【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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作戦前

 ビーストマン侵攻軍撃滅――その一報が竜王国王城に届いたのは戦闘があった次の日のことだった。使者は戦闘の後すぐさま出されており、本人も馬も疲労によって倒れる寸前だった。だが、それくらい一刻も早く知らせるべき情報だったのだ。それほど長くビーストマンとの戦いは続いてきたのだから。

 

 

「“金鎖”の方々が攻め入るさまは、まさに無人の野を往くがごとし……! すぐさま敵の右翼は崩壊し、周囲を取り囲まれたビーストマンどもは最期まで抗っておりましたが、その悪あがきも無駄に終わり信じられぬことに敵兵は一人残らずすり潰された次第でありました!」

「うむ! うむ! よくぞ知らせてくれた! 休むがいい!」

 

 

 謁見の間でどうにか戦場の様子を伝えきった伝令兵は、力を急に失ったように倒れ伏した。扉の外に控えていた兵士たちが両側から持ち上げて、運び出していく。

 まだ日も高いので元来の性格を出せないドラウディロンだが、その必要もないぐらい無邪気を装う元気が湧いてきていた。

 

 

「前回の侵攻を防いだ魔物傭兵といい、魔導国の貸してくれる兵力はどれも凄まじいな……」

「長年、法国に頼ってきたが魔導国とも親しくするべきか」

 

 

 それぞれの部署の代表たちも魔導国の評価を上げていく。竜王国は守備を他国に頼ることが多かったが、これまで頼ってきたスレイン法国よりも魔導国へ比重を傾けていくのが良いかも知れないという考えが広まっていく。

 魔導国は表立ってアンデッドや魔物の兵を貸し出している国だ。それらを借りることは魔に与するように思われてきたし、本当に従うか疑問視もされてきた。だが、魔導国の属国である帝国も借り受けているし、王国もそれに続くだろう。

 ならばスレイン法国の不興を買ってでも、確実な戦力を得るべきではないか。そうした流れが生まれたのだ。それはアインズが“金鎖”を送り込んだ目的の達成でもあった。だが、まだこれからだ。三つの都市の解放という大願が成就するかも知れないと竜王国は期待を膨らませていった。

 

 

「前線の指揮官たちと、魔導国の冒険者へも激励の手紙を書かねばな」

 

 

 それはドラウディロンの嫌う行為だった。何が悲しくて少女らしい文字を書かねばならぬのかと、実年齢と見た目が乖離している彼女は常々思っていたが、今日は酒の力をかりずとも書ける気がしていた。

 

 そして現在に至る。“金鎖”と“虹”は占拠された都市が見える丘に伏せて隠れていた。一体いつ攻め入るか……考えた結果、むしろ朝が良いだろうという意見に落ち着いた。これはビーストマンが見た目通り夜行性である可能性があるなら、むしろこちらの目が見えている方がいいためだ。

 敵が人質を使ってきた時……これはセシルが対処するしかないと判断して一丸となって進むことにした。単体で部隊として使えるセシルを固めることに難はあったが、仕方がない。幸い都市だけあって通りも広いのでそこまで無駄にはならない。

 

 ……ここまで離れていても内部の凄惨さが分かるほどあの都市は戦の臭い(・・)が濃い。レメディオスは夜叉のような表情でギリギリと歯を食いしばっている。耐えられるだけ彼女も成長した。少なくとも一人で行ってもどうにもならないと分かっている。

 その正義感はセシルにとって救いだった。今回の作戦を実行に移したことを、肯定されている気がした。レメディオスと対照的にセシルは偏見が無さ過ぎる(・・・・・)。ともすれば人食いを認めてもおかしくないほどだ。

 なにより魔導国組だけ独自行動を取るには、なにか理由が必要ではないかと思っていたのだ。人が食われているのは見過ごせないというのは、冒険者として、人として理由になる。

 

 

「夜が明けたら作戦開始だ。それまでは我慢していよう」

「分かってはいる。分かってはいるが……」

「姉様は本当に真っ直ぐですねぇ。ですが、それも仕方ないでしょう。セシルさん。“虹”の方々。中に入っても取り乱さないでくださいね。亜人種に占領された街というものは、純粋に心を折りに来ますから」

「私もですわね。これまでは報告か事後しか見たことが無いのですから」

 

 

 それだけの地獄だということ。“虹”の面々は無意識に武器の柄を握りしめた。

 セシルはぼーっと思い出していた。世の中を見捨てるに至った様々な場面を。そのどれもが霧の彼方だ。その続きが繰り返されるのか。

 

 

「今日の夜番は俺たち“虹”が努めさせてもらいますよ。“金鎖”の方々は明日の主役なんですから。ここは譲れません」

 

 

 珍しくモックナックが断定的に言った。流石は高位冒険者のリーダーを長く努めているだけのある、有無を言わさぬ決断力に満ちていた。

 だが夜になって誰もが早く寝ておこうとはしなかった。皆が高ぶっているのか、あるいは恐怖しているのか。分からないが、むしろ今の光景を目に焼き付けていようとするかのようだった。

 

 

「俺は寝なくても大丈夫だが、お前らは起きていて大丈夫なのか?」

「中の様子を思うとな……私は聖王国で亜人種に占領された砦を幾つも見てきたんだ」

「だからといってお前が寝なくて、彼らの助けになるわけでもないだろ」

「セシル殿、もう御三方を寝所に引っ張り込んでくださいな。そっちのほうが早い」

「そうするか……」

 

 

 三人を小脇に抱えてテントに向かうセシル。それを見て“虹”の面々は苦笑しながらはやし立てた。美女三人と一緒で果たして眠れるのかと。

 

 

「しかし、一緒に戦っていなかったら嫉妬で火ぐらい起こせそうだな」

「まぁな。でも仕方ねぇよ、あんな化け物みたいな強さしてれば、それぐらいの役得はあってもいいだろ。モモンさんとナーベさんみてぇなもんだ」

「どっちが強いんだろうな、セシルさんとモモンさん」

「そりゃモモンさんだろ流石に、あの二刀流は受けきれねぇ」

「だが、とんでもなく速いからな。モモンさんだって無傷とは思えないな……見てみたいな。だから今回の依頼はさっさとかたを付けてしまおう」

 

 

 最後に力強く頷いて、“虹”の面々も寝る準備を始めた。起きる順番は決まっている。わざわざ取り決める必要もない。不思議と大きな作戦を控えているとは思えない。祭りを待つ子どものように硬い寝床に転がっていった。

 

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