竜王国の兵士たちとビーストマンたちは単純な横陣で殴り合っていた。ビーストマンは単純にそれでいいからであり、竜王国側はできるだけ通さないようにするためだった。
そこで右翼側にセシルたち“金鎖”が参戦した結果、あり得ないことが生じた。
快進撃、まさに快進撃だった。自分たちが攻め入るところ、ビーストマンの集団が流れるように崩れていく。竜王国の兵士たちは
セシルが先頭に立ちビーストマンの数を削りに削っていくからだが、兵士たちにセシルの動きは見えない。単純に速すぎて見えていないのだ。皮肉にも敵がそうであるように、何が起こっているか分からない。
だから自分たちがその手でビーストマンたちを押しやっているように錯覚する。ビーストマンたちを恐れない兵士たちの誕生である。セシルが数を減らしているので一体に多数でかかれる。そうして手応えを覚えていくのだから自信に溢れていく。
元々の指揮系統を無視して、とりあえず
次第にくの字に折れ曲がり、ビーストマンを囲んでいく。徐々に形成されていく包囲陣にビーストマンも気づき始めたが、こちらも準備が整った。
「セシルさん! 先頭でしたか!」
「モックナック! ようやく獣じゃない顔を見れて嬉しいよ」
「ハハハッ。作戦は完了しそうですな」
増援と物資を持った援軍が到着したのを見届けて、モックナックはここまで来た。セシルは攻撃のためにゆっくりと進んでいたため追うのは簡単だっただろう。
道中、何もなかったようで
「カル殿とケラ殿を道中見かけましたよ。まさか第4位階魔法を使えるとは驚きです……レメ殿は?」
「こちらに来ていないということは、前線指揮官を狩っているのだと思う。まぁこの調子なら勝てないようなやつはいないだろう」
ケラルトは第5位階まで使えるが、あえて口にすることもない。レメディオスに関してはビーストマンの全体指揮官がやや不安だが、短時間ではそこまでたどり着けないだろう。
「“虹”はできるだけ敵を逃さないために、穴を先んじてふさいでもらいたい。走りっぱなしで悪いんだが……」
「了解! 今度はこちらが酒をおごりますよ!
「
「では我々も行ってきます!」
セシルにバフをかけて“虹”が走り抜けていく。こちらが信仰系中心の編成だから気を使ったのだろう。セシルからすればほんのわずかな援護に過ぎないが、なんとなく頼もしいと思った。
「さて、効率は上がるかな?」
再びビーストマンの軍勢に亀裂ができ始める。もはや後ろに回り込まれている状況に気づいたビーストマンも少なくない。念の為そうした敵から貫きながらセシルは包囲を完成させた。
そうして、轢き潰される形に追い込まれた敵軍の中から小さな光とともに勝どきが上がった。
「“クリスタル・ティア”のセラブレイトが敵将の首を取ったりぃ!」
それは戦いの終わりを告げる声だったが、取り残されたビーストマンたちは誰一人として降伏しなかった。多数で少数をなぶるような掃討戦は竜王国の兵士たちに困惑を残した。復讐した喜びに浸れば良いのか、殺した罪悪感を抱けば良いのか、終わったと安堵すれば良いのか、誰にも分からなかった。
「やれやれ、魔導王陛下が冒険者を変えたいとおっしゃった気持ちが良く分かりましたよ。これじゃただの傭兵だ。特別手当が貰えても割に合わないし、気持ちが悪い」
「意外だな、モックナック……というか、元王国民はビーストマンに対して罪悪感などはあまり持たないのかと思っていた」
「以前だったらそうでしょうが、エ・ランテルが変わってからもう結構経ちます。彼らは彼らで生活しているとぐらいには思うようになってますよ」
戦が終わったらとりあえず酒ということで、王城に伝令を駆けさせたあとは兵士たちで自然と宴会が始まった。後味の悪さを誤魔化すようにビーストマンたちの死骸は埋められた。穴をほったのはセシルである。これで夜中になってしまったのだ。
魔導国組にも物資の山分けはされたが、なんとなく竜王国組とは離れた形になっている。もっともカルカたちを誘おうとあちら側が来ることはあるが。
「だが、これが終われば魔導国から魔物傭兵の貸し出しが本格化する。そうなればこういった戦争への参加なんて任務も無くなるさ。レメたちのおかげで魔導国に対する忌避感は少なくなったしな」
「確かに。私が武勲を叫んでもそんなに喜んではくれませんな」
「なにか分からんが褒められているのか?」
「ああ、お前たちがいなければこうも上手くは運ばなかった」
「私はこの顔面ですし、セシルさんは凄すぎて理解が追いつきませんからね」
「ふっ。まぁ戦なら任せておけ」
実際、竜王国の兵士たちの間でもレメディオスの評価は高かった。次にカルカとケラルトも見た目に加えて、どさくさに紛れて
「でも一番凄かったセシル様があまり評価されないのは納得がいきません」
「まぁまぁ物理でも政治でも、派手な人が評価されがちなのはカル様もご存知でしょう。まぁとんでも過ぎて一周回って地味なのも珍しいですが、うっふっふ」
「別に良いだろ。一人倒そうが万人蹴散らそうが依頼通りの金額だ」
そんなことを話しながら酒を汲み交わす。“虹”のメンバーも加わってきて、セシルはバフの礼を言ったり乾杯の音頭をとったりした。
「誰か、近付いてきてますね」
「またカルたち狙い……にしては剣持ってる音だな」
流石に“虹”も“金鎖”も前後不覚になるほど飲んでいない。皆、背中で隠すように武器を握る。
「そう警戒するのはやめてくれないかね。“クリスタル・ティア”のセラブレイトと申します。同じアダマンタイト冒険者の“金鎖”に礼儀を払いに来たのですよ」
ぼんやりと光る剣に照らされた伊達男はそう言った。
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と書くと良いと聞きましたがむしろここまで読んでくれてありがとうございます