前線への荷馬車に乗って、衝突地点を目指す。そこをある程度落ち着かせたら、次は都市の奪還だ。静かに流れる時間と風に吹かれる草に、戦争中だということを忘れそうになる。
ビーストマンは部族ごとに動くこともあって、ここでも完全に安全というわけではないらしい。兵士たちの表情も硬い……自分たちは歩いているのに冒険者は荷馬車に乗っているというのもあるかもしれないが。
草が取り除かれむき出しとなった地面が道だが、気にならない程度に傾斜を描いている。竜王国の首都が下の方だ。ビーストマンの国側に山があるのが関係しているのだろう。
「地形をどう思う? モックナック?」
「平和なときは良さそうですが、攻めるとなると楽そうですね。最終的には結構な高低差ができるでしょうし、ビーストマンはただでさえ身体能力に優れていますから」
「へぇ。どれくらい差があるんだろう」
「人間種のおよそ十倍とされています」
「差、あり過ぎだろ……」
ユグドラシルでも装備が制限される異形種には何らかのフォローが入っていた。だが、いくらなんでもステータス10倍差はやり過ぎだ。おまけにここは現実、装備も形を変えればいいだけだ。しかし竜王国はとりあえず健在。やはりプレイヤーのような規格外はいないのだろう。
「その差を埋めるために竜王国は都市を配置していたのだろうな。うむ。だがそれも奪われてしまっては意味がない。救いはおそらく籠城などしない点にある。連中は人を食料と思っているのだから侮りがあるはずだ」
「レメ……何か知力強化のポーションでも飲んだか?」
「なぜ、そうなる! 私はこれでも聖騎士で、亜人との戦いの経験は豊富だ!」
「そういえばこの国のアダマンタイト級冒険者も聖騎士ですよ。行った先で会うでしょうが」
モックナックは角張った顔と細目を上げながら何か思い出そうとしているようだが、意外にもレメディオスの方が早かった。
「ああ……確かセラブレイトというやつだったな。正確にはホーリーロードだが、まぁ聖騎士といえば聖騎士か。そうなると、アンデッド相手でもないのに聖属性だらけだなこちらは」
「純粋な戦闘で叩きのめすしかないな。それとケラとカルが召喚した天使を“虹”につけて縦横無尽に動いてもらうか」
「いや、我々は……」
「まぁ聞いてくれモックナック。我々“金鎖”は人後に落ちない戦闘能力を持っていると思う。だが、経験という点では“虹”の方が上だ。敵がどういう動きをするか分からんから各所に応援に行って欲しいんだ。“金鎖”だけ勝ったって意味がないからな」
ついでに言うと“金鎖”は勝つために攻めたい。これまで幾度も攻めてきているということは、兵力に余裕があるのだろうが、今度はセシルとレメディオスがいる。話題に上がった竜王国のアダマンタイト級冒険者もいるのなら、守りをそちらと“虹”に回して撃退後に追撃に移れる。もっと言えば逃げる前から攻めても良い。
「カルとケラもそれでいいかな」
「そうですね。今回の戦いについてはそれで良いかと。奇をてらう必要はありませんし」
「都市の奪還作戦に関しては今から頭が痛いですけどねっと。人質とか使われたら面倒ですし……ビーストマンがそういった種族なのかは知りませんがね」
魔導国の冒険者である一行にビーストマンに詳しい者はいない。聖王国出身の3人も大きなくくりで亜人種との戦闘経験があるだけだ。
気をつけておかねばならないだろう。カルカたちも貸している
戦闘のアレコレを話し合っていると、手槍を持った兵士がそろそろ物資集積所だと告げに来た。
「物資集積所って……こんなひらけた場所に?」
「ええ。食料などがほとんどで、武具やポーションは発注された分を届けにいきます」
「武具とかより食料の方が大事な気がするがな」
そういうと兵士は青白い顔で苦笑した。
「連中にとっては兵士こそが食料ですからね。そちらには手を付けないんですよ。以前、突出してきた敵部隊に集積所が襲われましたが、武具なんかは壊されましたが、食料は無事でした」
「頭が良いんだか、悪いんだか分からん連中だな」
おそらく食料を残しておく理由は、それこそ
理由はともあれ補給線が維持されているのは喜ばしい。それだけビーストマンたちが勝利を確信しているということでもあるが……それをこれから覆しに行くのだ。
物資集積所に残しておく物資を下ろしたあと、再び旅は再開された。このあたりから兵士に落ち着きがなくなってきて、増援として来ているセシルたちに話しかけてくる兵士が増えた。
「“クリスタル・ティア”に加えて“金鎖”まで来てくださったなら、食われなくてすむかもしれませんね!」
そう嬉しそうに語る兵たちに、カルカは笑顔を返しながら全力を尽くすことを約束していく。そうして戦場へと近付いていく。
「あまり軽々しく約束するのはどうかと思うぞ?」
「全力でやることを誓っているだけです」
「それでも兵は勝手に都合の良い方向に解釈していく。恨まれるぞ」
困ったように微笑むカルカに、セシルは眉間にシワを寄せた。持って生まれた気性なのだろうか、難儀なことだ。わざわざ傷つく必要はないのに……と。もとよりそのつもりだったが、セシルも全力を出す気になった。