新興派閥の面倒なところは、特に何ができるわけでもない、というところにある。貴族派閥に迎合し、反乱を扇動したりしている癖にどこにでもいる。誰も覚えていないような木っ端貴族だからだ。よって子爵や伯爵といった比較的地位の高い人物だけが警戒される。
だから誰も気付かなかった。扇動の首謀者でありながら一介の男爵に過ぎないフィリップ・ディドン・リイル・モチャラスが王都に舞い戻っていることに。
フィリップは王都で噂を聞いて、これが最大のチャンスだと確信した。
王子が王を軟禁しているというのだ。聞いた瞬間に思惑は加速し、彼を迅速な行動に移させた。忠臣が王を救う。これほどの英雄譚が他にあるだろうか?
「完璧過ぎる……」
現在は貴族派閥に乗っかっている形だが、王を戴けば正当なる勢力を名乗れる。王族派閥は瓦解して、軍門に下るだろう。王を救出すれば爵位も思いのまま。2つの勢力を合わせた数と権勢の前には貴族派閥もどうしようもあるまい。
協力者から情報を得て宮殿内に侵入するのは、思いの外容易だった。王が軟禁されている部屋の防備も手薄なものだ。全てがフィリップのために用意されていた。
「それが、なぜこうなるのだ!」
ランポッサⅢ世は突如現れたフィリップに屈しもしなければ、協力もしなかった。挙句の果てにフィリップを不心得者扱いし、自分を軟禁している兵を呼ぼうとする始末。
そこで逃げる機を失い、現在フィリップは王を人質に立てこもる羽目に陥ったのだ。
「親父はどうしている?」
「とりあえず危害は加えられていないようです」
「といっても親父も歳だ。あまり長い時間、立てこもられても困る。大体そのおかしなやつはどうやって入ってきたんだ」
「どうも王城内に隠し通路があったようです」
ザナックは兵の言葉を聞いて唸った。恐らくは王になった者にだけ教えられる通路なのだろう。そうしたものがあるのは少しもおかしくない。どうやって賊がそれを知ったかは不明だが……
「レメ殿、行けるか?」
「外に出てくる瞬間さえあれば、割り込んで引き剥がすのは容易いが……こんな時に限って訓練兵はいないと来てる」
「訓練兵?」
「王子の護衛に付いていたでしょう」
「ああ、セシルか。アイツなら閉じこもっててもどうにかできそうだが、使いに出したばかりだ……」
レメディオスも強者だが、刃を首に当てられたままの王を中に飛び込んで救う真似はできない。せめて賊が道を開けるよう要求してくれれば、扉を通る瞬間に引き剥がすことができるのだが現状どうしようもない。
危機的な状況なのだが、なんとも締まらない空気だった。仕事はほとんどザナックに移っている。更にザナックの護衛はアダマンタイト級冒険者だ。正直、情を排して考えればどう転んでも何とかなってしまう。むしろ貴族派閥と新興派閥が、王を汚い手で暗殺しようとしたという宣伝すらできてしまうだろう。
「なにがやりたかったんだアイツは? だが、立てこもられている間は厄介だ。宮殿内でこのままにしておく訳にはいかない……」
「
「悪くないが、向こうから扉を開いてくるタイミングが必要だな……食糧か水を要求してくるまで待つしか無いな……」
扉が開けばどうとでもできるという状況だが、それを待っている訳にはいかない。全員で知恵を絞り合い、積極的に状況を改善できる方法をひねり出した。
第3位階魔法
「同時に私とカル様も扉から入る。頼んだぞケラ」
「ええ、セシルさんがいなくてもできることを見せつけてやりましょう」
3人は頷き、絆を確かめあった。その横でザナックがわざとらしく咳払いをした。
「難しいことだが、賊はできるだけ生かして捕らえてくれ。今後の外交カードになる。失敗しても恨みはしないが……親父を頼んだ」
作戦が決行された。ケラルトが黒紫の穴に入り、室内へと侵入した。同時に
そのままケラルトがフィリップに飛びかかり押さえつける。フィリップは渾身の力を出してそこから逃れようとするが……
「弱い……」
「痛いよぉぉぉ! 腕が!腕が痛くて!」
フィリップは死力を尽くしているようだが、ケラルトの細腕を振り払えない。レメディオスが扉を蹴り破り、事態は収束していく。
こうして新興派閥に対する絶対的な切り札をザナックは手に入れた。それ自体が魔導国の狙い通りのゴミ掃除だと気付かないまま……
一方のセシルも使者の護衛をして、つまらない妨害にあっていた。
セシルは使者の馬車を止め、目の前に立つ幾人かの男女に興味なさげに質問した。
「誰だ、あんたら」
「漆黒聖典とだけ言っておこう」
腕が痛いと聞くと懐かしいゲームを思い出す