ヤルダバオトに襲撃された日を忘れることはできない。城塞都市カリンシャでの戦闘は悪夢そのものだった。紅蓮の炎をまとった悪魔がただ歩いてくる。それを止めることができないというより、何をしても意味が無かった。
攻撃はかすり傷一つ与えることはできず、防御も拳一つで全てが霧散する。ただただ圧倒的だった。さらには速さにおいても転移術で上回れ、逃げることすらできなかった。
逃げた先でヤルダバオトの一撃で柔く崩れ落ちた、部下たちに至っては全員が即死していた。辛うじて生きのこった私は身をよじりながら、星が落ちているのを見ているしか無かった。
もっともそこで生き残っても意味はなかった。悪魔としては……という基準で優しい死が与えられた。首をはねられたのだ。後にその首が悪魔に利用されるとは思っても見なかった。
「~~~~~~!」
間違いなく終わったはずのケラルトの人生。そこに光と意思が差し込んできた。時間の感覚は無い。ただ、神官としての知識から蘇生の術では無いかと手を伸ばして、暗闇を浮上した。
結果は予想通り、復活の呪文であったらしく、カリンシャではなくホバンスの霊廟で目覚めた。体力が回復したわけではないので咳き込んだが音はしなかった。
姉の後ろに白髪の男が立っていた。姉に
「~~~~」
感謝と同時に警戒が湧き起こる。そんな強者が協力してくれるなど、姉に何があったのだろう。
この道は、まさか……王家の間。となると、男が行おうとしていることには察しがついた。そして、あの方も命を落としていたのだと、守りきれなかったのだと恥にも似た感情が渦巻く。
石棺の中身は灰だった。一気に力が抜ける。これでは蘇生などできるはずはない。絶望と諦念に身が凍るが、男は平然と呪文を呟いた。
これほど神々しい光景は見たことが無かった、伝説の不死鳥のように灰から愛すべき主君が蘇る。片膝をついて、このときばかりは男のことを忘れて、主君の再臨を出迎えた……
「……はっ!」
回想と首を切られた夢で目が覚める。ここは南部の要所、都市デボネの安宿だ。思わず首のあたりをさすったがしっかりと首は付いていた。
最低限の身だしなみを整えて、宿屋の二階から降りると姉のレメディオスが満面の笑みで出迎えてくれた。
「おお、ケラルト! もう起き上がって大丈夫なのか?」
「ええ、姉様。体力が消耗していただけですから……ところで、私を蘇生させてくれた殿方はどこへ。お礼を言いたいのですが……」
「ん? セシルか。あいつなら城壁近くの階段にいることが多いな。まぁ見どころがあるやつだ。聖王国の人間なら当然のことだ。あらたまって感謝など必要無いんじゃないか?」
「それはちょっと……」
いつもの姉の考えなしに、癒されるが……色々と確認しておきたいことがある。後は人間として礼をいうのは当然だろう。
外に出て、城壁のあたりを探すと白髪の男はすぐに見つかった。
「あんたか……蘇生しても体力はそう回復しないから寝ていたほうが良いぞ」
「いえ、もう大丈夫です。改めて蘇生に関してお礼を……」
「いや、それも不要だ。あんたの姉の勢いに負けただけだからな」
奇妙な人物だった。蘇生の礼となれば莫大な謝礼が必要になるのが普通だ。それも言葉による礼もいらないとなると、怪しささえ感じる。
「それにしても……灰からの蘇生など聞いたこともありません。
「ああ、
「第9位階!? そんなおとぎ話みたいな話が……」
「プレイヤーのマジックキャスターなら大抵は使えるよ。たまたま俺が天麩羅ビルドだっただけ」
「てんぷら?」
「あーこっちの話だ。ともかく、俺が
「い、いいえ。ありがとう……ございました」
知らない言葉が数多く出てきたが、嘘は言っていないように見えた。ケラルトは神官として畏怖にうたれながら、それでも信じきれずにいた。
第9位階魔法……第6位階でも夢物語だというのに……これからどうセシルと接すればいいのかケラルトには分からなかった。