帝都アーウィンタールの高級住宅街に腰を落ち着けることにした一行だが、やるべきことは非常に地味だった。帝国がすでに調べ終わった地域を知り、まだ調査が進んでいない地の探索計画を立てなければならなかった。
派手な行事など起こるとしてもカルサナス都市国家連合やトロールの国との接触時くらいで、それまではまだまだ時間がある。
竜王国で血なまぐさい思いをしたばかりなので、そんなことが起きないような今回の任務は気楽で良かった。
「しかし、組合長。ここの冒険者組合にそんな情報がいちいち記録されているでしょうか?」
「いや、そうとは思えないな。幸い我々はこの国での自由を得たようなものだからな。帝国情報局……は流石に避けるが、大学院に行こうと思う」
「大学院なんてあるのか。属国になってるとは思えない国だな……」
もちろん帝都の大学院が“ユグドラシルのあった世界”の大学院と同じであるわけではないが、試験を受けて合格すれば、平民でも入学可能というのは王国などの国ではあり得ないことだろう。
どういう繋がりかセシルにはいまいちピンと来ないが、帝国魔法学院からさらに専門的な知識を学ぶ場所であるという。そういった場所であれば、図書館のようなものもあるだろう。
「それって普通は見れませんよね……詳細な情報の載った地図なんて国家機密ですよ」
「まぁそうだな。宗主国の権利か……一体何をしたのやら」
王国と帝国の戦争において超位魔法でアインズが大虐殺を引き起こした結果がここにも表れているのだ。あのような真似が可能な相手に、細々とした隠蔽など意味を成さないと皇帝が諦めてしまっていた。
「とにかく行ってみるか……面倒な作業は早めに済ませておくほうが良い。書類仕事なんてその最たるものだ」
「おい。間違っても私にそういう仕事は無理だからな!」
「……お前はどうやって聖騎士団の団長をやってたんだ?」
「そのために副長がいるんだろう」
レメディオスのかつての部下が幸せになってるといいな、そう願いながらセシルたちは出発した。帝国でも重要な機関ということでレイナースの指示が飛び、先回りして許可が出されることになった。やはり魔導国の所属員となると扱いが慎重になるらしい。
結構な距離があるが馬車は使わなかった。見知らぬ国というのは歩くだけで楽しいものだし、人数的に乗合馬車には迷惑だろう。こういう日常的なことで案外、面白いものが見られるかもしれないという思いも一行は持っていた。
セシルは旅人用の薄い冊子を読みながら歩いていたので、棒には当たるかもしれない。
「大学院は帝国魔法学院のさらに進学場所……ラケシルさんとかも魔法学院とか出てるので?」
「いや、王国にはそんなものはないな。その代わり魔術師組合で見込みがある子どもに教えたりはするが……それに帝国魔法学院は魔法を使わない者も入学可能だよ」
「気まずそうだ……しかし、それだけ帝国が進んでいるということか」
「帝国は改革のために長い年月準備をしていたのです。そして今の皇帝が帝位に就いた際に、一気に掌握。貴族たちの勢力は大幅に削がれました。もっとも帝国魔法学院はかなり昔から準備されていた施設らしく、かのフールーダ・パラダインが協力したもので、皇帝が改革するまでも無かったようですが」
「誰それ」
「お前は常識がなさ過ぎるな!」
レメディオスが先程の仕返しとばかりにセシルをからかう。子どもか、と思いながらセシルはフールーダなる人物の解説を聞いた。要は賢者として知られている国の頭脳で、かつ第六位階の魔法を使用できる人物らしい。
確かにこれまで出会ってきた人物と比べれば、第六位階は凄いとセシルも思う。思うのだが、どうしても傲慢な考えが出てきて、フェンサーである自分より使える位階が低いとも浮かんでしまうのだ。それは単なる能力の話で、知恵者としては自分より凄いはずだと自制しなければならなかった。
そうして街を巡り歩き、あの食堂に今度行ってみようかなどと、話しているうちに大学院に到着した。大学院はバロック様式を砂色にしたような建物がいくつも立ち並んでいた。学生たちはアカデミックドレスに角帽を着けており、セシルは誰だ伝えたやつはなどと思った。
流石は国家が管理しているだけあり、入口にはやや軽装の騎士が配備されていた。アインザックが入館の許可を得ようと話しかけると、敬礼とともに許可された。
帝国四騎士というのは中々に凄い存在らしいと、改めて思わされた。
「それでも学生とはあまり関わらないように言われたよ」
「まぁ仕方ないでしょうね。うっかり向こうが何かしようものなら国際問題ですもの。うっふっふ。私たちも気をつけねばなりませんね」
「一番気をつけないといけないのは、ケラだろう。学生たちの視線はほぼお前にいってるぞ」
年齢不問とはいえ、それなりに若い学生が多い。カルカが兜をかぶっている以上、容姿で目を引くのはケラルトになる。レメディオスとて中々だとセシルなどは思うのだが、目つきの鋭さなどから少し怖がられているようだ。
「食事に誘われる前に図書館へ行くとしよう。セシル君が学生を叩き帰す前にね」
「組合長の中で、俺のイメージはどういう変化を遂げてるんですか」
図書館はその棟だけ分けて建っていたために、すぐに分かった。中に入ると、人が意図して静かにしていようとする独特の雰囲気と、古文書の放つホコリっぽい臭いに覆われた。
目当ての地図はあっさりと見つかったものの、参考にする書物の探索に時間を食われた。帝国は知識を隠匿する気はあまりないようで、中々できることではないと一行を感心させた。レメディオスは役に立たなかったが。
流石に蔵書の持ち出しは許可されていない。一同……レメディオスを除く……で植生や鉱脈、魔物の分布だけでも調べて、荷物検査に引っかからないよう手持ちの簡単な地図に未調査の場所だけ印を付けておいた。
外に出た時には暗くなっていたが、校舎には光がまだ灯り、警備の騎士も槍を片手に仕事を続けていた。
時間がかかってしまった…
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