【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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最低限の礼儀

 敵軍の横腹に思いっきり食い込む“クリスタル・ティア”。セシルにとってそれは完全な計算違いだった。そもそも少数でこの数の敵に挑むということ自体、躊躇して当然のことだ。自分のことを完全に棚に上げているが、それはそうするだけの力量があるからだ。

 “クリスタル・ティア”にセシルと同じ力があるかといえば、自惚れるつもりはなくとも否となるだろう。セシルは異物であり、彼に勝てるのはそれこそ魔導王ぐらいのものだ。

 街を守らなければならない以上、“クリスタル・ティア”に構う余裕はない。

 

 

「〈光輝剣〉!」

 

 

 セラブレイトの方から光が輝き、敵が血肉を撒き散らすのが見えた。実力はほぼレメディオスと同じくらいか、ただしセシルの貸している防具の分は差が出てしまう。

 あの武技も相応に消費することを考えれば……完全に守るというパーフェクトな展開は望めないかも知れない。兵士たちが到着するまでに生き残っているかが問題だ。

 

 

「やることが増えた……かどうかはまだ分からんか。引き続き注意を俺に引き付けるのは変わらんが、方法を変えてみるか」

 

 

 敵を休まず切り裂きながら、自分の記憶に手を伸ばす。セシルはフェンサー系統だけでなくクレリック系統でもあるのだ。重要なのは場所だ。“クリスタル・ティア”に敵が群がらないようにビーストマンの中央部分かつ進行方向に狙いを定めて……

 

 

聖なる氷の壁(ホーリィ・アイス)!」

 

 

 聖水でできた氷の壁が“クリスタル・ティア”の右手側にせり上がる。聖水でできているためカルマ値がマイナスの敵は近くに寄ればダメージを受けるが、独自の文化を持つ亜人種には期待できない。それでも彼らが四方から群がられることはなくなった。

 セシルは基本、剣士として戦うために位階魔法については記憶が曖昧なところがある。咄嗟に使うには不安が残ってしまう。

 

 そこから先のセシルは相手の数を減らすことに集中した。部族長クラスの敵も交ざっていたが、セシルにとっては誤差の範囲だ。だが問題なのは、その部族という存在だった。

 

 

「行かせるか……!」

 

 

 烏合の衆と断言できるほどビーストマンにまとまりがないわけではない。たまにセシルを無視して街へ向かおうとする集団がいる。どうやらビーストマンの軍勢は小集団の集合体であり、必ずしも全体と行動を共にするわけではないようだ。

 それに対応しようとすると、わずかに全体の前進を許してしまう。ビーストマンの注目を集め続けるのが難しくなるのだ。

 

 

「うおぉぉ! ドラウディロン陛下、このセラブレイトの活躍をご覧になっているでしょうか!? いや伝わっているに違いない!」

「……まぁ大物に出くわさなければ大丈夫か。それに間に合ったようだし」

 

 

 セシルの独り言の通りに、“クリスタル・ティア”の後ろから竜王国兵士たちがようやく到着した。槍を構えてビーストマンの集団とぶつかり合う。

 

 

「時間がかかっても、一人でやったほうが良かったかな。流石に全員は助けられない」

 

 

 すでに兵士たちには死傷者が出始めていた。ビーストマンたちとは身体能力差があり、いくら槍で距離を取ろうともわずかな隙間から飛び抜けるものもいる。ただ殺された兵士は幸運なほうで、顔面からかじりつかれた兵士はその場で敵の喉を潤すことになる。

 

 ひたすらに敵を減らし続け、敵陣をぐちゃぐちゃにし続けるセシル。真っ当な軍隊なら疾うの昔に撤退しているだろう。

 だが、こいつらは違う。セシルが敵を抑えに駆け回っている間に一集団が突出していった。目指すのはド・ラ・ノレステの街。追おうとするセシルの後ろで、また別の問題が発生していた。

 

 

「兵士長、アガピト。礼儀として名だけくれてやろう」

「アダマンタイト級冒険者、セラブレイト! 陛下に捧げる功績の一部としてやろう!」

 

 

 普通のビーストマンよりも上背があり、体も太い。さらに鎧や武器も魔化されたもので、一目で強者と分かる。顔は虎のようだが、兜でよく見えない。

 どちらを優先すべきか、一瞬セシルは迷ってしまった……だが、確かに見えた城壁の上の仲間たちが頷いたのを。

 セシルは心を鬼にして敵兵との相対に戻った。

 

