【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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説得~レイナース

 どこをどうして歩いたか覚えていない。気がつけば胸壁の上に来ていた。

 レイナースは隠していた右の髪を横に流していた。風にあたりに来たのだとしばらくしてから思い出した。趣味である呪いが解けたら何をするかという空想で一番最初に思いついたものだ。今までそんな当たり前のことができなかったのだ。不思議なものであれほどしたいことを考えて来たのに、一番単純なものを選んでいた……というより他の空想はどうでもよくなっていた。

 

 ……これからどうしよう。まるで突然自由を得た奴隷のようだった。

 呪いの治療のために圧倒的な力を持つ魔導王が統治する魔導国に行くことを考えていた。だが、治療は帝国にいるうちに治ってしまった。おまけに治療した者からは対価を請求されず、魔導国に行くのももっと考えてからで良いのではないか、そう説かれる始末。

 

 復讐日記につけた連中を実際に潰しに行こうか? だが顔が治った今、そんな破滅的な考えに従う気になれない。

 たかが顔一つ。そのためだけに自分は全てを捨てたし、どんな行動もいとわなかった。帝国四騎士の一人でありながら忠誠心も持ち合わせていなかった。

 

 

「いまさら、好きにしろと言われても困りますわ……」

 

 

 声は風に流れて消えた。そう、今レイナースは好きにして良いと誰からも言われているのだ。魔導国に行けと言われてるわけでもない。皇帝ジルクニフも忠誠を別に期待してもいない。

 呪いの解呪を願い続けて幾年にもなるのに、願いが叶った瞬間に足元がおぼつかなくなるなど笑い話にもならない。

 

 

「あれは……」

 

 

 なにとはなしに下を見た。騎士姿の影が走っていく、モンスター退治か賊の討伐にでも行くのだろう。しかし、アレは人間の騎士ではない。魔導国からレンタルされている死の騎兵(デス・キャバリエ)だ。

 今、帝国では魔導国の指示によって、徐々に軍事力の一部をアンデッドに置き換える再編が進んでいる。最早人間の騎士など時代遅れの感すらある。スケルトンなどならともかくアンデッドの騎士などになれば、かつて帝国最精鋭だった白銀近衛より強いのだ。おまけにそれでありながら、その価値は低い。人間と違い遺族などに配慮する必要もない。

 価値ある劣等が価値なき優等に駆逐されていく。その無常にレイナースは……

 

 

「認めませんわ……」

 

 

 なぜ、呪いを受けたか。なぜ、生家を滅ぼしたか。なぜ元婚約者を潰したか。

 それはレイナースが貴族の一員として、所領に出るモンスターを討伐することに誇りを感じていたからだ。自分は顔を取り戻した。ならば次に取り戻すべきものは決まっている。

 

 

「……は?」

「ええと……」

「なぜ、そうなるんでしょう。実はこの方、姉様の同類では……」

 

 

 屋敷に戻ってきたレイナースとの会話で、カルカたちは混乱した。ケラルトが何気にひどいことを言っているが、当のレメディオスはクレマンティーヌの監視でいない。

 あくまで悠然と、胸を張ってレイナースは続ける。

 

 

「約束通り、魔導国に受け入れて欲しいという願いがそれほど突飛ですかしら?」

「いや、問題はその後でしょう……」

 

 

 ケラルトはこめかみを押さえて、あらためて提案の意味不明さを指摘することにする。短い間だが、邪教徒を捕らえる時には行動を共にした仲だ。ケラルトはレイナースをどちらかといえば合理的な方だと思っていた。そして、自身の都合を優先する性質だということも、分かっていたつもりだ。

 

 

「それで望む地位が、なぜセシルさんの弟子になるのでしょうか……」

「なぜと言われても、そこが一番都合の良いところだからですわ。ある意味、世界で一番安全な立ち位置。規格外の戦士に教えを受けられる。実に合理的な話だと思いますわ。腕をあげて“金鎖”に所属できれば、社会的な地位も十分ですし」

「いや、俺は師匠には向いてないんだが……レメや組合長と組み手するぐらいしか経験ないぞ……?」

 

 

 優れた戦士が素晴らしい教師になるわけではない。セシルの剣技に理合が無いわけではないが、実戦で身につけた上に一人で生きてきた期間が長く、言語化できない。大体にしてレイナースは槍使いであって剣士ではない。

 

 

「そこは私が自分で解釈して吸収しますから大丈夫ですわ。このまま帝国にいても私たちより優れた戦士はいませんからね」

「いえ、帝国にもアダマンタイト級冒険者がいると聞いていますが……」

「その中にセシルさんより強い戦士がいるとお思いで? それにただのアダマンタイト級冒険者ぐらいの強さが目標ではありませんのよ……私は騎士としての強さを取り戻す。アンデッド兵などに遅れを取ったままではいられませんの」

 

 

 かつてのように領民の守り手となるには、ありきたりの“最強”では足らないのだと。その風潮を作った魔導国に参加しようとする覚悟は本気だ。

 

 

「カル……リーダーはカルだ。どうする?」

「レイナース殿は別にすぐ“金鎖”に参加するとは言っていませんよ。なりたいのはあくまでセシルさんという“超越者”の弟子です」

 

 

 セシルは深く嘆息した。セシルは修行して強くなったわけではない。ただ、そういう体をこの世界に持ち込んだだけだ。そうした観点から言えば誰よりも“浅い”のはプレイヤーである自分たちであろう。

 ただ強いだけ。武技は使えず、スキルを伝道できるかも分からない。そんな存在からも何かを学びたいと願う人々の眩しさよ。そういうものにセシルは弱いのだ。

 

 

「……フェンサーだから槍は一応装備できるが、それだけだ。強くしてやれるかなんて分からない。それでも良いのなら」

「引っ張り上げて欲しいわけではありませんわ。強くなるための道しるべとして、そして最高の目標として挑ませて欲しい。そのための弟子入りですから」

 

 

 そして、かつての気高さを取り戻すのだ。そのために安寧を捨てるのだと言い切れる。その尊さにセシルという戦士は降参した。

 




原作キャラを弟子に…なんて不敬に思ったりします
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