レメディオス・カストディオ……彼女のことを簡単に言い表せば、“迷惑な善人”にでもなるのだろうか。良い点は行動力があることと、強さ。悪い点は精神的な部分に色々とあるが、他者に自分と同じ意見を求めることだろう。
「おい、訓練兵! さっさと荷造りを済ませろ!」
これである。レメディオス的には既にセシルは徴兵されたものとなっていた。セシルにとっては分からないことだが、聖王国が徴兵制なので抵抗が無いのかもしれない。
全ての言動は彼女の中で完結していて、意見を違えれば振れ幅はあるにしても敵になる。
セシルは長い時間を傍観者として生きてきた。亜人種が台頭して人間が奴隷となっていた時代も、全ては消極的だった。
だからこそ、人間的に問題のあるレメディオスの積極さに惹かれたのだろうか。もっとも見習おうとはまったく思わないが。
「はいはい。済みましたよ。それで、何をどうするんですか?」
「決まっているだろう。瓦解した亜人共の軍勢を追って、切り倒す! それのみだ!
グスターボ!……はいないんだったな……おい、お前セシルとか言ったな。従者でもないお前を供回りにしてやるんだ。感謝しろ」
「特に感謝はない。言った通り俺は世捨て人でしかないからな。ついていくのはたまたま外を見る気になったからに過ぎない」
「なにィ!」
怖いよ、とセシルは思った。レメディオスはいつもこのような調子で他人と接しているのだろうか?
こちらの世界に来る前は普通の人間だったセシルとしては、ヤンキーに絡まれたような気にさせられ、多少萎縮する。
しかし、ビルドはやや適当だったとはいえ、レベル100のセシルからすればレメディオスは戦闘能力的には取るに足らない。おかげで余裕を持って反応できた。
同時にレメディオスの下に付いていた人間は大変だったろうなと、同情する。
「はいはい。俺から敬意を得ようとか服従させようとかは無理な話だ。ただ、アンタの言うカルカ様の正義とやらが見たいから付いていくのさ」
また怒るかな。と内心で身構えるセシルだったが、予想外にレメディオスは上機嫌になった。
「そうか。カルカ様の正義にな。無礼だが、中々見どころがありそうだ」
「はぁ……」
セシルはレメディオスという女の精神構造を段々と把握してきていた。これは慧眼というより学校でも職場でも一人ぐらいはいるタイプの人間だ。セシルもこの〈ユグドラシル〉の肉体でなければ、お近づきになりたいとは思わない。
だが……この肉体であるからこそ、レメディオスの気性に付いていこうと感じさせるものがあったのは事実だ。
もし、絵空事に圧倒的な力が加わればどうなるか。それを見てみたいと思ってしまったのだ。常に傍観者であったからこそ、間近で見てみたい。
要はセシルもまた自分勝手な人間なのだ。レメディオスを盾にして見物に出かけようということと、変わらない。
「それじゃ、行きましょうか聖騎士様。今日も亜人を追いかけるんで?」
「当然だ。やつらがいれば、民は泣く」
こいつが騎士団長だった頃は団員が泣いてたんじゃないだろうか。そう思いながら、セシルは後に続いた。
そうして今日の目的である
「アーマットというのは、どういう種族なんだ」
「なんというか二足歩行のネズミだ。そんなことも知らんのか。おい、グスターボ……いないんだったな。体毛が硬い。以上だ」
「……ああ、アレか」
以前に亜人の大侵攻があったとかで、アーマットはそれに参加していたらしい。それゆえアーマットの巣は復讐対象となっている。そこを潰していくのはレメディオスに任された大役という名の雑用だった。
アーマットの巣は地下にあった。急ごしらえといった様子で、入り口も開いたままだ。湿った土の感触を感じながら勝手に下っ端にされたセシルが先に降りる。
流石に亜人種ということで入り口には二匹のアーマットがいたが、セシルが剣を一閃するや音もなく崩れ落ちる。
その後に、上に合図を送りレメディオスが入ってくる。アーマットの死体を見てよくやったと頷いた後、アーマットの集落を見れる位置に行く。亜人種なりの平和な集落。しかし、それを見てレメディオスの目はらんらんと輝いた。
そうだ。その目が見たかった。狂気に彩られたような、前進の意思しか無い輝き。予想通りに、レメディオスは突撃した。その後に続くよう、わざとゆっくりとセシルは進む。別に狂宴に参加したいわけではない。ただ、その観客になりたい。
セシルに比べれば劣るとは言え、レメディオスの力は圧倒的だった。ひたすら切り裂いて行く。セシルは討ち漏らした敵を逃さないよう愛刀を時折、振るう。特に恐慌したアーマットが逃げないようにする方に力を入れる。
レメディオスが感知しているかは知らないが、入り口にもどこかへ続く穴にも一瞬で移動して斬り伏せている。
そして、狂気の聖騎士にアーマットの平穏が奪われるのをセシルは眺め続けていた。そこにあったのは長年生き過ぎたことによる虚無と花火を見る目だった。