エ・ペスペルでは急ピッチで、排水溝の整備が始まっている。雨季に備えて先んじて作ってしまおうというわけだ。
ここで主に活躍するのはスケルトンたちだ。
その代わり、スケルトンは
スケルトンは言われた経路を延々と掘り続ける。また別のスケルトンは土を運び続ける。そんな中、これ以上掘れない場所を、鋤が通らないにもかかわらず延々と叩き続けるスケルトンがいた。岩にでも当たったのだろうと判断した監督が注意する。
「おい、三十二番。一体、いつまでそこを掘り続けている。終わったら前に進め」
「……」
スケルトンは言われた通りにした。確かにそこに土はないのだ。ならもういいだろうと前に進む。
ところが、三十二番は次の場所でも同じことをした。監督はアンデッドにも不良品があるのかと、訝しみつつ再度注意しようと、道路から現場に降りた。そこでようやく気付く。三十二番の経路にあるものに。
「なんだこりゃ。なんだって、こんな場所にレンガが埋まってるんだ?」
三十二番の経路には赤茶けたレンガが並んでいた。几帳面さを感じる並びで組み合わさって、強固にそこにあり続けていた。
「古代遺跡? まぁ……あるかもは知れないが、そんな規模の設備が見つかっていなかったのか」
相変わらず領主館で書類を読み、印を押していたセシルに、しばらくしてから報告が届いたのだ。
街は基本的に立地勝負なところがあるため、大体同じところに名と国を変えて続いていく。そういう意味では遺跡があることに不思議はないが、利用され続けず、埋もれていたのが不思議であった。
「報告を読むかぎり、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国が一つだった頃のモノですね。古代というほどではありませんが……一応調査させています。地下空間次第では埋め立ても必要になりますし」
ケラルトの報告を受けて、セシルは承認した。工期の遅れにつながるが、人手を必要とする、いい機会だ。
「危険なところはアンデッドを使って、安全そうな場所と監督指揮は人足を雇ってくれ。いい金の回りになる」
「そう思ってすでに手配してありますよー。領主代理が固定給だから使える方法ですね、コレ」
「俺の後任は頭を痛めそうだな。たまっている仕事が片付いたら俺も視察に行くか。安全策を取るなら一帯を通行止めにするところだが」
「どこまで伸びてるかも不明ですからね」
場所的に観光資源にもなりはしないだろう。一つ事業を進めれば、三つは問題が出てくる気がしてセシルは微妙な気分になる。まぁともかく、件の遺跡とやらを拝むのを楽しみにしておこう。そう思いながらセシルは次の書類に手を伸ばした。
後日、排水溝掘りから発展した地下建造物の入り口が露出した。セシルはいつもの面子と連れ立って見学に赴いた。
それは頑丈に組まれた石材とレンガの混合物で、その見た目は……トンネル状になっていた。
「……まさか、これは」
「昔の方たちもセシルさんと同じことを考えていたようですね」
カルカの答えに頷き、セシルはセシルは一人で中に入ろうとした。驚いた工事監督と排水業者が慌てて着いてきた。領主代理にそんな危険な真似をさせられないというようで、セシルは苦笑した。
中はそれなりに広い、人間が三人は横並びできそうだった。水たまりがそこかしこにあり、天井からも水がしみ出してきているようだった。壁は石材で綺麗に仕上げてあるが、頭上のアーチ部分はレンガ積みだ。そこから水がしみ出しているのだろうか。
「カビっぽいが……十分に頑丈なようだな」
「へぇ。悔しいですが、良い腕をしていたみたいですね。これは上水か、下水か? 排水屋さんよ」
「下水だ。わずかだが傾斜が付けてある。俺っちたちがやろうとしていたことと、そっくりそのまま同じだ。いや、この時代が代わっても滑らかな石床を見るに、もっと金をかけていたにちげぇねぇ」
その時、後ろから守備兵団が駆けつけてきた。人手はいくらあってもいいので、構わないが多少危険だ。崩落した際にはセシルだけの方が生存しやすい。それでも領主代理を警備する義務が彼らにはあった。
「ご婦人が入ってくる場所じゃないぞ、レメ」
