戦の後、ド・ラ・ノレステに竜王国軍も入った。残っていたわずかな城兵たちが喜んだのは言うまでもない。やはり同じ兵士の方が安心感が得られるのだろう。
本来想定した造りよりも多くの兵士が入ったことになるが、良くも悪くも無人になった家が大量に余っていた。あとは食料の搬入を計画すれば竜王国はこの都市を拠点とすることができる。しばらくの間は街に残っていた物資でなんとかなる。
市庁舎では当然のように会議に次ぐ会議が開かれた。やはり、というか問題視されたのはセシルたち“金鎖”と“虹”の独断専行だった。これが思ったよりも紛糾する。
「じゃあ、なんですか。我々は食われていれば良かったって言うんですか!」
「そうは言ってない! だが勝手に動いて、敵を刺激するような行為は控えるべきだったというんだ!」
「都市の奪還も、平野での迎撃も、“金鎖”がほとんどやったようなものじゃないか! あんたたちは後から来て足を引っ張っただけだろう!?」
「なんだと! 戦死した兵もいるのだぞ!」
万事、この調子である。当の“金鎖”を交えずに言い争っている。竜王国軍からすれば独断で事態を動かすのはやめてほしい……と言っておかなければならない。それがどんなに利益を生む行為としても言っておかなければいけないのだ。
だが、この都市の生き残りたちからすれば、その独断がなければ食われていたのだから冗談ではない。そこに双方に生まれた“金鎖”を英雄視する者たちまで加わって、話に収拾がつかなくなる。
「これで我々が戦局を動かせると証明できたわけだ。次の都市に行くときは一声かけていく。我々はあくまで魔導国の冒険者だからな。我々にも任務があるが、配慮に欠けたことはあくまで個人として謝っておく」
セシルがそう発言したことで一応は棚上げにできた。竜王国軍としてもいたずらに自分たちだけで戦いたいわけではない。冒険者に任せられるところは任せたいのだ。
会議が行われていた部屋から出るとセラブレイトがセシルを待ち構えていた。分厚い手紙を押し付けて、睨んでくる。
「ドラウディロン陛下からの手紙です。大切に保管しなさい……それと、あの兵士長との勝負は最後まで任せられれば勝っていたのは私でした。余計なお世話というやつです」
「それは悪かったな。あんたの戦いには割り込まないようにするよ」
「そう。ドラウディロン陛下が最も頼みにされているのはこの私なのです。勘違いしないように」
「そりゃあんたが竜王国の冒険者なんだから、そうだろうさ」
少女のような姿をした女王を思い出してみても、セラブレイトを頼みにしていて別におかしくはない。それらしい会話も無かったが。
それにしてもとセシルは思う。自分に突っかかってくるのは良いが、その理由がドラウディロン女王絡みだらけだと。長くこの国にいるのだから兄や父のような気持ちでいるのか? それにしては褒められることに固執しているような……まぁ何だって良いが後ろから刺すような真似だけはしないで欲しい。
軽く手を振ってセシルはセラブレイトから離れた。その姿をセラブレイトはじっと睨んでいた。
「……ということがあったんだが、どう思う? というかリーダーはカルなのに俺が睨まれるのか?」
「いえ、戦っているところだけ見れば完全にセシル様が目立ってますから」
「そのセラブレイトというやつ、なにかおかしいんじゃないか?」
「まぁ高位冒険者というのは変わった人物が多いですし……おかしさでいえばセシルさんの方が上なのでは? あの数に突っ込んで行きますし」
「何気にケラがひどいんだが……それにしてもこの部屋割はおかしくないか?」
“金鎖”に割り振られた部屋は市庁舎の一室であった。男女混合のチームに一つの部屋……考えるまでもなくそういう目で見られているということだろう。おまけに間違っているわけでもない。市庁舎内なのはいざという時居場所が分かりやすいようにであろうが。
「うっふっふ、まぁそれは今更でしょうが……それは一旦おいておいて、この女王陛下からの手紙は一体……」
「ああこれね…」
セラブレイトは勘違いしていたが、手紙が分厚かったのは“金鎖”全員分が入っていたからだ。その内容はまさに子どもが書いたようなものだった。それも可愛らしい子どものようで、天真爛漫さと一生懸命さが混じり合ったような……セシルたちは女王と会議をしてるし、本人に何か違和感を覚えているのでむしろ困惑している。
「ここまで幼くなかったよな。戦況もちゃんと理解してたし」
「これは……多分、戦意高揚のためではないかと……」
「高揚? するか?」
「うっふっふ、分かっていませんねぇ。人は誰かのために戦うほうが力が出るものです。それがいたいけな少女王のためとなれば、殿方の騎士道精神に火をつけるようなものです」
「? カル様やケラがたまに下手に出てるような態度を取るようなものか?」
「まぁ大体あってます。あの女王陛下は意外と自分の容姿の魅力を理解しているということですよ」
「容姿ねぇ。理屈は分かった。それはつまり、あのセラブレイトという男は……」
全員が押し黙ってしまった。4人とも狭量ではないからこそ、趣味は人それぞれということを理解している。理解しているから、コメントに困ってしまう。
「絵面は想像しないでおこう。これからしばらくは顔を合わせるわけだし」
「それが良いでしょう。この戦い……任務もそう長くないでしょうが」
他の都市から攻めてきた軍を片付けたのだ。ビーストマンたちの性格上、残り二つの都市にはそれほどの数は残っていないだろう。
あとは魔導国が用意する傭兵との取引で決まる。
「不思議ですね。故郷ではないのにエ・ランテルに帰りたくなってきました」
カルカの一言が妙に重く感じられた。
ああ、全員一部屋は辛い