妙にブカブカな服を着た女王ドラウディロンの挨拶が始まった。
「長年、占領された都市が解放され、我が国に戻った。無論のこと復興には時間がかかろうが……ビーストマンの侵略軍は撃退された。戦いはこれからも続くだろうが、今日ばかりは素直に状況が改善されたことを祝おうではないか」
縦長のグラスに注がれた酒を掲げて皆で乾杯の声をあげた。竜王国の王城では数年ぶりにパーティーが開かれた。調度品の数々が残っていないことに誰も気付かないほど、会場は明るい雰囲気だ。ビーストマンの勢力を跳ね返すことに成功し、国境の都市には魔導国の強力なアンデッドが常に警戒している。
魔導国に救われたのはこれで二度目であり、他国からは完全に親魔導国に見えているだろうが、そんなものは国民が文字通り食われていない国だから言えるのだ。竜王国内部でも内心、拒否反応を示している家臣はいるだろうが、この状況で手を差し伸べたのは魔導国のみであり、手を取ったのは竜王国という事実は変わらない。
その証拠というわけか“金鎖”と“虹”の冒険者もこの場にいる。会場になった謁見の間は元々他国に比べて広くないため、選ばれた招待客となる。ドレスコードもあるのかも知れないが、あえて魔導国冒険者は常と同じ武装で臨んだ。
カルカ、ケラルト、レメディオスの三人は正装をすれば前身の立場がバレてしまう可能性があったからで、“虹”は単純にそんな堅苦しさを嫌ってのことだった。
「“クリスタル・ティア”がいませんな。我々は呼ばれたのに……」
「あー、貴族でもなければ他国の人間でもないからじゃないか? 俺たちは魔導国の任務で来たが、“クリスタル・ティア”は自国の依頼を受けただけだ。下級貴族の会場もあるみたいだし、そっちにいるのかもな」
モックナックの疑問にありきたりな回答をするセシルだが、それでもどこかにセラブレイトはいそうな気がしていた。あの男がドラウディロンに会う機会を逃すわけはないという、謎の信頼感からその発想は来ている。
それはともかく、カルカたちはドレスなど無くとも十分に人目を引いていた。特にカルカはその雰囲気もあって時折、男性に話しかけられている。レメディオスとケラルトにもそういう目は向いていたが、寄らば斬ると言わんばかりの眼光で撃退していた。
「華があっていいですが、セシル殿は放っておいていいんですか」
「良いということにしている。あの三人はそういう面でも信頼できるからな。俺は安心して壁の花……ならぬ壁の草というわけだ」
「我々もそうですな。酒場で品無く飲んだ方が、まだ酒の味も分かります」
「凄腕の冒険者にも苦手なものはあったか。だが、貴殿らが上げた成果なのでな! 来てもらわないと具合が悪い!」
いつの間にか少女が近くにやってきていた。この場でいる子どもなどドラウディロンしかいない。いないのだが、セシルなどが見ているとやはり違和感がある。それに今日のブカブカな格好はどうしたことだろうか。大人の服を子どもが着ているようだ。
「これは陛下。こちらに来てよろしいのですか? お話ししたい方は無数にいるでしょうに」
「実際のところ、これは貴殿らを称えるパーティーにしたかったのだがな。色々な問題で祝勝にするのが精一杯だったのだ。許せよ! それに私も前線には出なかったが、軍監や指揮官からの報告は受けている。聞けばほとんどの成果は貴殿らのものではないか! この場に貴殿ら以上に話す価値があるものはいないだろう!」
「少しばかり大げさなようですね。それに竜王国の冒険者もいましたよ。特にセラブレイト殿とか」
「あー、セラブレイトか。うむ、あいつはなぁ……これからどうなるか」
そのつぶやきに首を傾げるセシルだったが、ある可能性が浮かんだ。他国の助けを借りてとはいえ、とにかく事態を乗り切ったのだ。これからのドラウディロンに必要なのは威厳だろう。常に覚えていた違和感。それにブカブカな格好。それらが一つの夢物語を形づくる。セシルとて見たことなどないので、絶対とは言えないが。
ちょうどその時、話に大きく関わりそうな人物がこちらへ足早に駆け寄ってきた。聖騎士風の白い格好をした若い男……セラブレイトだ。
「陛下! 貴方様の盾! セラブレイトが参りましたぞ。このセラブレイト、此度の戦でも陛下の御為に戦場を駆け巡りました」
「お、おう。依頼とはいえよくやってくれた感謝している……」
セラブレイトは騎士の礼のように膝をついて挨拶したが、敬意を払ってというより目線を合わせるために思えた……
そして、なにより目が気味悪い。ドラウディロンには舐めるような視線を送り、セシルには射殺さんばかりの視線を送るのだが、滑らかに切り替わりすぎて不気味だ。
そろりとドラウディロンが頭を撫でるとセラブレイトは満面の笑みを浮かべて、終わるとまた元の顔に戻る。不気味だ。
「貴殿も長年にわたって、よく戦線を支えてくれた。ゆえに心苦しくもあるのだが、許せよ」
「はっ?」
そう言うとドラウディロンは玉座の元へと戻っていった。玉座は数段高いところにあり、室内から姿がよく見える。
ファーストダンスが終わるとドラウディロンは再び声を上げた。
「皆、聞いて、そして見て欲しい。この戦いを区切りにして皆をより導くべく、私も変わっていこうと思う。
ドラウディロンを薄い光の膜が覆い、輪郭が変わっていく。それは成長を早回しにしたような光景だった。髪は長く、身長は平均より少し高く、足はスラリとして胸部は大きく。今日着ていた服装がぴったりと合うような姿へと変わった。
「竜王国、
会場はあっけにとられていたが、小さな拍手が起こった。セシルたちだ。そこから竜王国の人間たちも歓声をあげ、拍手は盛大なものへと変わった。
「嘘だ……」
それに負けないぐらいの大きな声は混沌に紛れて消えることとなる。
「嘘だーーーー!」
誰にも注目されないまま、竜王国の英傑の絶叫が響き渡った。
時間がかかってしまいました
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