【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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気炎万丈

 前線基地を作ると聞いた時、セシルはまた迂遠なと思った。あたり一面草が生い茂っている場所がそうだ。流石に縁起が悪いとでも思ったのか、先日の戦場からズレている。あそこは血の匂いが未だに残り、しばらくすればアンデッドの発生地帯になりそうだった。

 その前回の戦を参考にすれば、セシルを一人都市に放り込めば、時間はかかるが制圧可能だ。だが、そんなことを口にすれば狂人扱いだろう。

 それにセシルからすれば物事が前後するだけだ。都市を解放してから基地を作るか。基地を作ってから都市を解放するか。都市の中でなにが行われているか知らない限りであるが。

 

 

「じりじりするが……この国の主役は彼らだからな……」

「気が合うな。亜人どもなど私とお前でさっさとかたを付ける方がよほど良い」

 

 

 レメディオスと同等の好戦的思考に陥った気がして、少し凹んだセシルだったがこの場合、確かにそれがもっとも早い。飛行(フライ)で都市に入り込み、中から扉を開ける。あとは司令官を倒してしまえばいい。

 

 

「白い目で見られる覚悟で、軍議で提案しましょうか?」

「うふっ化け物チームですね。ただ維持を考えないことになりますから、都市三つとも落としてしまうことになるでしょうが……それに……」

 

 

 木材を持った兵士たちが往復している。仮設でもできあがるまでに幾日かかるだろう。そう思いながらセシルはケラルトの言に耳を傾ける。

 

 

「ビーストマンの性格的に籠城を選ぶでしょうか? また軍勢を揃えてやって来る方がらしい(・・・)気がしますが」

「ああ、確かに。とすると将軍たちはそこまで考えて行動しているのか」

「まぁ冒険者頼りになるのは変わりませんが、大きく力の差がある相手でも守備に徹するならだいぶ楽ですからね」

 

 

 確かに兵士たちのことを考えればそれが良いだろう。

 あそこまで追い詰められても降伏や脱出をしなかったビーストマンだ。意地か誇りか何かで縛られているのだろう。最期まで攻めの姿勢を崩さない可能性は高い。

 将軍たちも流石はプロだな……と考えたセシルは一つの可能性に気付いた。前回の会戦ではビーストマンを一人も逃がしていないのだ。もしかすると……派遣軍が全滅したことを知らない可能性がある。

 

 

「……ちょっとひとっ走りしてくる。ここはお前たちに任せる」

「えっなにを……」

「気になることがあるだけだ。危険はない」

 

 

 形にもなっていない基地からセシルは出発した。まずは基地の左右にある北西と南東の確認だ。セシルの足は風より速く、とりあえずの確認は済んだ。別働隊はいなかった。

 次に北東へと慎重に進んだ。占領された街を見るためだ。街の門は閉ざされ、中から悲鳴と下卑た笑い声が聞こえてくる。戦の準備をしている様子はない。

 セシルはこれらの情報を陣地にまで持って帰った。

 

 

「ビーストマンが戦に備えていない? いや、失礼ですが、セシル殿の言でもそのような……亜人と言って頭の中身まで獣と決めつける輩もいますが、実際にはそうではないのですよ?」

「まぁ俺が見たままを伝えただけだからな。真実かどうかはそちらで決めてもらって構わないよ、将軍」

「同じ冒険者としては信じてさしあげたいが、“クリスタル・ティア”としても同意はしかねますな」

「そうか。我々は外様だしな。繰り返しになるが見たままを伝えただけだ……じゃあ」

 

 

 しっかりした造りの兵舎から出ていく。ともあれ別働隊がいないのだから、敵が油断しているだけでこちらに害はない。義理は果たしたといっていいだろう。ひょっとするとなにかのチャンスになったかもしれないが、それだけだ。

 

 用意されたシェルターテントに戻る。カルカたちにも同じことを説明した。喋り終わると水を渡され、喉を潤した。

 

 

「せっかくの奇襲の機会ではないか!」

「見ようによってはこの基地が完成するまで、余裕ができたとも言えるな」

「相手が知らないということは、いつ攻めてくるかもわからなくなったとも言えますねー」

「攻めに優れる敵を防戦に回らせる機会を逃すのは惜しいですね」

 

 

 相手に準備する時間を与えると、聖王国の二の舞を演じることになる。それをカルカたちは気にしていた。つまり人質を使われたらということである。

 カルカは自身を利用されたし、レメディオスは人質ごと敵を倒さねばならない場面を何度も目にした。

 

 

「ビーストマンが人質を使うか知らんから、困ったな」

 

 

 戦力の問題ではなく、今回の任務は竜王国への応援だ。活躍するのはいいが、勝手に行動したととられるのも問題がある。

 あまり目立つのもこの国にとって良くないか……などと考えていたところレメディオスが肩にがっしと手を置いた。

 

 

「みなまで言うな……やるのだろう? 我々だけで!」

 

 

 えっ。いや、確かにこのまま時間を無駄にすると……とは思っていたが。そうセシルは困惑する。

 

 

「こうしている間にも街の人々は悲惨な目に合わされているでしょう。竜王国の兵が整うのを待っていたら、犠牲は増える一方です」

 

 

 うん。確かに、その通りだ。ビーストマンが生き続ける限り、都市の人々は食料として消費されていく。

 

 

「まぁ難度の高いビーストマン相手に普通の兵を揃えたって意味は薄いですからね。うっふっふ、ここは挑発の意味も兼ねて」

 

 

 人間から攻撃を受ければ侵攻軍が失敗したことも知るだろう。そうなれば再び会戦の場まで持ち込むこともできる。

 

 

「セシルさん……水臭いですよ。飛行(フライ)が使える魔法詠唱者(マジックキャスター)は一人でも多い方がいいはずだ」

 

 

 モックナックまで! いや、確かに彼らも一般のビーストマンには引けを取らないはずだ。

 

 

「そうかぁ。じゃあ、やるか! 言っておくが命の保証はないぞ!」

「そんなのがある依頼は見たことがねぇ」

「俺たちだってミスリル級冒険者だ!」

 

 

 こうして自棄になった魔導国冒険者の代表としてセシルは立ち上がったのだった。

 

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