墓地への突入から数日、セシルたちは忙しい日々を送っていた。
あの邪教集団自体は通報を受けた神殿勢力が送ってきた神官たちによって、その悪事を暴かれた。結果として言えば、問題が大きくなりすぎた。
あの集団が邪神を信仰していたことに間違いは無かった。しかし、セシルが捕らえたクレマンティーヌという女の証言でズーラーノーンという集団の下部組織に過ぎないということが分かったのだ。
「随分と素直に話すな。秘密結社というからには鉄の掟とか、そういうのがあるんじゃないのか?」
「いやー、だって私の命ってあんた次第でしょ? 勝てないのは、もう分かっちゃったしー。はぁ、世界は広いね本当に。というわけで私としては判決やら処分やら、さっさと決めてほしいのよ。できれば死刑は避けたいから素直に話してんの」
クレマンティーヌは広い牢屋に入れられていた。だが、それに意味はない。鉄格子ぐらい、彼女なら平気で曲げてしまうだろうからだ。手枷足枷も同様。というわけで臨時の依頼としてセシルとレメディオスが交代で見張っている。といっても稼働時間はセシルのほうが多い。クレマンティーヌと実力が近いレメディオスではいざという時に派手になりすぎるからだ。
テンションが低くなったクレマンティーヌは落ち着いて相手を見ることができたらしく、セシルには大人しく従っている。
「この裏切り者が! 盟主が必ずお前の、お前たちの存在を許さぬだろう!」
代わりにうるさいのが儀式を執り行っていた神官だった。彼はズーラーノーンの側だったらしいが、その忠誠心は本物らしい。ところが自分が拷問されても組織のことを吐かなくとも、クレマンティーヌがペラペラと話してしまったので怒り心頭である。その結果、自分で盟主の偉大さなどを喋ってしまっているが。
「は。馬鹿じゃないの? 盟主がこの人に勝てると思ってんの? しかも後ろには魔導王とかがいるのよ? どう考えても義理立てする方が損じゃない」
どうも話からすると盟主はプレイヤーには届かない存在らしい。それでも一般人や魔導国以外の国にとっては十分に脅威であろうから、情報は欲しいのだ。なのでわざとクレマンティーヌと神官の牢屋は近くになっている。
盟主とやらがこちらに来るならセシルが対処し、出てこないのならアインズか階層守護者が対応するだろう。魔導国ならばむしろ秘密結社を乗っ取ったりする方が得かもしれない。
「そうだな。魔導王陛下なら記憶を読み取れるから、隠し立てしても無駄だな。早めに協力姿勢を見せるほうが賢明か。いずれにせよ、俺がいる以上脱獄なんかは無理だから、そこは諦めてくれるとありがたい。全くこちらにいる方がゆっくりできるとは……」
セシルが言うように事はここだけではなかった。
高級住宅街。セシルたちが宿に借りている屋敷でも面倒事が起きていた。
事件の後、墓地の地下施設からは奴隷たちが救出された。購入者が全員逮捕されているため、その扱いは難しくレイナースとアインザックにラケシルは王城での会議に参加している。
聖王国の
問題は奴隷の中に帝国人がいたことにもあった。身売りして奴隷の身になっても、帝国人には人権が残ったままなのだ。そこでそうした子どもたちは一時解放され、帝国の預かりになったりしていたのだが……
「ここ私たちのおうち……」
「そう。クーデリカとお姉さまと一緒のおうち」
「そ、そうですか。すいません、今は私たちが借りているので我慢していただけると……」
カルカは全く予想していなかった事態に混乱している。ここは当然、正規の手続きで借りているので権利は魔導国一行にある。
だが、墓地から救出された子どもたちの中にこの屋敷で暮らしていた貴族の子どもがいたのだ。帝国は言ってしまえば余計な気遣い……“金鎖”が善人の集団であるという判断から、この二人を解放してしまったのだ。確かに事情を聞けば、カルカが優しさから、レメディオスが義憤から、引き取ってしまったであろうことから間違いではない。
こんなときに限って元の身分を隠しているカルカ以外は仕事ができてしまった。レメディオスは牢屋番の交代に備えて眠っている。セシルも同様に牢屋番の仕事がある。ケラルトは今回の件についてできるだけ穏便に済ませようと、神殿に行っている。組合長二人は城なので、カルカが自然に二人の子どもと顔を合わせることになる。
子どもたちの名前はクーデリカとウレイリカ。双子で歳は五歳か六歳といったところで手がかからないといえばかからない。単に生真面目なカルカが一人から回っているといった感じだ。なにせこの屋敷は仮の拠点に過ぎず、帝国での仕事が終われば離れてしまうのだから、二人がどうなるか考えると気が気でない。
「どーん……おばさん。お姉さまと同じでかたーい」
「お、おば……」
カルカの顔が引きつる。セシルが気にしないので最近、美容を怠っていただろうかと思ってしまう。カルカはアンチエイジングの鬼である。子どもの言ったこととはいえ、一人で大ダメージを受けていた。運悪く、兜を外していたタイミングなのも影響している。
「お、お姉さんがいるのですか。同じように硬い……ということはお仕事は……」
カルカはセシルから貰った鎧を着たままの姿だった。つまりは彼女たちの姉は、防具を必要とする仕事についていたことになる。双子がなぜ奴隷に落ちたかも分かるような気がした。
「お姉さまが帰ってきたら引っ越すんだー」
「そうなんですか……」
「お姉さまいつ帰ってくるかな」
ああ、きっと彼女たちの姉はもう……そう思うと胸が締め付けられる。そこら中に転がっている悲劇ではあるが、だからといって慣れることはない。
「では、お姉さんが帰ってくるまで、良い子にしていなければなりませんね。セシルさんも帰ってきます。お食事の準備をしましょう。お二人とも、手伝ってくれますか?」
とてつもなく屈辱的ではあるが……しばらくはおばさんでも良いだろう。カルカはそう考えてから、やはり修正させようと思い直した。