ナザリック、誰も入れていない部屋でアインズは“遠隔視の鏡”で一人で見物を決め込んでいるような姿勢をしていた。アインズ一人なのはトブの大森林付近の調査の他に、セシルがルーン武器の宣伝をしてくれるか見るためだ。
アインズとセシルの友誼は構築されて間もない。ルーン武器の宣伝に関しては、国家で研究しているとは言え、今のところ私事の範囲を出ていない。
(アウラの配下を使うわけにはいかなかったから、データから呼び出したものだけど……)
相手の戦果にもなるよう、それなりのモンスターを呼び出した。配下が死ぬことにアウラがもし、悲しんだらどうしようという考えからだ。使った金銭もそれほどではない。
まずは小手調べ。などと考えるのは少々性格が悪いだろうか。それにしても生態系の調査とは面倒なことをしてくれる。エ・レエブルには関係の無いことなので放って置いて欲しいものだ。
日中の昼間をゆっくりと歩く一団が見える。大分後ろの方で更にやる気なさげな友人候補の腰に、フレイム・スペシャル・ソード・ハイパーがあるのを見てほっこりする。日頃差していた剣と入れ替えてくれたらしい。
一団の先頭が慌てたようにするのを見て、いよいよ始まるなと考える。あの男が出来レースをどのように演じてくれるのかが見ものだった。
それは何気なく草原を歩いているように見えた。
筋骨隆々とした茶褐色の肌。上半身にベルトを巻き付け、手には巨大な剣を途中から切り飛ばしたような武器を持っている。一見、
「なるほど。目的はあいつか」
アインズと出会ってから、セシルのユグドラシル知識は大分回復してきている。細かいところまで思い出せるのは、自分でも驚きだった。これが人間とは違う肉体の能力かと思ったほどだ。
「な、なんだアイツは? 亜人?」
同行していたメンバーの最前線に、頭を飛び越えてセシルは降り立った。調査に優れる白金級の冒険者達と“金鎖”が入れ替わるような形になる。
だが、残念ながら今回は彼女達の出番もない。
「全員、下がれ。アレは俺が相手をしなけりゃならん」
「なんだと! 私達では不足か!?」
「ああ、不足だ」
レメディオスがあっさりとした断定にぐっと詰まる。他の二人も同様だ。頂点が見えていなくとも、セシルがこの面子の中で飛び抜けて強いのは事実だからだ。
「
(実際には特殊能力を持たない分、身体能力はもっと強い相手なんだがな)
セシルは自分のやることを理解した。自分とシチセイなら鎧袖一触だろうが、今回は違う。フレイム・スペシャル・ソード・ハイパーを使って目撃者を生かしつつ、アレといい勝負を演じて見せることだ。
(マッチポンプに加えて、宣伝か。欲張りさんだな)
「ではせめて……〈
「〈
カルカとケラルトから補助魔法が飛ぶ。あまり強化しないで欲しいのだが、数少ない経験を思い出して悪い気分ではなかった。
ドラゴン・キンとセシルが徐々に歩み寄る。これから先は英雄劇だ。
「貴様、ソレはルーンの武器か!?」
「そうだ! 古の技術で作られている!」
「腕前と武器、相手にとって不足なし!」
(自分で言ってると微妙な気分になるな……)
剣戟が始まった。セシルは細心の注意をはらって、敵と同等に見せかける。ブルークリスタルメタルの青い輝きがどこぞの映画のように幻想的な光景を作り出した。
こうして戦うとドラゴン・キンも十分な威圧感と膂力の持ち主だ。勿論、セシルほどではないので込める力をぎこちなくならない程度に抑えている。
周囲の冒険者達は、自分達では介入できない戦いだということを理解した。剣撃が速すぎる上に、二人共無尽蔵の体力を持っているかのようだ。
見ていて安心できる要素はドラゴン・キンの武器がみすぼらしいところぐらいだ。
カルカ達は自分達の救済者の姿を改めて目の当たりにしていた。日頃、ゆるく親しげに話していた相手はまさに自分達を庇護する存在だ。だからこそ、肉体を蘇らせたセシルの勝利を信じることができた。
「意外にやるな、人間!」
「抜かせリザードマンもどき。この剣、フレイム・スペシャル・ソード・ハイパーの切れ味を知るが良い!」
段々と恥ずかしくなってきた感情と同様に、徐々にセシルはドラゴン・キンの肉体に傷をつけ始めた。あまり長くては怪しまれかねない。
フレイム・スペシャル・ソード・ハイパーの青い輝きが赤い輝きへと変わっていく。そしてドラゴン・キンの短くなっている剣を切り飛ばした。
「赤熱化!」
一合ごとにドラゴン・キンの武器は損傷して短くなっていく。だから武器を持つ相手をアインズは用意したんだなとセシルは納得しながら繰り返した。
そしてドラゴン・キンの手に持つのが武器と言えなくなった時、この時だけは全力で距離を縮めた。そして、目的を達成しようとしているのはセシルだけではない、という哀れみから最後も全力で相手を唐竹割りにした。
一撃の衝撃波が平野を走っていく。セシルは敵の前で追悼するように剣を大きく掲げて、勝利を表した。