レメディオスソード   作:傀儡兵C

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守る連呼

 チーム“金鎖”はアダマンタイト昇格審査中のオリハルコン級となった。流石に目撃者が少なすぎたのか、こなした依頼の数が少なかったのかは定かではない。あるいは武器のフレイム・スペシャル・ソード・ハイパーが評価されすぎたのかもしれない。

 セシルにとっては最後者であるほうが良い。実際、別口の依頼と考えてもよいからだ。冒険者組合とアインズ・ウール・ゴウンのどちらが強大か考えると、答えはあっさり出てくる。

 

 ただ、レメディオスだけは裁定に不満だったらしく、良い依頼があれば次々と持ってくる。おかげで、ここ数日は任務の連続で、ようやく休みが取れたところだ。

 

 ……周囲の視線が鬱陶しい。セシルがだらんとしているのはただの酒場だが、それでも好奇の目は集まってくる。モモンガのところで紅茶を飲んでいた時の安らぎが懐かしい。

 

 

「こんなところにいたんですか?」

「お前さんこそ、こういうところに来るのは珍しいな、ケラ」

 

 

 髪の長さが違うレメディオスの妹が立っていた。何か用があるのかと思えば、向かいの椅子に座りワインを注文していた。

 

 

「意外だな。酒より紅茶という感じだったが」

「私も貴方は逆だと思っていましたよ」

 

 

 セシルは手元の紅茶をしばらく眺めた。意外な道徳感で昼間から酒を飲むのはあまり良くないと考えていたが、酒場の紅茶は貧乏舌でも顔をしかめるようなものだった。

 

 

「それで、何の用だ」

「用……というほどのことは何も。ただチームの仲間として親睦を深めたいと思っただけです」

「まぁ確かに……レメとカルは分かりやすい性格だが、俺はお前のことは何も知らんな」

 

 

 ケラルトも自身のことをセシルに話した覚えはない。ケラルトはカルカの両翼の一人で、レメディオスが剣なら、ケラルトは頭脳を担当していた。

 深く物事を考えないようにしているセシルからすれば、距離があっても仕方がない。

 

 そんな彼女はレメとカルは分かりやすいと言ったセシルに大きなため息をついた。

 

 

「その分かりやすい人達のことを、全くわかっていないのが貴方なのですね」

「……小馬鹿にされたのは俺でも分かったがな」

「まぁ良いでしょう。それぐらい純朴な方が都合が良いようですし」

「都合と来たか。腹の中で貯めるタイプかと思っていたが、口に出すんだな。まぁそれぐらいの方が俺は好きだが」

 

 

 好き、という言葉にケラはびくりと反応した。顔や手が少し赤くなっている。

 

 

「殿方が女性に対して、好きとか気軽に言うものじゃありませんよ」

「事実なのに何でだ? 感情はすぐ伝えないと、相手がいついなくなるか分からんぞ」

 

 

 ケラルトは少し赤いまま、ワインを口に運んだ。まるでこれは酒のせいだとでも言うように。実はカルカ達は男性に全く免疫が無かった。

 カルカの理想を成就させようとするあまりか、結婚どころか男と交際経験も無い。

 

 

「安酒場で雑談というのも色っぽくは無いが、悪くはないものだ」

「はぁ……私は頭が痛くなりそうです……セシルさん、セシルさんはいつまでもカル様の味方でいてくださいね?」

「それは、お前の姉との契約だ。50年ぐらいは付き合うよ。ただ、俺より強いやつに俺が殺され続ければ、それは諦めてくれ」

「そんな状況はありえないと思いますが……貴方は物語の英雄にも匹敵する力をお持ちじゃないですか」

「世の中、意外にありえるものだ。心当たりもあるし」

 

 

 セシルはこの世界で最高位の力を持つ。だからといって同格がいないわけではないと、人間臭い骨を思い出しながら考える。

 

 

「それに、今はカルとレメだけじゃなくてケラのことも守りたいと思っているよ。お前達は三人揃ってこそだ」

「~~~~~」

 

 

 なにかケラルトが盛大にむせているが、それはセシルの本心だった。

 この三人が強いのは理解したが、互いに補い合って一つの完璧になっているのだろう。ならば戦闘能力が飛び抜けているセシルが、三人の誰も欠けないよう守るべきだった。

 この調子だと守るものがどんどん増えていきそうな気もするが、彼女達で手一杯だ。

 

 

「貴方は意外と……何と言うか、発言が突拍子もないですね」

「いくらなんでも嫌いなやつを守ろうとは思わんよ。そういう意味ではケラが一番守りがいがありそうだな。内に不満を溜め込んでいきそうだし、美人だしな」

 

 

 セシルはケラルトが時々自分以上に、チームの盾となろうとしている気がしていた。害をなすものを遠ざけ、人知れず処理するような人物に見える。おそらく、実際にそうして生きてきたのだろう。

 だが、故郷を追われてまでそんなことをする義理もないだろう。

 

 

「武力でどうにかできる相手なら任せておけ。お前も含めて守る。汚れ仕事も構わない。お前はこれから先、自分達の幸せを守るために力を使うべきだ。折角の第二の人生だしな」

「貴方は……それでは、貴方の幸せはどこにあるのですか?」

「もう腹いっぱいだよ。お前達を助けることが当面の幸福だとでも思っていてくれ。さて、安酒場もここらにして、外に出よう。お前の姉のせいで金はあるしな。ケラはどこへ行きたい?」

「……どこへでも。女の買い物は長いですよ」

 

 

 それでも50年よりは短いだろう。セシルとケラルトも長い付き合いになりそうだった。

 


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