今まさにアインズ・ウール・ゴウンは、王国に対して謀略戦を仕掛けているはずだ。世界情勢を左右する重大な局面が世界の裏側で進行しているのだ。
そのために今日も命を失う者もいれば、利益を得る者もいる。
だが、その壮大な計画の全貌を睨む男が、心の底から訴えかけている。
商品宣伝してくれない? と。
「ルーン?」
「そうだ。我が国で今、研究中なのだが……現段階では簡易的なエンチャントといったところか」
セシルは眉間を揉みながら記憶を手繰る。確かに聞き覚えがある言葉だ。知識の網をくぐり抜けて、到達するには結構な時間を要した。
「ああ……何か昔の文字だっけ」
「そうそう。文字ごとに意味があって、それをルーン工匠に研究させているんだ。それを武器や道具に彫ると火などの簡単な効果を出してくれる」
「しかし、何でそんな文字がこの世界に? しかも実際に効果が出るのか」
「過去のプレイヤーからだと思う。効果に関してはコストがほとんどかからないのが利点だが、それほど強力な効果を生み出せる技術は発達していない。だが、この地では十分に実用的な範囲に成長させられると信じているんだ」
「量産化を見越した宣伝か。気合入れて言うから何かと思ったよ」
ズラリと並べられた武器はユグドラシル時代の武器で、装飾にルーン文字が彫り込まれている。これらも実際に機能するのだろうか? わからないことが多すぎる。
「ただ、これを使って宣伝すれば過度に強力な武装と思われないか? 実際に今研究している物はそれほど効果が出ないんだろ?」
「確かにそうだけど……価値が無いと思われても困る」
「なら不出来でも、こちらで作った武具で宣伝した方が良いと思う。魔法の武具は冒険者にも憧れのようだからな。それが安価なら確かに売れるかも」
「うーん。それならこういう物もあるけど」
アインズが取り出したのはブルークリスタルメタルのロングソードだった。青い刀身に黒のルーン文字が刻まれている。ルーン文字が光りだすと、赤色へと変わっていく。
「鍛冶NPCが武器を作りながら、横からルーン工匠達が彫るという方法で作った剣だ。剣としては微妙な物になってしまったけど、ルーン武器としては成功作。起動させると赤熱化して、炎ダメージを追加する」
「良いじゃないか。等級は最上級ぐらいか?」
ややこしいがユグドラシルの武具の等級は上から神器級、伝説級、聖遺物級、遺産級、最上級、上級、中級、下級、最下級と続く。
最上級の武器はレベル100のプレイヤーとしては物足りないぐらいの強さである。
「大体は。こっちの技術を使って作ってるから明確には分からないけど」
「俺はコレ使うよ。宣伝なら目立って良い」
「そうか……そのフレイム・スペシャル・ソード・ハイパーもレベル100が使えば強そうに見えるかもな」
「……なんて?」
「フレイム・スペシャル・ソード・ハイパー」
「……あー。その名前で通すの? マジで?」
ちょっと選んだことを後悔しつつ、色が変わるところなど宣伝にはコレが最善というところは変わらない。刀身以外の装飾が華美では無いところなど結構気に入っていた。そのネーミングセンスを人々がどう思うかだけ気にして、コレを借りることにした。
「そういえばマジックキャスター用の杖は無いかな。うちの後衛二人はろくなもの使ってないんだ」
「それは知ってる。彼女達には逆にやや強力な方が良いだろうと思って、ユグドラシルの技術で作った武器を用意している。杖ならルーンの効果が無いことは分からないだろう」
「それもルーンで実際に作った物でも構わないが……」
「彼女達が死んでは宣伝も何も無いだろう? それに君と違って二人は虚弱だ。貴重な物で無くとも、この世界では十分だろう」
あいにくとセシルは杖を持っていない。このあたりが大手ギルドとソロ専ギルドの差というものだろう。渡された杖はアインズと対照的な白い天使像が頭にあるメイスと、真っ白で先にオーブがはめ込まれた杖だった。どちらもデザインとしてルーン文字が使用されている。
「ありがたく借りるよ」
「返さなくてもいいぞ? 死蔵していた
「……いや、いずれ返すよ」
インベントリの中身の差に圧倒的敗北感を感じつつ、セシルは最後の矜持を守った。
「それにしても、商売に精を出してて良いのか? 何か作戦とか練ってるんじゃないのか?」
「王国内部での暴発待ちだし、部下の方が優秀だから……」
いつもの愚痴と同じような言葉を聞きながら、セシルはカルカ達が少しずつ装備を整えていく楽しみを奪ってしまったかな、と考えた。
「そういえば、うちにはもう一人戦士がいるんだ。聖騎士なんだけどそいつには武器を貸さなくて良いのかい?」
「レメディオスとかいう女騎士だろう? あの女は私に対して、少しばかり悪意を持っているようでね。魔導国産と聞けば使いたがらないに決まっている」
アンデッドのアインズには珍しい、イライラとしたような声音だった。セシルは過去に何か確執があったらしいと平凡な感想を抱いて、一本の剣と二本の杖を持って自分の部屋へと