象の墓場という都市伝説がある。象が一箇所に集まってその生を終える場所という話で、他には鯨の墓場など似たような話がいくつもある。
しかし、この世界において実際にそれがあったら、どうだろう?
それを思いついたのはカッツェ平野に現れた一体の
過去には帝国が
エルダーリッチは慎重というよりは臆病さを備えていた。人間という種族を脅威となり得ると認識し、それが結果的に討伐隊の巡回ルートから外れるように存在するようになった。
自らの身を守るために低位のモンスターを呼び出し、身を潜める。試行錯誤の末に、自分より低いレベルのアンデッドを支配する呪文を編み出してからは、支配したアンデッドも同じように身を隠させた。村のような共同体にすれば人目をひくと良く知っていたのだ。
さて、人間種にとって問題があるとすればそれが
「カッツェ平野の竜王国側にある山脈の調査ですな。確かにそれは行われておりませんね。王国と帝国の砦からは遠すぎますし、冒険者は依頼があった対象を討伐するだけの存在でしたから」
さも今は違うぞと言わんばかりにアインザックは答えた。現在は旧来の傭兵じみた冒険者から、探求者としての側面を強くした冒険者への過渡期だ。古い資料は倉庫から引っ張り出され、昼夜を分かたず解析と修正が加えられている。
この地域の調査をしたいと言い出したのはセシルだが、彼はアインザックがカルカ相手だと時折敬語になっている方を面白がっていた。
「良かったです。そちらの調査に行ってみたいとセシルさんが仰っていて、カッツェ平野には数百年前の建造物もあるそうですから冒険には丁度いいかと」
「セシル君が? 一体またなぜ?」
「俺にとって冒険、となると全く見たことが無い場所や敵に限られるので……多少の高さから落ちても大丈ですし
「まぁ小さな発見にも目をやるように教育中ーですけどね」
そう言ってケラルトは植物学の入門書でセシルの頭を叩いた。セシルもまさかこの年齢になって勉強する羽目になるとは思ってもいなかったが、これも一つの冒険だろうか。
「ふふん。アンデッド退治なら久方ぶりに聖剣の出番だな。これまでは二番手に甘んじていたが、これからは違う」
レメディオスは聖騎士らしくアンデッド退治には
「俺も信仰系の前衛職なんだが……しかしまぁ、ここもちょっと活気づいて来ましたね」
「君達の存在が大きいね。アダマンタイト級冒険者に加えて、言って良いのか分からんが見栄えもする。元々学者肌の冒険者というのも少なくは無いから、そういった人物が移ってくるいいきっかけになっているよ」
アインザックは半ば萎れた麻紙の束を取り出して、ホコリを吹き払った。
「今、手順の整理をしていてね。未踏の地を行く者には近辺の資料を先に見せるようにしたら、どうだろうという話になってるんだ。これができるだけ東の書類だよ」
「これはまた随分と……古臭いですね。読むのに時間かかりそう」
「君達にはケラ君がいるから、またまた良い見本になると思ってね。一つ頼むよ」
こうして“金鎖”一行は奥のテーブルを借りて旧資料に目を通すことにした。その歩みを他の冒険者達は敬意とともに道を開けて邪魔しないようにした。
セシルなどはそこまでしなくとも、と思うが冒険者も一種の階級制である。その点カルカは堂々と好意を受け取る形にすれば良いのだということをよく知っていた。
「古い資料ではあるが、あの平野はもっと古いんだろう? 見ろよ、この絵図。資料の時点で既に崩れてるぞ」
「カッツェ平野に点在する遺跡は数百年前の物とされていますから、当然でしょう。なぜ滅んだかわからないのが難点ですね。こういう時、付近の民話などに残されているのが常ですが、あの平野に村なんてありませんし……」
「山に近づけばアンデッド以外のモンスターも増えるでしょうしね。あ、これ魔導国の幽霊船の絵じゃないですか?」
「おお、アレですか。見ましたが、陸上の船というのも妙なモノでしたね」
それはかつてカッツェ平野を浮いていた巨大幽霊船の絵だった。それは今、魔導国の支配下にある。このことから魔導国がカッツェ平野を平定したという話が本当だったとわかる。
セシルからすれば、ちょっと戦って見たかったという感情もある。まぁ歯ごたえは無かったかもしれないが……
(アレは外へ侵攻することに集中しようとしているようだし、案外雑にしか調査してないだろうな)
セシルは主に東部の絵図だけ覚えて、文章はあまり覚えられなかった。そこは適材適所。ケラとカルが覚えてくれるだろうという、レメディオスと大差ない思考だった。彼の脳が危ぶまれた。