中央へと向かいつつ敵を丁寧に屠るセシルの前に、一体のビーストマンが立ちふさがった。獅子の顔は勇ましく、たてがみは金色のようだ。何より大きい……他のビーストマンが人間より少し大きい程度なのに対して、オーガと見紛うような威容を誇っている。
セシルを前にした彼は極上の獲物を見つけたような……いや真実そうなのだろう。ビーストマンとして偏食傾向を遺憾なく発揮していた。
「分かるぞ……この騒ぎ、首魁は貴様だな。その肉の締まり、千に一つ、いや万に一つの珍味よ。この俺の食卓に上るのに相応しい。部位を損ねないように、潔くその身を捧げるがいい」
「変態はここのところ食傷気味だ。お前こそ抵抗しなければ痛みなく処分してやるぞ。どうも戦士の誇りとかそういうのとも無縁なようだしな」
「ハハハハ! 口も珍しい! この侵攻部隊長……」
「ああ、名乗りとかは良い。さっさと終わらせるとしよう。〈獣殺し〉」
対獣特攻がビーストマンに適用されるかは不明だが、セシルはふわりと相手の懐に飛び込んで首を両断した。持っていた大斧も曰くありげな鎧も全く意味をなさなかった。
「装備の回収なんかも後回しで良いか……レメ!」
見れば中央付近で乱戦が起こっていた。レメディオスが部族長クラスの相手と一騎打ち状態にあり、加勢しようとした冒険者たちと付近のビーストマンが争っているようだ。
セシルはそこに駆けつけビーストマンたちを蹴散らしていくが、いかんせん数が多い。“金鎖”“クリスタル・ティア”がいても混戦になっているのだ。事態を沈静化させた時にはレメディオスの一騎打ちも終わっていた。
「セシルさん! そちらはご無事に?」
「ようやく合流できたな……リーダーらしきやつは倒した。後は内部の掃除が待っている」
「そうですね。“クリスタル・ティア”を中心としたチームと、私たちを中心にしたチームとに分かれて数を減らしていきましょう。敵陣の中ですが、リーダーを倒されたなら強力な個体は少なくなっているはずです」
「まったく……亜人種どものせいで忙しいことだ。休憩も取れん。合流の必要があるときは〈
「そういうことは思いつくんですよね、姉様は」
「伊達に聖騎士だったわけではない」
カルカたちも調子が出てきたらしい。“クリスタル・ティア”と他の冒険者たちはセラブレイトを応援すべく、すぐに動き出した。もともと竜王国に所属していた冒険者たちも続く。随分と数が分かれてしまったが、“金鎖”には“虹”が付いただけだがセシルがいる以上問題はない。
「では我々はあちらのグループとは別方向ですな」
「苦労をかけるな、モックナック」
「なんの。こちらこそ部隊長などはお任せしておりますからね。その分は数でお返ししましょう」
探索などは“虹”のような経験の多い者たちの方が“金鎖”より上だ。一緒に来て大いに助かったというべきだろう。
この探索で残党兵を倒すことも終了した。セラブレイトもなんとか兵士長を倒したらしく息を切らして戦果を自慢していたが、皆もう慣れており特に反発もなく流された。
その後、制圧完了の連絡を出すために何人かを早馬で送り出して、慌ただしい日は終了した。
翌日になると気の早い冒険者の中にはさっさと帰る者もいたが、“金鎖”はそのまま残った。敵とはいえ後片付けもせずに放っておくのに気が引けたのもあるが、セシルは万が一の事態に備えるつもりだった。援軍が来るまでは少なくとも残るつもりだ。
「むぅ……獣臭くてかなわんな」
「レメはいいから休んでろよ。できるだけ早く埋めてしまうのは、俺の単なる自己満足なんだから」
ビーストマンの死体から装備を剥ぎ、荷車に載せるだけ載せて外に掘った大穴に投げ入れる。特に敬意を払っての作業には思えないし、ビーストマンからすれば人間種に弔われること自体が侮辱だろう。ゆえに単なる掃除作業と言うべきだ。
森に暮らして長かったのもあって、セシルはこうした単純作業は苦にならない。ただ前の都市でもそうだったが、いずれ埋めた場所からアンデッドが誕生しそうだなとは思う。流石にそこまで面倒は見ないが。
「うっふっふ。セシルさんは何やら気がかりがある様子。当ててみせましょうか?」
「ぐぅ……別に難しいことでもないだろ。気付いたのなら逃げる準備でもしておけよ。残るのは最悪、俺だけで良いんだから」
「ん? どういうことだ?」
「ビーストマンは国を形成している……つまり、前線に送る補充兵はこの都市に来るということですね」
「カル様、大正解~。ついでに言えば向こうが劣勢に気付いていたら補充兵どころじゃない規模が来る可能性がありますね」
「なぜお前が正解を与える。折角取り返したのに、すぐ取り返されたら、おちおち帰ることもできんしな。次くらいまでは守っておこうというだけだ。自慢じゃないが俺だけならできるだけ戦ってから逃げられるからな」
「なんだ、そういうことか。いつまでも水くさいやつだ。お前が残るなら、私たちも残る! 生き延びる手段なんていくらでも思いつくだろう……ケラが」
バシバシとセシルの背中を叩くレメディオスに、微妙な顔をするセシル。いつの間にか随分と過保護になってしまったと思うが、彼女たちには生き延びて欲しいのだ。だからといって無理に引き剥がすこともできない感情が顔に出ていた。
それから数日が経ち、生存者も見つからないまま時間を過ごしていた“金鎖”の宿に竜王国の冒険者が駆け込んできた。
「き、“金鎖”の皆さん! 大変です! 北東からビーストマンの大軍が……」
「やはり来たか……さて、何日保たせられるかな?」
そうつぶやいて外に出たセシルに、今度はモックナックが駆けつけてきた。
「セシルさん! 援軍が来たんですが……その、なんというか……とにかく来てください!」
「うん? 要領を得ないな……」
モックナックに連れられて、竜王国側の入口へ来たセシルは援軍の姿を確認した。そして、ビーストマンに同情した。
ちょっとテンポを早めたい