋力を増加させないと立つこともできないのだ。

 

 

「そら……来たぞ」

 

 

 会場の熱気。人間の希望。それらが物理的に冷えていく。魔導国の威信をかけ、フロストオーラを身にまとい、ライトブルーの蟲王が現れた。




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