竜王国の首都が見えてきた。高い城壁はビーストマンの身体能力を警戒しているためだろうが、破損が目立つ。石工たちが集まって作業している。どうやら前回の侵攻の影響はまだ大きいようだ。
「ビーストマンは首都まで侵攻していたのか、よく跳ね除けたな」
「はい。前回も魔導国から借り入れたアンデッドたちが圧倒的な力で! 正直なところ長引く戦に我が方の兵たちは新兵が多く……」
「そう、ですね。亜人種は基本的に人類には無い力を持っているものですからね……」
カルカの顔が少し曇る。かつての自国を思い出したのだろう。ローブル聖王国はそうした敵を相手にするために強壮な聖騎士団を組織していたのだから。
しかし、竜王国は長城も無ければ聖騎士団もいない。おまけに単純な兵力も徐々に削られている。それは他国を頼りにしたくもなるだろう。ビーストマンは人間を食料としか見ていないので交渉もできないのだ。
「さて、どこまでやれるか」
「なんだ、いつになく自信が無いな。お前は我が剣! 堂々と戦えば負けることはない」
「まぁそうなんだが」
レメディオスの言に苦笑するセシル。というのもセシルがビーストマンの軍勢に遅れを取ることはない。正直なところ一人でも全滅させることが可能かもしれない。時間を考慮しなければ。セシルは攻撃型の
セシルはひょっとするとこの世界に来て初めて、他者をあてにするかもしれない。
「城壁は修理中でも、中は健在ですぞ! 城も守りが堅い造りになっております」
なるほど、街の中心にある城はあまり飾り気の無い造りをしていた。最初にこの城を建てた者はビーストマンの襲撃などを予測していたのだろうか? それはこの世界の
謁見はすぐに行われるらしい。貴族などは見栄のために忙しくみせようと、わざと会うまでに時間をかけることがあるが、そのようなことはしない。よほどアダマンタイト級冒険者を戦力としてあてにしているのだろう。
小綺麗な廊下を静かに歩んでいく。セシルとしてはカルカたちのマナーを真似すればいいので、こういうときに実に楽だ。ただ、やりすぎて足音どころか物音が一切たっていない。
“虹”の面々はハナから気にしないことにしたようだ。冒険者らしい度胸をもってずんずんと進んでいく。
しかし、謁見の間で一行は度肝を抜かれることになる。玉座には幼い少女が座っていたからである。
「よくぞ来てくれた! 私が竜王国女王、ドラウディロン・オーリウクルスである!」
「お言葉ありがとうございます。アダマンタイト級冒険者“金鎖”のリーダー、カルと申します。お会いできて光栄です」
「ミスリル級冒険者“虹”のモックナックと申します」
一同はひざまずいて礼を示した。カルカはドラウディロンが自分の顔を知らないことに安堵していた。かつて自分に向けられていた礼儀をそのまま模倣し、それをまた一行が真似している形になる。
「顔をあげてくれ! 助けてもらうのはこちらの方なのだからな! 武力で我が国は魔導国の世話になりっぱなしだが、正直言って冒険者の派遣という形は非常に助かる。魔導国のレンタル傭兵を使うとスレイン法国が何か言ってくるからな……」
ドラウディロンは天真爛漫な少女そのままだった。だが“金鎖”の面々は何か違和感を覚えていた。カルカとケラルトは多くの人に会ってきた経験から。レメディオスは直感で、セシルは単なる長生きとして。どうにもドラウディロンが見た目通りの少女と思えないのだ。
まぁだからといって任務が変わるわけではない。チラつく違和感に困惑しながらも、一同は黙って歓迎された。少なくともドラウディロンは悪人ではないようであるし、騒ぎ立てる意味もない。
「それで陛下、さっそくですが我々という戦力をどこに割り振るかなど話し合いたいと思うのですが……ビーストマンは人を食らうと聞いております。一刻も早く助けになりたいと愚考します」
「うむ。魔導国の冒険者は任務で動くのだったな。歓迎などは無用か。宰相! 地図と部屋の用意を! さぁ立ってくれ。別室で話そう」
移動した会議室には大きな机の上に竜王国の地図といくつかの駒が置かれていた。長年戦闘状態にあるためか室内の道具はどれも使い込まれているようだった。
「大分追い込まれていますねー。おや、この水晶の駒は……」
「ああ、それはアダマンタイト級冒険者“クリスタル・ティア”を示している。それを中心になんとか首都への攻撃を撃退しているのが現状だな。前回の襲撃では首都まで攻め込まれた。まぁ魔導国から借りた兵力でそれはどうにかしたんだが……北東の3つの都市は奪われたままだ」
「では我々の最終目的はその3つの都市の奪還ですねー」
あっさりと難題を口にしたケラルトにドラウディロンは目を瞬かせた。まるでそれが当然というような口調にドラウディロンも思わず顔が固くなる。
「言うは易し、というものではないか? ええと……」
「私はケラ。あちらの聖騎士が姉のレメで、男のほうがセシルです」
「ケラ殿。ビーストマンは人間の十倍の力を持つのだ。そう簡単には……」
「そうだな。俺もレメも剣士だから……前線を押し上げるには結構時間かかるぞ。それとも都市にいきなり乗り込むのか?」
これまたあっさりとできるように疑問を口にしたセシルを、正気かと問うような目で見るドラウディロン。これにカルカとケラルトは苦笑した。
「大丈夫ですよ。そこの二人は控えめに言って化け物ですから」
「都合よく自分を除外するな」
「奪還はともかく、軍がいないと維持できないだろう。やっぱり地道にやるしかないか」
楽天的な会話に幼い姿をした女王は目眩がした。