「ご婦人とはなんだ。私たちはいざとなったら血と臓物にまみれて戦うのだぞ。それにコレが必要になるだろうと思ってな」
「レイナースの地図か! 確かにこれがあればどこに繋がっているか、分かるかもしれないな……って当のレイナースは?」
「残ってカル様とケラの護衛だ。アレで貴族の生まれだ。それこそ中に入れるわけにはいかないだろう」
守備兵団が松明を持って等間隔に並んでついてくる。先頭にも一人加わった。これはガス溜まりや空気がない場所を調べるときのためか、彼は一人先行して進んでいく。真っ先に異常に気付くためだ。
分かる異常であれば撤退を促せるが、最悪の場合は死が待っている。それをもって後ろに危険を伝えるのだ。
「レメ、後ろのやつらは徐々に撤退させろ。火で空気がなくなってもかなわん」
「最初からそう命令してある。私を何だと思っているんだ」
わずかに水が溜まった通路を歩き出す。かなり長いが、空気がなくなることはない。どこかから風が入ってきているのだ。その間に監督たちとセシルは様々なことを話し合った。
再利用が可能かどうかから始まり、生活排水にまで利用していたかなど。答えはどれも可能性の域を出なかった。無論、多少の補強工事と調査をすれば十分構造を再利用するめどは立つとのことだったが、それこそアンデッドの独壇場だろう。
「汚水に使うにはちっとばかり考えものですね。長すぎて井戸の近くを何カ所か通ってるはずです。しみ出しちまったら井戸が使えなくなる」
「そうか……そのあたりは考えてなかったな。使える下水道が見つかったと思ったら、そう全部は一気に解決できないか」
「あくまでしばらくは雨水の排水溝が一つ増えた、と考える程度にしておくか」
「あっしらの仕事が無駄にならなくて、こっちは良かったですがね」
セシルとしては考え、調査することが大幅に増えたというところだ。他にもこういった設備はないか? 現在の井戸の配置と位置関係。特に整備された汚水道があれば、市内の衛生状態は大幅に変わる。
「おい、そろそろ街を抜けるぞ」
「よく分かるな、レメ」
「警らでどれだけ歩き回っていると思っているんだ。お前は領主館の中にばかりいるから、分からんのだ。うん? あれは……光が漏れているな」
確かに道の先に光が漏れている。それも上からだ。
「泥なんかを引き上げる、くみ取り口かもしれませんね。ひょっとすると昔は汚水にも使っていたかもしれませんが……ああ、点検用の入り口って可能性も」
「井戸の位置なんかも丸ごと変わっているかもな。やれやれ仕事が増えた」
備え付けてある梯子は流石に危険なので、セシルは飛び上がって外に出た。監督たちはセシルの脚力を呆けたように見ていた。
周囲は小さな草原だった。草に隠れるようにして石材の部分があった。
「これは見つからないわけだ……」
セシルはインベントリからロープを取り出して、地下にいる面々を引き上げた。レメディオスを引き上げた際、抱き上げるようにして持ち上げたので、彼女の顔は真っ赤だった。
一行は地下通路を引き返さず、地上を歩いてエ・ペスペルへ戻った。地下から戻ると思っていたカルカたちは少し驚いたようだった。
領主館に戻り、今後の事業を一つ加える。
「道路舗装はまだ完了していないし、排水溝の作業もある。この際だ。地下を徹底的に調べ上げる。現場を見る人間も増やそう。いや、亜人種がいいかな。基本的に人間種より感覚に優れる」
「まだ亜人種の職業問題も解決していませんからね。一時的とはいえ、いい雇用になるでしょう」
「なんだか不思議ですね。亜人種を排斥していた過去を持つ私たちが、仕事を斡旋したりすることになるなんて」
「これで彼らの身体能力の高さを生かした職業が増えるといいのだが」
灯台下暗しとはいうが、地下にこんな秘密が隠されているなんて思いもしなかった。カルカが淹れてくれたお茶を飲んで、セシルは気合を入れた。しばらくは忙しい日々が続きそうだ。
こうしてエ・ペスペルの水道工事が本格的に始まった。
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シムシティ再開