金属が接触する鈍い音が響く。やや遅れてもう一度。何度も繰り返されて、地面に落ちる音がしたのが最後になった。
その後響くのは息を荒げる音だけになった、ブフゥともとれるみっともない音だが、それを笑う者はいない。
尖塔の一つで人払いをした上で、セシルとザナックが剣を振っていたのだ。
「全く、俺には、向いていないな。兄が一部の者に、人気があったのも、分かってきた」
「腰をもう少し落として、柄の握りも甘くならないように。だけどまぁ格段に進歩はしていますよ」
ザナックは用意されていた水樽から、木のカップを使ってガブガブと水を飲んだ。セシルは汗一つかいていないが、ザナックは滝のように顔を濡らしていた。
政務の合間をぬった気分転換に行われる訓練だが、ザナックの目は本気だった。素振りではなく組み手というのもその真剣さの表れのように思われた。
「良いんですかね。こんなことに体力を使って、悪いことでは無いでしょうが時期外れなのでは?」
「こんな体格だが、会戦なんかが行われれば鎧を着て馬に乗るんだ。体力を少しでも付けておかないとな。それに、できれば雑兵に首を取られるのは避けたい」
「……魔導国相手に戦を?」
刃引きされたロングソードを油染みた布で拭きながら、セシルは訝しげに聞いた。武力という面では魔導国は圧倒的だ。王国に勝ち目はない……などというのはザナックも分かっているだろう。
「王家が意地を見せる時は、そういうこともあるということだ。おかしな話だが世の中には負け方ってものがあるんだよ」
降伏する機会さえ失った時ということだろうか。そうして守るべき矜持だけを残すべく戦う。自分には果たしてそこまでして守るものがあるのだろうか? セシルが考えれば仲間の顔が浮かんだ。ならば、むしろ自分がザナックから学ぶべきものが多い。
汗が引いて、服装を整えた頃、髪をボサボサに伸ばしてわずかに無精ひげが残る人物が姿を現した。
「よう。秘密の特訓は終わったかい?」
「あんたは確かブレイン……なんとか王女の護衛の……」
「ブレイン・アングラウスだ。良ければ俺にも稽古をつけちゃくれないか?」
セシルはラナー王女の兵士である彼との交流は無かった。ラナーとセシルは初対面が上手くいかなかっただけでなく、セシルからするとどうにもラナーは胡散臭い人物であったからだ。
ザナックに目を向けると、頷きを返された。
「俺の側は構わないそうだ。しかし……あんたは別の意味で試合が必要とは思えないけどな」
ブレインは腰から刀を抜き放った。稽古と言いつつも真剣試合のつもりのようだった。それに対して、セシルは刃引き剣のまま。相手を侮ってのことではなく、自分の得物を使えばブレインの刀を斬ってしまうからだ。
「おいおい……マジかよ。セバスさんみたいな人はそうそういないと思っていたが……」
ブレインは一流の剣士。向かい合っただけでセシルの能力を把握した。ユグドラシルプレイヤーの理不尽なまでの身体能力。それを察知したのだろう。
「得ることが多そうだ。少し加減をするが、許してくれ」
「こっちこそお手柔らかに!」
ブレインの刀が唸る。的確に急所を狙ったかと思えば、当たりやすい場所も狙ってくる。実戦で鍛えられた傭兵の武術だ。
それをセシルは難なく弾いた。勿論、抑えようとして抑えられない部分の能力もある。だが、実際に弾いたのは恐るべきことに技量によるものだった。
セシルは武術の天才というわけではない。だが、不老であるため単純に剣を振ってきた時間が長いのだ。ブレインが冴えた剣技ならセシルは厚みの剣だ。
「〈六光連斬〉!」
一撃で6つの剣閃が襲う、高位の武技。それすらもセシルは弾いてみせた。
一見、セシルが圧倒的に有利であり、事実そのとおりであるが、セシルは人間の剣技に薄まった感情がざわめくのを感じる。
自分はあくまで能力としてブレインより強い。だが、ブレインの輝きはそんなところには無い。血反吐を吐いて磨き上げた宝石だ。
ブレインの剣技を見て、見て、記憶に刻み込みつつ最後に力尽くで刀を弾き飛ばした。
「……参った」
「こちらは良い勉強になった」
潔く負けを認めた男と、それを受け止めた男は無言で握手を交わしあった。
「時々、来ていいか? 今度はあんたの本気を見てみたい」
「それは……試合じゃなくて見稽古ならいいかな?」
持ってきた能力を見せつけるのは少しばかり罪悪感がある。しかし、ブレインの剣技を見させてもらった恩もある。承諾し、本日の稽古は終了した。
「待たせてしまって良かったのかな、ザナック王子」
「なに、あのブレインという男も恩を売りたい相手なのさ。優秀な人材を確保するためなら何のことはない時間だ。それで、どうだった」
「素晴らしい技量でした。惜しむらくは身体能力で私のほうが上だったということで」
実力的にはレメディオスと互角か、少し上だろう。精神的な面において、凄まじい安定度も見て取れた。隠者であった期間にも剣を振ってなければ、大言は吐けなかっただろう。
こちらの世界の実力者達の鍛錬の必死さを思い知る気分だった。
護衛が終わり、帰宅するといつもの茶飲み話の
帰ろうとすると、いつも
「ちょっと、用がありんす。手合わせの一つもしていかりんせん?」