【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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無駄の恐怖

 ビーストマンたちの強さはどこから来るのか? そう考えたとき真っ先にあがるのはその身体能力だろう。彼らの敵対種族……というよりは主食である人間種のおよそ十倍。これを恐れないのはどうかしているだろうが……実際に彼らとの戦闘を経験したものなら、違う答えを出すだろう。

 それは闘争心。多少の傷などものともしない、体に剣を突き刺そうが、それでも食らおうとしてくる。

 人間は死だけでなく負傷も恐れる。当然だろう四肢どころか指の一つでも欠損すれば、のちの人生を大きく変えてしまう。

 だから常に戦局はビーストマンの優位に進行していた。

 

 だが、本当にビーストマンは恐れを知らないのであろうか? 確かに彼らは圧倒的強者を相手に蹂躙されても戦いをやめなかったが……その答えはこの日でるかも知れない。

 

 

「我々の軍勢も見えない。だが、獲物たちの姿も見えないな。扉の前になにかあるわけでもない」

「肉共のこと。取り返したは良いが、我らを見て逃げたのだろう。そもそも我らの同胞が苦戦したというのも怪しいが……ひとまずこの都市をもう一度制圧して、肉を運び入れやしょうや」

 

 

 ビーストマンの増援軍は大量の保存食を持っていたが、同時にいくらか檻に入れられた人間もいた。幹部たちの楽しみのためだ。彼らにとってはささやかな量であるが、これから充実していくだろう。その未来を想像してビーストマンの兵たちは下卑た笑いを浮かべた。

 さすがに全体を率いる将には思うところもあったが、誇り高きビーストマンとしてやることは変わらない。ただ制圧と捕食あるのみ。

 

 

「前衛を解き放て!」

 

 

 号令とともにビーストマンの部隊が都市の扉に殺到する。彼らは攻城兵器も使わず、体当たりのみで閂を打ち砕こうとする。優れた種である彼らだからこそ、できるやり方である。

 いくばくかの時間をかけて彼らは扉を打ち破り、意気揚々と中に入り込んでいき、後続もそれに続く。

 だが先陣をきった前衛は優れた嗅覚を持ってるがゆえに困惑した。生きた人間の匂いがする……それは喜ばしいことだが、同時に嗅ぎなれないカビのような臭いを感じ取った。そして……増援軍が都市に入りきったとき扉の近くから爆炎が吹き上がった。

 

 

「〈焼夷(ナパーム)〉……第七位階だったか? やはり炎の魔法は派手で良いな」

 

 

 この世界では強力などでは収まらない威力だ。それを放った存在をセシルは上から見下ろした。それはふわふわと浮かぶ頭蓋骨であり、今は赤く輝いている。そして竜王国の紋章が入った布をぶら下げている。

 

 

精霊髑髏(エレメンタル・スカル)……上位アンデッド創造のレベルぎりぎりじゃないか。一体、何を材料にしたんだ? それに……デス・シリーズか」

 

 

 精霊髑髏(エレメンタル・スカル)を指揮官にしたようにデス・ナイト、デス・ウォーリアー、デス・ウィザード、デス・プリースト、デス・アサシンのチームが後ろに整列している。この五体組も竜王国の紋章をたすきにして着用している。

 

 

「そういえば、作りすぎて余ってるとか言っていたような……」

 

 

 デス・ウィザードが火球(ファイヤーボール)を唱えると、ビーストマンが面白いように吹き飛んでいく。部族長クラスもデス・ナイトやデス・ウォーリアーが少し足止めした隙に、デス・アサシンが背後をとって終わりだ。更に上の指揮官も精霊髑髏(エレメンタル・スカル)の魔法で近づく前に死んでしまう。

 

 セシルたちは万が一、竜王国の戦力となったアンデッドが目減りしないよう備えているだけだ。平然としているのはセシルだけで、“金鎖”と“虹”は苦虫を噛み潰したような顔をしている。エ・ランテルで日常的に見る機会があっても動いているところを見ると思うところがあるのだろう。

 “クリスタル・ティア”にいたっては驚きと不気味さにおののいている。

 

 

「これは……アンデッドが、味方? 竜王国の紋章をかかげているぞ……」

「女王陛下が魔導国から借りたか、買ったりしたんだろう。あれを一つのパーティと考えれば、まぁビーストマンには突破できないだろう。見ていて感じるだろう?」

 

 

 といっても竜王国の冒険者には全面的に受け入れられるものではない。アンデッドなのも問題の上、国の依頼も減るだろう。

 なにより功績にこだわっていたセラブレイトには……今後、褒めてもらう機会とやらが減るだろう。それこそ魔導国組の知ったことではないが。

 

 一方のビーストマンたちは恐慌状態にあった。誇りだけを頼りに前進しても、何もかも無駄なのだ。さらに黒い戦士たちに殺された味方はゾンビとなって立ち上がり、同胞を攻撃してくるのだ。

 この戦いではなにも手に入らない――食い物も、誇りも、戦果も何一つとして。それどころか死後は走狗となって永遠に放浪する。

 セシルが戦いに対して抱いているのと同じ虚無感を、ビーストマンは味わい……次いで恐怖した。人間たちが味わっていた感覚をようやく理解したのだ。すなわち、嫌だ、まだ死にたくないという当たり前の感情。食う食われるの関係ですら無い事実は、獣の矜持すらへし折ったのだ。

 

 

「こうなると、連中も哀れに見えてくるから不思議だ。俺に殺されるのも無駄なのに、なんで今さら恐怖するかね? アンデッドってそこまで怖いか?」

「ええと……それはセシルさんがアンデッドに勝てるからかと……」

「味方側とはいえ、かなりおぞましいですよ。魔導国に所属していても、この気持ちは止められませんね。できるのは頑張って受け入れることだけです。その存在を……」

「いずれ、あれらを上回る聖騎士となろう。それまでは耐える他は無いな……いや、我が剣の方針に文句をつけるわけではないが……」

「そうか……」

 

 

 セシルも以前ならどうとも思わなかったが……この三人がアンデッドにされると思えば理解できるような気がしていた。いずれにせよこれを見届けたら、また帰れる。それだけを楽しみにしようと考えた。

 

 下では未だに酸鼻極まる光景が繰り広げられている。これはビーストマンがやってきたことが跳ね返ってきているのかも知れなかった。

 

 




最初はエレメント・スカルにドゥームロード
デス・シリーズ十組にしようかと思ってましたが
買えないかなと思い変更
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