【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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力の差

 壁の上から、北に向けて進発する軍勢を見守る。前軍と後軍に分かれており、前軍が魔導国の援軍であり、後軍が王国軍だ。数としては圧倒的に後軍が多く、長い列を作っていたが、前軍からは異様な雰囲気が溢れていた。少数の部隊が大軍勢を率いているようにも見える。

 実際、軍の内実を知るものなら魔導国軍の方が遥かに威容があり、優れているのが分かっている。

 

 

「始まってしまったか。こうなると後の流れが目に浮かぶようだな」

「せめて、降伏でもしてくれれば……」

 

 

 カルカがセシルの横で呟いた。カルカ達はこの世界の強者だ。ゆえに魔導国軍の異常さに恐れる。あの一体一体が自分達と同格の強さを持つのだ。

 強力な個が多勢を打ち破るのは、この世界では決してあり得ないことではない。それが強大な個の集まりになるとどうなるか……少し想像力があれば分かるだろう。一方的な虐殺だ。

 

 

「今更、降伏などしたら反乱貴族達はどのみち終わりです。最後の賭けにでも出るでしょう。チップは民衆の命だというのに」

 

 

 ケラルトの皮肉っぽい言葉にセシルは頷いた。王国は元々からして徴兵制の国だ。貴族があの恐るべき軍に向かってけしかけるのは国の基となるはずの、無辜の民達だ。

 貴族というものは最後の最後まで、自分の命を賭けようとはしないだろう。

 

 

「ただ……少し気になるのは魔導王の出方だな。アレもそれぐらいは分かっている。敵軍を全滅させてしまえば、この国を救った見返りが少なくなる」

 

 

 敵兵は日頃は働いて何かを生産する者達だ。蹴散らすのは容易いが、その後の生産力は見るも無惨に落ちるだろう。流石にアンデッドを労働力としてそっくり入れ替えるほどの数はいないだろう。

 

 

「あの骨野郎なら貴族だけ殺すのも容易いだろう。もっともアンデッドが民の命をそこまで気にかけるかは疑問だが」

 

 

 レメディオスは聖王国の動乱で魔導王の力を知っている。知っているが、アンデッドが生命あるもの全ての敵という考え方もまた捨ててはいない。これはケラルトも同様だろう。

 

 

「ところで、カル様。少し近すぎではないですか?」

 

 

 カルカはセシルに身を預けるような形で立っており、手は腕をがっしりと捕まえている。カルカはレメディオスの眉がつり上がっているのを見ても、動揺せずに体勢を戻さなかった。

 

 

「いえ、これぐらいは近いとは言いませんよ?」

「……少し慎みを持たれたほうがよいかと」

 

 

 主君なのであまり強く言えないがレメディオスとしては精一杯の抗議だった。当のセシルは知らぬ顔で軍勢を見守っている。

 

 

「おい、セシル。お前からも何か言うことがあるんじゃないか?」

「無いな。流れに流された男に言い訳などあるはずもない」

「貴様ァ!」

 

 

 レメディオスはセシルの襟首をつかんでグラグラと揺らしたが、セシルは一向に抗弁しない。“金鎖”内での人間関係をこじらせたのは間違いなく自分だからだ。それでいて特に後悔は無い。というよりは現状の方が面白いとさえ思っている。

 セシルもまたこじらせた性格になりつつあった。

 

 

「それにしても……王様と次期王自身が戦場に出るとは変わっている」

 

 

 呟きは舞い上がった風にのまれて消えていった。

 

 

 会戦は王都にほど近いリ・ボウロロール近くで行われた。流石の貴族たちも兵士を分散させるような真似はしなかったようだ。リ・ボウロロールは貴族派閥筆頭であるボウロロープ侯の領地だというのも都合が良かったのだろう。

 いざとなれば籠城する覚悟もあったはずだ。しかし、そんな機会は与えられないことを全員がすぐに知ることになる。

 

 

「さて、ザナック殿下。私としてはなるべく敵の被害も小さく抑えたいと思っているのだが……彼らも元は王国の民たちだろう?」

 

 

 アインズの目にうつるのは簡単な革鎧を着て、槍を持った兵隊達だ。陣形を組んではいるが、どこか統率の取れてないところがありゆらゆらと揺れて見える。

 

 

「もちろんです。ですがボウロロープ侯の兵達は訓練された兵で、民兵もあそこまで多くなれば……」

「そこでだ。私の手勢に先手を任せてはくれないかね? なに、少しばかり我が兵らの力を見せるだけだ」

「……お願いします」

「よし。ではお前達、作戦通りに動け」

 

 

 その言葉に黙々と従うように、死の騎士(デス・ナイト)200体が魂喰らい(ソウルイーター)から降り、一直線を描くように横に広がった。

 巨躯を誇るデス・ナイト達は、盾を地面に打ち付けるような体勢で反乱軍に向けて進行を開始した。それは歩みと言えるほどゆっくりとしたものだったが、確実に一歩一歩敵に近づいていった。

 

 万を遥かに超える軍勢を持つ反乱貴族達は、それを見て愉快そうに笑い、全軍での突撃を命じた。確かに見かけではデス・ナイトの守りは薄皮のようなものだっただろう。

 しかし、貴族たちの薄ら笑いも軍が激突するまでだった。

 

 破れない。デス・ナイト達はただ盾を構えて前進しているだけだ。それに圧倒的な数の突撃が弾かれていく。剣で切ろうが、槍で突かれようがデス・ナイトは止まらない。

 圧死を避けるため民兵達は戸惑ったように足を鈍らせた。ボウロロープ侯の専業兵士たちも何をしても引かない相手に段々と押し込まれている。

 

 

「滑稽だな。戦場が茶番になってしまった」

「ただ進むだけで……」

 

 

 もし迂回することを考えたものがいてもソウルイーターと死の騎兵(デス・キャバリエ)によって終わりを迎えるだろう。だが全軍突撃を命じられた兵達はただデス・ナイトに押され続け、やがて逃げ出した。

 アンデッド軍団の外見を前に良くこらえた方だろう。民兵達は領主に罰せられるより、散り散りに逃げることを選択した。

 

 人間たちは魔導王の手勢が歩いているだけで敗北を喫した。

 

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