【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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交渉~帝国

 レメディオスが正体をバラすと教えられている一方で、その正体を武器に変えて交渉に使用している人物もいた。ケラルトは冒険者ケラではなく、元神官団団長ケラルト・カストディオという立場を存分に使っていた。神殿勢力と同調して“金鎖”の利益になるよう動く。

 元々の仕事なので根回しなど非常に手慣れていた。かつて、聖王国において聖王女カルカはその優しさから敵が多かった。そこをサポートしてきたのがケラルトなのだ。

 

 

「では件の奴隷については人間種は帝国の孤児院に、亜人種はエ・ランテルのユリ・アルファ殿の預かりにということでよろしいか」

「はい。ただ……人魚(マーマン)の子どもについては、指定した商船に乗せるということで」

「ははは、良い伝手をお持ちだ。お話通りの商会に依頼して、時間通りの商隊で出発させることですな。私もこの仕事に就いて長いですが、遠い聖王国とこのようなやり取りで連絡を取り合っていたとは」

 

 

 仕事に就いて長いと言う言葉が似合わないロウネという筆頭書記官が、乾いた笑いをあげた。顔立ちの若さに比べて頭髪は薄いが、その能力は非常に高い。かつてナザリックに出張していたという異色の経歴を持っていたことが、筆頭でありながらこの会談に参加している理由だろう。

 

 ケラルトは姉のために手札を一枚、惜しみなく切っていた。西に遠い聖王国からでは帝国の情報がほとんどつかめない。そのために長い時間をかけて作られた細い糸が、この商取引だった。

 母国の不利益になるという自覚はあるが、もう戻れない国である。姉の義憤を終息させるのに使っても良いだろうと判断している。

 

 

「そして、問題となるのはズーラーノーンについてですが、随分とこちらに譲歩していただけるようですね。正直なところを言えば助かります。あの捕虜一人でも我々の手には負えない存在ですから」

「譲歩というほどになるかは、今のところ分かりませんが……まぁあの捕虜に関しては我々が捕縛したわけで、責任が無いとは言えないでしょう。収監されている人物に国を破壊されたなどと、笑い話にもなりません」

「それにしてもケラ君はよく考えつくものだ。魔導国と帝国の取り決めを利用するとは……」

 

 

 ラケシルが感嘆したような、呆れたような声を出す。捕虜とはクレマンティーヌのことだが、帝国には英雄の領域に達している彼女を拘束しておける人材がいない。正確にはその英雄の領域を上回る“逸脱者”フールーダという人物がいるのだが、どういうわけかその人物を頼るわけにはいかないらしい。

 そこで“死罪に相当する罪人を魔導国に引き渡すこと”という決まりを使い、身柄を確保したのだ。刑を軽くすることで死罪を避けようとするクレマンティーヌとは真逆の発想だ。利用価値があれば、実際に死ななくて済むだろう。あるいはセシルが魔導王に働きかけることでも可能かもしれない。

 

 そして滞在中にズーラーノーンの襲撃があった場合も、“金鎖”が対処に協力することも約束してある。帝国は帝国四騎士をはじめとして人材豊富なのだが、突き抜けた個が足りない。これに関しては魔導国が恵まれすぎているだけかもしれないが……

 

 

「それからこちらへの移住を希望している人物、レイナース殿ですが……この件に関してははっきりとは決めない方がよろしいのではないですかな?」

 

 

 アインザックが控えめに切り出す。

 レイナースの要求は魔導国への受け入れと呪いの解呪だ。解呪に関しては規格外の信仰系魔法を使えるセシルがいるので、皆さほど心配していない。逆にセシルが解けないのなら、魔導王その人が出てこないと難しく、“冒険者部門”ではどうしようもない。

 

 

「もちろん、レイナース殿への治療は行いますが……我々では相応しい地位を用意できないのではないかと。移住に関しては治療の後ゆっくりとお考えになったほうが良いでしょう」

 

 

 帝国に来てからもうそれなりの時間が経っている。その中で帝国四騎士の権威も知るようになってきた。帝国が誇る騎士団の将軍と同等、いや物理的に近い分それ以上である。

 それに対してアインザックはあくまで魔導国の一部門の代表でしか無い。当然、与えられるのもそれに収まる範疇になる。

 

 魔導王に直訴するというのも、この場合は不可能だ。言うのも心苦しいが、レイナースの特技である戦闘能力は魔導国の基準に照らすとまったく大したことが無い。国中を警らしている死の騎士(デス・ナイト)以下である。

 まぁこれに関してはアインザックたちも“金鎖”でようやく面目を保っている状態だ。魔導王の側近になれる能力などセシルしか持っていない。

 

 鶏口牛後というわけではないがレイナースは帝国四騎士にいた方が、実入りは良いであろう。

 

 

「それに関しては皇帝陛下からお話されるか、そちらから直に説得するしか無いでしょうな……はぁ……我々もアダマンタイト級冒険者の離脱などで人間の戦力については低迷する一方ですからな。魔導王陛下の派遣されたアンデッド部隊の方がよほど頼りになる状態です」

 

 

 書記官が少し気まずそうな様子で次の紙をめくった。同じようにしたアインザックたちも似たような顔になった。

 

 

「次に……邪教徒たちの処刑の件になります。爵位と役職の剥奪は終了し、後任も決まりました。あとは見届け人の都合次第です。こちらはケラルト殿がお決めになる?」

「いいえ、私はあくまで“元”がつきますので……この国の神官長様方が決められるでしょう」

「おお! では説得できたのでしょうか?」

「和解というほどではありませんが、邪教徒が帝国とあらかじめ結託していたわけではない……ということはご納得いただけました」

「これを機に歩み寄れるよう努力するのは我々の仕事でしょうな……」

 

 

 帝国と神殿勢力の仲は悪い。魔導王というアンデッドに何もかも売り渡したと疑念を持たれているし、そう思われても仕方ない。ケラルトはそんな中で双方を取り持っていた。他ならぬケラルト自身が魔導国所属というのもあって幾らか真実を言わねばならなかったが、“金鎖”のためだ仕方ないと割り切った。

 

 誰も彼もが疲れた顔でその日の会談は終わった。レイナースの治療後とクレマンティーヌという女の引受後にも同じような会談があるだろう。今度は皇帝ジルクニフも交えて。

 屋敷に帰っても誰か仕事で欠けていることを嘆きながら、ケラルトは次の仕事のことも並行して考え始めた。




冒険者って何人チームまで行けるんだろう
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