【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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気楽な任務

 バハルス帝国はアゼルリシア山脈の東に位置する国家だ。一応専制君主制の国家だが、現在では魔導国の属国となっている。噂ではアインズの神算鬼謀によって一瞬にして魔導国を宗主国として認めたとされているが、セシルからすれば眉唾ものである。アインズに奇妙な愛嬌があるのは知っているが、そうした超人的な頭脳などは持ち合わせていないと彼はみている。

 

 その帝都、アーウィンタール。そこにそびえる城の豪奢な一室で、金髪の青年が頭を抱えながら絶叫していた。

 

 

「ああぁぁぁぁあ! 冒険者の派遣だと!? あの化け物め、今度は一体何を試す気だぁぁ!」

 

 

 青年の名はジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。かつて“鮮血帝”とさえ呼ばれた稀代の皇帝である。その優秀さは疑うべくもないが、魔導王によるトラウマの数々に悩まされている苦労人と化していた。

 それでもジルクニフは最近、比較的穏やかに過ごせていた。立場を下に追いやられた結果、小難しい調整などする必要が無くなったからである。軍事に関しても、元々精強な軍団を持っていたうえに、魔導国からデス・キャバリエをレンタルしているため外敵が現れても問題がない。

 抜け毛と胃痛に悩まされていた生活から、落ち着きを取り戻していたが……ここに来て魔導国から冒険者が入ってくることになった。

 別段悩むようなことではないことが真相であるが、ジルクニフはアインズを類稀な知恵と力の持ち主と信じていた。そのため、今回の事態にも何か裏があるのではないかと、恐怖が再発してしまったのだ。

 

 

「あー、陛下。落ち着いてくださいって、まだ何かあるって決まったわけじゃありませんぜ」

「そうだな。落ち着け。落ち着け。フー」

 

 

 かつては一人で錯乱していたが、久しぶりだったので帝国四騎士の筆頭バジウッド・ペシュメルの前で醜態をさらしてしまった。だが、この男は元々気安い態度で接してくるので威厳などは損なわずに済んだ。バジウッド自身、かつてナザリックに行ったこともあることが影響しているだろう。

 

 

「それに、毎度試験されるってわけでもねぇんでしょう? 実際細々としたことにはいちいち口を出したりはしてきたりはしないじゃありませんか」

「そうだな。前の魔導王が死んだという噂が流布してきたときぐらいだな……だが目的が見えん。こちらにあちらが欲するものなどあったか?」

 

 

 帝国は軍が発達しているために、半ば傭兵のような冒険者の立場は低い。その個人の能力を借りるときや希少な物の採集ぐらいしか大きな依頼はない。

 そもそも謀略の世界に生きてきたジルクニフが、魔導国の掲げる新たな冒険者の形……未知を既知に変える……を理解するのは難しい。知恵とは力であり、限られた範囲で専有してこそ意味があるのだから。

 

 

「とにかくその冒険者たちが不快に思うことがないように、根回しするとしよう。仰々しく出迎え……はしないほうが良いな。あくまで冒険者の枠組みで歓迎するとしよう。アダマンタイト級冒険者ということだから、多少便宜を図ったりはしてもおかしくは思われまい」

「見張りはつけますか?」

「つけておきたいところだが、我が国の隠密にも彼らにさとられず監視できる人材はいない。お前たち優れた戦士というのは溶け込みの天幕(カモフラージュ・テント)などで姿を隠しても分かるものなのだろう」

「ありゃあ姿を消せるだけですからね。それに直感ってのもありますし……」

「いっそ正面から向き合った方が良いかもしれんな……私が顔を合わせるのはおかしいがお前たちと会わせるのはどうだろうか。強者同士の交流とかそういう名目でな」

 

 

 国賓というほどではないが、重要な扱いをすることがジルクニフの中で固まってきた。実際、これはかなり正解に近いだろう。魔導国の冒険者は他国の冒険者組合を利用することができない。国家に属する身であり報酬も魔導国から支払われるからだ。ゆえに不自由はさせないよう、しかし深入りしないように距離を取る。ジルクニフはやはり才人だった。これなら彼が顔を合わせる必要もないのだから。

 

 

 一方、エ・ランテルを出発した“金鎖”は馬車に揺られていた。御者席にはなぜかアインザックとラケシルがおり、組合長たちを働かせる妙な形になっている。エ・ランテルの組合には“虹”を残してきているので、急な出来事にも対応できるようにはしてあるが。

 

 

「今回の任務は純粋に調査だけなのか……」

「まぁ過程で何が起きるかは分かりませんが、そういうことです。カルサナス都市国家連合や亜人国家と交流が持てるかの初期接触も兼ねてますが」

 

 

 カルカがパラパラと薄い計画書を読んで答える。属国の産物などを調査するのはどうなんだろうな、とセシルは考えながら伸びをした。いずれにせよ今回の任務は地味なものになりそうで、結構なことである。

 敵を蹴散らして回ったり、その地を救ったりするのは劇的だが、やってる方の心は荒む。山に登って草を調べたり、森を探索したりと実に良いことではないか。

 

 

「血なまぐさいことは竜王国で十分に味わったからな。帝国での旅路が平穏なものになることを祈っているよ」

「同じ戦うにしてもだ。帝都には闘技場があるらしいぞ。出場してみるのはどうだ?」

「見世物になる気はないなぁ……大体俺は基本的には平穏な方が良いんだよ。というか調査と全然関係ないじゃないか」

「私もジルクニフ帝には顔を知られている可能性がありますから、あまり目立つのは無しですね。帝都ではできるだけ大人しくしておきます。以前セシルさんからもらった兜をかぶっていれば大丈夫でしょう」

「観光にはなりそうもないですねぇ……」

 

 

 交渉事などにはケラルトに活躍してもらう他はない。ぜひ退屈な期間になってほしいと願うセシルであった。

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