【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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奴隷を追って

 こうも容易く恩が売れる機会が来るとは思わなかった。そうレイナースは内心でほくそ笑んでいた。実際この事件は多少胡散臭いところがあり、“現在の”レイナースの職務とも一致している。帝国からも魔導国一行からも怪しまれない。

 

 

人魚(マーマン)の子どもを購入したのは貴族ですね。それに最近の子どもの出展は全て貴族が買い上げている……それだけなら不審な点はありません」

「しかし、帝国内部にいるレイナース殿から見れば違うわけですね?」

 

 

 ひょっとすれば魔導国の内部に売り込みをかけるより早く、目的が達成できるかもしれない。“金鎖”という冒険者集団自体も最高位冒険者とはこれほどか、と思わせるものだった。だが、その中の一人は完全に異物だった。

 

 

「レメの願いを叶えるのは賛成だが、取り返した後はどうするんだ? しかも話を聞いていると、救う対象がもっと増えそうな気がする」

 

 

 ケラルトとレイナースの会話の間にとぼけた顔のまま、発言するセシル。それを見てレイナースは自然と身が引き締まった。

 隔絶している。そう判断できるだけレイナースに力があったからこそだが、麓に立って大山を見上げるようなものだった。自分(レイナース)が10人いてもかすり傷ひとつ付けられないだろう。しかし、喜ばしいこともあった。その異物、すなわちセシルという男からは『聖』のにおいがした。レイナースはそれにひどく敏感だった。

 

 

「少し失礼しますわ」

 

 

 木陰に移動してから顔半分を覆う布の下にハンカチを押し当て、捨てる。ハンカチは汚らしい液体で黄色に染まっていた。

 レイナースの目的は自身にかけられた呪いを解呪することにあった。そのために成すべきことは全てした。見放した家族を許すことなどないほど、呪いに人生を縛られていた。その呪いが叫んでいる。『アレの傍にはいたくない』と。それはつまり、この男は呪いに対して対処できる能力を持っているのではないか、と考えつくまでに時間はかからなかった。

 

 

「帝国人は身売りするしか奴隷になる道はありませんわ。必然、自分を売り込む帝国人の子どもはほとんどいないことになります。子どもですからね。また、奴隷になっても臣民として最低限の権利が与えられるためあまり酷使はできませんの。ですから、子どもは他国出身か亜人種……つまり外から入ってきた奴隷になります」

「なるほど。自分で言ってて胸が悪くなりますが……相応の手間がかかって買い入れた商品となり、その分値段が高くなる。そして値段が高くなれば、購買層もそれに応じて上がっていく……」

「そういうわけですわ。そして不思議なことに……子どもを最近購入していったのはウィンブルグ公爵の派閥に属する貴族だけですの」

 

 

 そこがレイナースの感じたきな臭さだった。自身も元は相応の生まれであり、帝国四騎士を務めているのだから自然と貴族の名は覚えている。

 

 

「さて、どうするか……正面から行っても違法でもないし、返せなどと言われても応じてくれないんじゃないか? ケラ、何か案があるか?」

「そうですねー、レイナース殿がどこまで見逃してくれるかによりますね。うっふっふ」

「借りに思ってくれるなら、突然目が見えなくなることもありますわね」

「では常套手段で行きましょう」

 

 

 三人は人魚(マーマン)を買っていった貴族の屋敷の近くで、透明化(インヴィジビリティ)で身を隠すことにした。

 夜中に潜入するのか、と思いきやケラルトはそれは最終手段で少し待ってみるという。

 

 

人魚(マーマン)の子どもが出てくると思うのか、ケラ? 今日買われた奴隷だぞ」

「推測ですが、今日の夜に何か動くと思いますねー。姉様を置いてきて良かったですよ。きっと屋敷に突撃しましたから」

「レメ殿は事態をかき乱して、ケラ殿は事態を大きくするのですね……来ましたよ」

 

 

 やってきたのは貴族馬車だった。黒塗りでいかにも高級そうであり、御者も黒色で品の良い服に身を包んでいる。しかし、見ているうちにレイナースは首を傾げる。

 

 

「変ですね。辻馬車ではありませんのに、家紋が刻まれていない馬車?」

「おや、誰か屋敷から出てきたぞ」

 

 

 それはいかにも貴族といった服装の男性だったが、違和感が一つ。大きな、人間が半分ぐらい入りそうな袋を持っていたことだ。セシルはケラルトがこれを待っていたのだと、ようやく理解した。

 

 

「今です。追ってくださいセシルさん。走らずに馬車へついて行けるのはあなたぐらいです」

透明化(インヴィジビリティ)静寂(サイレンス)を使うから、不満はないが……腰が痛くなりそうだな」

「レイナース殿と私に分かるような印を置いていってくださいね」

 

 

 馬車が動く。セシルは腰をかがめたままで、その後についていく。体勢の割に異様に素早く、はっきりと言えば不気味だった。

 レイナースとケラルトは馬車が見えなくなってから普通に追いかける。力量に相応しく駆けるのではなく、小走り程度の速度でだ。

 

 

「ケラ殿はこうなるのが分かっていたので?」

「まぁ大方そんなところだろうとは。その大貴族の派閥が何かをしているという前提で考えれば、子どもを買っていくというのは……定期的に“消費”しているか溜め込んでいるかのどちらかでしょう? 私の考えではどこかに溜め込んでから“使っている”のだと思いますが……と、これが目印ですね」

 

 

 分かれ道がある場所には大きめの木枝が一方向に置かれていた。もっと分かりにくいかと思っていたので、ケラルトは安堵した。

 

 

「大きな事件なら騎士団を呼びますが……」

「いいえ、こういう手合は即座に罪と呼べることはしないものです。限りなく黒に近くても、という注釈が入りますが。実際に見てみて、持ち帰ってから一気に潰す計画を立てるのがよろしいかと……うっふっふ。鮮血帝のお膝元で暗躍する大貴族ですか。物語にはなりそうですね」

 

 

 それから目印をしばらく追いかける。結構な距離だったが、ケラルトもレイナースも常人ではない。汗もかかずにセシルと合流できた。

 セシルが指さした先にあったのは墓地だった。




ウェブ版だとクレマンいるんですねぇ
どうしよう
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