【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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茶番でも必死に

 季節が少し巡り、とうとう王国の状況はいくところまでいってしまった。コップに注がれ続けていた水が溢れ出したかのようだった。貴族派閥の反乱とそれに迎合した新興勢力の台頭である。

 

 

「とうとうこの時が来ましたね……」

 

 

 カルカが物憂げな顔で呟いた。借りている屋敷の一室にセシル一行は集まっていた。全員冒険者として登録している身である。国家の危機に関わることはできない。たとえできることがあったとしてもだ。

 

 

「食糧不足や治安の悪化といった内政。魔導国という外圧。そのどれにも決定的な手を打てずにいましたからね……元々王族の勢力が圧倒的というわけではない国で、この状況を覆すことはできません。恐らく私やカル様でも無理だったでしょう」

 

 

 元々国家の内政にまで関わっていたケラルトの発言は重い。セシルもザナックを通じて覚えがあるが、王族の派閥は結束こそ強いものの、外への干渉は難しい立場に置かれていた。

 国王ランポッサⅢ世もそうした人物らしく、常道を外れてまで強権を振り回せる性質ではないと、ザナックから聞いていた。

 

 

「そこで登場するのが魔導国か。救世主になるのか侵略者になるのかは分からんが、あの骨野郎の思うがままだ」

「意外と上手いこと言うな。王国の倉庫には魔導国の食糧が大量にある。高く付くだろうが、それで王族派の勢力圏は飢えから解放される。間接的にせよ魔導国は絶対に関わるし、得をする」

 

 

 割高の値段だが、王都の倉庫や港の倉庫には聖王国への支援物資も含めて大量の食糧が詰まっている。それを使えば民の不満は抑えられるだろう。

 だが当然に王国全土に行き渡るものではなく、王都から離れるごとに十分な支援を受けられなくなる。

 

 

「反面、魔導国は豊作だそうだからな。貴族派閥や新興派閥は魔導国に支援を求めたりするかもしれない」

 

 

 セシルはぼやいたが、最悪はとち狂って反乱軍が魔導国を攻めることだろう。まぁ戦力という点で魔導国は王国を遥かに超えているので、そんな馬鹿はいないはずだ。

 

 

「俺はいつもどおりにザナック王子の警護だが、お前達は無理に働くことは無いんだぞ? 特にレメは魔導王となにかあったようだからな」

「……王国の民を守ると思うことにする。王国は聖王国への救援はしなかったが、弱き者は守るべきだ」

「変わったな……」

 

 

 レメディオスを最初に見た時は狂犬のようで、まさに狂気を宿した強い目をしていた。だが、戦う理由はそのままにレメディオスは穏やかになった。

 それは成長と呼べるものだろう。それに対して自分は何か変われたか、セシルは自身に問いたくなる。変わったのはほんの少しだけ。生きていて欲しい者がいくらか増えただけだ。だが、それで良いのかも知れなかった。

 

 

「王国からの依頼で、私達も倉庫街を守ります。魔導国のためではありませんが、善良な民のためにはなるでしょう」

「気をつけてくれよ。何が起こるか分からん。できれば常に三人一緒にいるのが好ましい」

「心配してくれてるんですか?」

「そういうことになるのか……だが、ある意味俺よりお前達の方が強い。思うままにやってくれて良い頃だろう」

 

 

 自身が蘇生させたとはいえ、彼女達は立派な一個の人間だ。きっと死に時も生き時も自身で決めるだろう。もはや自分の手は必要ない……その感情を寂しさと呼ぶということをセシルは忘れてしまっていた。

 

 

 ザナック王子は徴兵され始めた兵の訓練場を視察したが、その時間はわずかなものだった。訓練は明らかに気が入っていないが、理由はそれまでの戦場とは異なる。

 反乱を起こした貴族派閥が兵を興して攻め入って来た時、同じ国の人間同士で争うことになるのだ。人間というのはおかしなもので、奇妙なところで連帯感を持つものだ。恐らくは貴族派閥も似たような悩みを抱えていることだろう。

 徴兵制を取っているリ・エスティーゼ王国の泣き所だが、おかげで短いが貴重な時間が稼げる。

 

 

「状況は最悪を通り越したようなものだな。こちらが勝ったとしても、弱った半死半生の国を他所の国が放っておいてくれるかね?」

「聖王国は同じように疲弊してる。だから当然、その相手は魔導国となるわけだな」

「笑えるだろう? ただでさえ戦場で勝てない国を相手に、素手で挑むわけだからな。最高の茶番になるだろうさ。それでも親父は魔導国の属国になるのを拒むだろう。歴史と忠臣に挟まれて、身動き取れ無いのが現状だ」

 

 

 ザナック王子がたるんだ顔に皮肉げな笑みを浮かべた。その顔つきのまま執務室へと向かう。

 王子は最近では机に向かい、何とか被害を広げないような方策を探っていた。そんな彼と話すのは最初、妹王女とセシルぐらいのものだった。

 だが、今では軍務尚書や内務尚書など次第に増えてきている。セシルは今、一人の王の誕生を見ているのかもしれない。例えその道が魔導国の属国という形になるにせよだ。

 

 各尚書達が知恵を絞って、どうにか独力で今のあらゆる苦難を弾き返す方法を探す。そんな手段などないことは皆分かっている。食糧不足に内乱……これに打ち勝つには敵国だったはずの魔導国の支援が必要だということに。

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