【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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懊悩の時期

 カルカ達にとってエ・レエブルは安住の地となりそうだった。だが、国という単位でのリ・エスティーゼ王国は軋みを上げていた。

 前の大戦による労働力の低下。はびこる麻薬。予想される天災。そのどれもが為政者の心胆を寒からしめるものだった。

 

 そこに加えて、王国の貴族階級は波乱の様相を呈していた。セシルはあまり興味もないので、ふーんといった程度だが新興派閥が力をつけたことにより内乱にまで発展しかねないらしい。

 この新興派閥というのが負け戦で嫡子に繰り上がった者達が多いとかで、礼儀や情勢を読めない者が多い。だが、この派閥の大きさが他の勢力を上回った時……謀反や内乱が起きる。

 

 と、まぁ現在の王国は問題の宝庫だ。ちょっとだけ裏側を知っているセシルだが、罪悪感などは特に無い。なぜならこれは――王国の側が認識していなくとも――魔導国と王国の戦だからだ。

 諜報戦とでも言うんだっけか、程度の感想であり、ついでに知識もない。

 

 

(問題はうちの三人組だなぁ)

 

 

 正直、王国に勝ち目など無いとセシルは思っている。それはカルカ達も分かっているだろう。だが、アンデッドと人間の戦いが起こった場合、どうするだろうか。

 カルカとケラルトはまぁ大丈夫だろう。魔導国を憎々しく思っても、それだけだ。しかし、レメディオスは……力ずくでも止めないといけないかもしれない。

 

 

(いや、問題児は俺か)

 

 

 セシルの本当の立場はコウモリを通り越して、完全に魔導国側である。追手から逃れるためとは言え接触し、友好関係まで築いてしまっている。

 

 こんなことを考えるのはエ・レエブルが安定していて、それは魔導王の息がかかっていると知っているからである。

 

 

「セシルさん、何か考え事ですか?」

「ああ。珍しくな。王国って戦争とか内乱になりそうだろ? でも冒険者は参加しないのが規律だから、ちょっと気まずいな、と」

 

 

 朝食の際に頭の中で考えていたため、カルカが心配そうにセシルに話しかけてくる。それを聞いてレメディオスが腕を組んで笑い顔で会話を繋ぐ。

 

 

「そんなことに悩むのか、訓練兵。今、我々はこうしてここにいるのだから、この街に来た時に助太刀してやればいい」

「冒険者は国家間の問題に首を突っ込まないという話をしているのですよ、姉様……」

「いや、レメの話が一番合っているだろう。余計に動かない方が良い、という意味でな」

 

 

 ふふんと笑うレメディオス。苦い顔をするケラルトに微笑むカルカ。長くこの退屈な日々が続くと思っていられた時期だった。

 

 

 あまり笑っていられなくなったのは、王国を冷害が襲ってからである。大冷害というほどのことはなかったが、働き手の減少と合わせて食糧不足の兆しが見えはじめた。冗談のようなタイミングの悪さで、セシルは第6位階魔法天候操作(コントロール・ウェザー)の影響を疑ったほどである。

 

 良いのか悪いのかエ・レエブルのような大都市は食糧の備えがあった。味はともかく死者などは出なかった。ところが、小さな領地の領主はそうはいかない。

 そんな貴族達が集まっている派閥が都合よく存在し、それなりの規模を持っていた。まるでドミノ倒しのように、王国は内側に混乱を孕んだ。

 

 王国新興派閥が力を大きくし、権力闘争が激化する中、注目されたのが魔導国の動きだ。驚いたことに魔導国は要請があれば、王国への支援を惜しまないと表明した。

 

 

「で、結局こうなったわけだ」

 

 

 アダマンタイト級冒険者チーム“金鎖”は、小さな行商人の王都への往来を護衛していた。他人の不幸が自分の幸福というわけで、食糧や物資が余っている者にとっては最大の利益となる。

 アダマンタイト級のやる仕事ではないが、小さなキャラバンなどの護衛を慈善事業として率先して受けている。大商人などの護衛は別のチームがやっているだろう。

 

 

「まさか噂の“金鎖”の方々に助けていただけるとは……」

 

 

 禿頭の行商人は御者席でしどろもどろになりながら、礼を言っていた。横に座るセシルは手をひらひらと振って返事をする。

 

 

「どうせ野盗は大きな集団など襲わん。無駄な仕事も退屈だからな……っと依頼主に対して失礼だったかな? すまん」

「いえいえ、これまでの人生で得た最大の人脈ですよ。それにしても王国が波乱の時代に、我が人生が輝くのは不思議なものです」

「救荒食物というんだったか。そりゃ日頃は売れん。この時期に是非稼いでくれ」

 

 

 セシルはこうした商人を助けることで、仕事をした気分になりたいだけだ。カルカ達は根っからの善意なので、何も問題は無い。

 

 

「しかし、やるせないねぇ。野盗も食い詰めた農民混ざりだ。反乱も起きそうだって言うし、どうなるんだか」

「全くだ。きっとろくでもない時代だよ」

 

 

 これまでにこうした仕事で何度か野盗と激突したが、わざわざ思い返す必要もないほど圧勝だった。武器もろくに持たない連中が、セシル達に勝てるはずもない。持っていても勝てないだろうが。

 そうして、禿頭の行商を王都へ届け、再びエ・レエブルに戻った。

 

 ……物足りない。セシルは自室へと戻ると、自分の手のひらを見つめた。悪いことではない。隠者であるセシルにとって、それは安定を意味していた。だが同時に、欲求をなくすことではない。

 

 セシルの前で誘うように転移門が開いた。 

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