 

「セシル様も相変わらず心配性ですね」

「飛び抜けて強い、ということは周り全てが脆く見えているのかも知れませんね。あまり気を遣われるのも不満だということをここで示しておきましょう」

「ともかく登って来るまでにできるだけ数を減らし、上がってきたやつは私が相手をする……でいいんだよな、ケラ?」

「姉様は弓兵の合図をお願いしますね。まさか忘れていたわけではないでしょうけど」

「覚えている! ただ多分当たらんぞ。勘だが」

 

 

 迫ってくる敵兵たちは豹頭で素早かった。そういう一族なのだろう。矢を放つ回数もそれほど多くはなさそうだ。そして、敵が少し細かく見えた時、レメディオスは手を振り下ろした。

 弓兵たちの放った矢は思っていたよりは命中したと言って良いだろう。だが、それで相手は止まってくれなかった。流石にカルカとケラルトの聖なる光線(ホーリーレイ)に当たった者は絶命したが、大半が矢が刺さったまま壁を登ってくる。

 

 

「全員、抜剣! 死ななければ良い! バリケードを挟んで命を優先しろ!」

 

 

 そして私が切り倒す。そう心のなかでレメディオスは付け加えた。

 カルカとケラルトが呼び出した安寧の権天使(プリンシパリティ・ピース)を左右に、レメディオスは戦い始めた。同じように前衛が一人だなと、愛する男に心中で話しかけてみながら。

 

 幸か不幸か一騎打ちを神聖視して、周囲が止まる風習は無いらしい。今、セシルは全力で直刀を回転させていた。防御どころか回避もせず、最速の一撃を見舞う。剣風に敵を巻き込むのも忘れない。この調子でいけば相当な早さで敵を殲滅できるはずだ。

 

 

「ぐぐっ」

「その程度か、家畜」

 

 

 その後ろでセラブレイトは弾き飛ばされていた。ビーストマン相手に鍔迫り合いなどする方が悪い。ただ流石にアダマンタイト級冒険者というだけあって、土埃に白装束がまみれても傷は負っていない。

 

 

「〈疾風加速〉〈能力向上〉……!」

「〈外皮超強化〉〈重要塞〉」

 

 

 互いに時間をかけるのは無駄だと判断したのだろう。セラブレイトは速さに、アガピトは肉を切らせて骨を断つように武技を展開していく。

 

 

「〈光輝剣〉!」

「〈剛腕剛撃〉……!」

 

 

 一瞬の交差。セラブレイトの一撃はアガピトの胸を見事に切り裂いていた。しかし、セラブレイトはぐらりと横に転倒した。アガピトの攻撃もセラブレイトに命中していたのだ。

 痛み分けとならなかったのは悲しいかなビーストマンとの肉体差だった。セラブレイトは意識こそあるものの激しく脳を揺らされ、起き上がることができない。アガピトは激しく出血しながらも立ち上がることができた。

 “クリスタル・ティア”のメンバーが駆け寄ろうとしているが、アガピトの方がわずかに早い。そのまま刺されようとするトドメだったが……飛んできたビーストマンの肉体にアガピトは吹き飛ばされた。

 

 

「なに……?」

「あー終わった終わった。何千回ぐらい振ったかな」

 

 

 そこでアガピトは気付いた。周囲で同胞たちが全て地に伏していることに。

 

 

「貴様……何をした!」

「真面目に戦った結果だ。こちら側は兵士たちの奮闘もあるが……残っているのはお前と街に入った少数だな」

 

 

 断固認めんとアガピトは得物を振り下ろしたが……スパンと音を立てて両腕が切断された。

 

 

「手負いに大人げないが、かかってきたのはそっちだ。最後に名だけ名乗っておこう。アダマンタイト級冒険者のセシルだ」

 

 

 続いて痛みなく首を刎ね飛ばした。

 兵士たちが戦勝に湧いている。現金なものだ。セラブレイトも後遺症が残るようには見えない。まぁ上手く運んだかなと思って、街の方を見るとレメディオスたちが手を振っているのが見えた。




戦闘シーンは長くなる傾向がある…
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