【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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交渉~クレマンティーヌ

 セシルはもう歩き慣れた牢屋の中で看守たちに手をあげて挨拶をした。すると慌てた様子で牢番の兵士たちは敬礼を返す。最初はそう大仰にしなくてもいいと言ったものだが、アダマンタイト級冒険者とはそれぐらいの権威を持つものだった。

 牢屋の入口にある格子の向こうにレメディオスを見つけて、セシルはふ、と微笑した。

 

 

「よく休めたか、レメ?」

「もちろんだ。必要に応じて休息を取るのも、騎士……じゃなかった、冒険者のつとめだからな。あの女は相変わらずふざけた調子なのか?」

「ああ、聞かれていないことまでベラベラ喋っているよ。今の主君にも忠誠心は無いらしい。もっとも誰に対してなら持てるのかも怪しいがな。ある意味お前とは逆の人間だな」

「まったく……だがそれで強くなれるというのも私にとっては不思議な話だ。人は芯が通ってなければ過酷な訓練に耐えられんという考えに背く。悪なら悪でもっと分かりやすければいいものを……」

「それが、あの女のあり方なのかもな。善も悪もなくふらふらと生きるというのが。まぁ癇癪を起こさないようにな」

「ああ。体力に余裕があるならクーデとウレイとも遊んでやれ……と言いたいが眠った方が良いな」

 

 

 パチンと手を合わせて交代する。レメディオスがセシルと接することができるのは、最近ではこの一瞬だけだ。それを不満に思わないわけではないが、収監されてる人物が人物なので仕方ないことだ。

 よくもあれほどの危険人物が野に放たれていたものだと思う。セシルのような極端な例は除外するにしても、その力をもって国に仕えるなり冒険者になる方が実入りも良いだろうに……

 

 

「おやおやー。レメちゃんに交代かー」

「……? 私はお前に名乗った覚えはないが……」

「こういう場所には慣れてるのよー。あとは反響やら振動で……ね。名乗りをするようじゃ、裏の世界には向いてないね、レメちゃんは」

「フ……向いてなくて構わん。まぁこれからは会話に気をつけるとしよう」

 

 

 粗雑な木製の椅子に逆向きで腰掛けたクレマンティーヌは、遊び道具を見つけた猫のようだった。それを見てレメディオスは顔をしかめる。確かに自分とは相性が悪い女だ。そんなことは初日で分かっていた。レメディオスは数多の戦いを経て強くなった。それはレベルだけではなく精神もだ。故郷から切り離されたこと、愛する男ができたことなどでいささかなりとも落ち着きを得た。

 実際、この監視任務も初日以降は不快に思いつつも相手の言葉を無視できた。それによってクレマンティーヌの側も興味を失ったようだが……なぜか今日のクレマンティーヌは初日のそれだ。

 

 

「白を基調にした鎧、まぁ見たこともない緑色も混ざってるけど。腰に下げてるのは聖剣かな? 規則正しい歩き方……どこかの騎士のようで、まるで冒険者に見えない。そして何より私と……いや一回死んでからは私のほうが下かなー、まぁ同格ぐらいの強さ」

「……騎士だったことはある。それは確かだな」

 

 

 レメディオスは相手が何を言わんとしているか、分かってきた。こうなると、カルカを屋敷から出していないのは正解だっただろう。邪教徒を追ったのもセシルとケラルト、それにレイナースだ。

 

 クレマンティーヌは三日月のような邪悪な笑顔を浮かべた。相手の反応が楽しみで仕方が無いというように。まさに彼女の本質は猫なのだろう。

 

 

「それにレメって名前。ねぇレメちゃんって……レメディオス・カストディオでしょ?」

「……フフ、聖騎士団団長と並べられるのは良いな。そのおべんちゃらは中々に心地良いぞ」

「またまたぁ。もう隠すことでもないから言っちゃうけど、私ってスレイン法国の出身でね? そのあたりの情報はばっちりと頭に入ってるんだー。偽名を名乗るとき、元の名前の要素を入れておいた方がかえってバレないし、自分を納得させやすいからね」

「さて、もしそうだとしたら、どうする気でいるんだ?」

 

 

 レメディオスに焦りが無いわけではない。自分のせいで、皆に迷惑をかけてしまうかもしれないという思いがある。なにせ今まで何も考えないで生きてきた期間の方が長い。だが慌ててなどやらない。どこかの誰かが交渉も戦いだと言っていた。それをおぼろげに思い出す。同じ戦いなら不都合を押し付けて、不利なものは受け取らないのが戦いというものだ。

 

 

「法国の情報網は強者の居所を正確に把握している。あなたがいるなら妹さんもいるんじゃない? もし私があなたたちの正体をバラすような真似をしたらぁ、さぞ困ったことになるでしょうー」

「いや、全然ならないな」

「はぁ!? カストディオ姉妹が国を捨てて他国に仕えているなら、情報とかの漏洩で聖王国がいい顔をしないでしょう!?」

「甘く見て貰っては困るな……重要な情報など全然覚えていない! それは部下の仕事だからな!」

 

 

 恐らくクレマンティーヌは交渉がしたかったのだろう。黙っていてやるから、刑を甘くしろという風に。だが、レメディオス相手には悪手だ。そもそも交渉できるようなタイプではないし、前提条件であるカルカの生存という情報をクレマンティーヌは手に入れていない。

 レメディオス一人なら精々聖剣の返還を言われるぐらいであろう。ケラルトは街に着く度に神殿勢力と交渉しているので聡い人間にはとっくに正体を明かしているだろう。要は前聖王女であるカルカの存在さえバレなければ単に臣下が出奔しただけである。

 こうして条件を並べてみると、クレマンティーヌ自身もあまり交渉が得手とは言えない。レメディオスの正体を見破ったというのなら、セシルに言えば多少の効果があったであろう。札を切る機会も間違えていた。もっともクレマンティーヌはセシルに恐れを抱いているので、できなかったのかもしれないが。

 

 

「ちぇ、面白くない。馬鹿に期待した私自身が馬鹿だったわ。もっと有益な情報を探さないと……」

 

 

 無事に口論に勝利したレメディオスはふふんと鼻を鳴らして監視に戻った。




IMAXで劇場版見てきました
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