堂々と姿を見せたのはこれで2度目か。今まで
「いいよ。行こう」
「思ったより素直でありんすね……てっきり抵抗されるかと思ってありんしたが」
「状況考えろ。お前さんのゲートで移動してるんだ。毎回命がけなんだよ」
話しながら、彼女の容姿と立場からNPCだとセシルは見当をつけた。セシル自身は持っていないため、同時に転移してきたプレイヤーという考えを捨てきれずにいたのだ。
「お前さんの主君に
「構いませんす。もとよりそちらがそうすることを妨害できるほど、力に差はありんせん」
思っていたより冷静な思考だ。これまでの非難めいた言葉から直情型だと思われていたが、そうでもないらしい。その方がセシルにとっては厄介であると同時に、安心できる存在である。
(おーい。そちらのNPCが俺に何か用らしい。乗ってもいいか?)
(なに? それ自体は構わないけど……何考えているんだ……なにか危なくなったらまたメッセージをくれ)
「そっちの主君の許可も取ったよ。では行こうか」
セシルの言い方の何かが癇に障ったのか、少し不機嫌になりつつも女は先に歩き出した。長い道のりだが、どうやら上に向かっているようだった。
そうして辿り着いたのはローマを思わせるコロッセオだった。コロッセオには複数の影があった。スーツを着た尻尾のある男。虫に似た巨体。ダークエルフの双子。どの人物も自分と同等のレベルを持つとセシルは肌で感じた。
「おや、シャルティア。ちゃんと暴れずに連れてこられたみたいだね」
「そこまで考えなしじゃあ・り・ん・せ・ん!」
どうやらスーツ姿の男がリーダーシップを取っているらしい。顔のメガネも相まって、知的な雰囲気をしている。しかし、その奥にある悪意を知るものはどれほどいるだろうか。
「まずは、はじめましてだね。私はデミウルゴス。この地下大墳墓の第七階層守護者だ。一応歓迎はしておこう、協力者よ」
「ああ、セシルだ。よろしく」
セシルが異形にもまったく動じずに返事をすると、周囲の空気が少しばかり冷たくなった気がする。そのことから彼らにとって独自の上下関係を築いているのが窺える。そして、セシルはそのヒエラルキーでは下に位置していることも。
「勘違いしないで欲しいのだが、我々はアインズ様に忠誠を誓う身。そして君は単に人質を取られた協力者だ」
「身の程をわきまえろ、と?」
「まぁそういうことだね。だが、今回の招待は君と親睦を深めるためだ。アインズ様に仕える我らとも面通しを済ませておきたいと、そういうことだ」
「なるほど。だから試合か。こちらの戦力をあらかじめ把握しておこうと。レベル100がそれだけいるのに随分と慎重なことだ」
「シャルティア……」
「ちょっ、ちょっと口が滑っただけでありんす! どちらにせよ親睦試合には変わりなく……戦うのは私でありんしょうが!」
声とともに女の衣装が真紅の全身鎧に変わる。そして手には槍のようなものを持っている。前衛職、何系まではセシルにも現段階では判断できない。
「いきなりか、まったく。モモンガに確認を取る暇も短い」
(聞こえているか? 親睦試合だそうだ)
(は? それはどういう……)
「様を付けなんし! このシャルティア・ブラッドフォールンがお相手してあげましょうや!
紅蓮の炎が飛来する。名前に相応しく周囲まで赤く染まるが、対個人用であり、その系統では最強の炎系魔法だ。
しかし、セシルはシャルティアが術を発動させる前から移動していた。
「当たらないと意味がないって、この世界だと身にしみるな」
移動しながら信仰系のバフを自分へと付与しつつ、セシルは
先の攻撃からして、魔法攻撃を使うだけ使うタイプと見たセシルは接近戦に持ち込む腹積もりだ。
「〈
「ああ! 鬱陶しい!」
目くらましのつもりで使った
愛刀シチセイを閃かせ、好機と見て畳み掛ける。槍と直刀がぶつかり合う。互いに魔法を使う余地を与えないよう、激しく打ち合った。
しかし、次第にセシルの方に天秤が傾いていく。
加えてランス相手など戦い慣れてると言わんばかりに、セシルは防御と攻撃を一体化させつつ切り刻む。そこにあるのは圧倒的な
そこにセイクリッド・フェンサーによる〈聖撃〉が載っているので、手がつけられない。シャルティアは起死回生の策として
痛みのタイミングで物理的に魔術の詠唱を邪魔し、スキルの発動を許さない。集中力を削いで削いで戦いの流れを一方的にしていく。無詠唱化による攻撃魔法を防ぐため、常にピタリと相手との一定距離を保っているのは超がつく一流の剣士だ。
シャルティアは悪態をつく余裕すら妨害された。長期の消耗戦を強いられることを覚悟したが、ただ苦戦が長引くようにも思えた。
「双方、それまで!」
それを止めたのはこの地の主、アインズだった。セシルはそれに従うように肩を竦めて地上に降りた。シャルティアも青ざめた顔でゆっくりと着地した。