【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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愚者~セシルとフールーダ

 フールーダがこのように人目を避けて、それでも魔導国の冒険者に会いに来たのは理由がある。課題として出された“死者の書”の翻訳が上手くいっていないのだ。

 そうフールーダという人物は深淵の探求のために、帝国を裏切りアインズ・ウール・ゴウンに寝返った人物なのだ。これは公然の秘密というもので帝国の上層部も把握済みだ。

 上手くいっていないと言うが、フールーダも周辺各国に名前が轟く知恵者であるからして、着実に進んではいる。未知の言語を、わずかに読ませてもらった一部から読み解いていくスピードとしては、凄まじいものだろう。

 だが彼にとっては足りないのだ。半不老ではあるが、その貪欲さはさらなる加速を求めて止まらない。

 ゆえに“魔導国の冒険者”と聞いて師であるアインズから、なにかの連絡があるのではないかと期待してしまうのだ。

 

 

「この方がまさか……三重魔法詠唱者(トライアッド)、フールーダ・パラダイン!? 話には聞いていましたが……実際にまみえることがあるとは……」

「英雄の領域すら超えた逸脱者……ですが師とは一体……」

 

 

 カルカとケラルトは流石に名前を知っていた。ケラルトも周辺各国に並ぶ者ない信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)だったが、実力を隠していたし、流石にフールーダと同じ第6位階にはたどり着いていない。

 まさに生ける伝説というわけだが、世間に疎いセシルは知るはずもない。何やら偉い人らしいとだけ判断した。

 

 

「残念ながら違うと思いますよ。今回の任務にあなたとあってどうこう、という話は無かったですし……ねぇ組合長」

「ああ……というか、我々が東に向けて本格的に調査するために、私が計画を立案して提出したからそのような意図は……」

「しかし……あなたからは不思議な圧力を感じる……」

 

 

 フールーダの目がぎょろぎょろとセシルの全身を舐め回す。フールーダは魔力系魔法詠唱者(マジックキャスター)の力を見るというタレントを持っている。その点で言うとセシルは普通に優秀……第三位階程度にしか見えない。だが、長年生きた経験が眼前の力を見逃さなかったのだ。

 

 

「その装備……もしや精神系魔法詠唱者(マジックキャスター)では?」

「いや、信仰系なんだが……」

 

 

 セシルが修めた職業は大半が信仰系魔法戦士のものだ。フールーダが勘違いしたのは装備が東方系に近いためだろう。それでも魔力系に目を奪われず、セシルの異常さを見抜いたのはさすがとしか言いようがない。

 

 

「魔導国の……では……やはり……」

「何か集中しだして怖いんだけど」

「そういうなセシル君。魔法詠唱者(マジックキャスター)の方はこういうところがある。ラケシルを見てれば分かる。以前、高位魔法の水晶玉を舐め回したことがあってね……」

「お前に魔法の何が分かる! 高位魔法など滅多に見られるものではなかったんだ! しかしセシル君、これはチャンスだぞ。帝国の重鎮との人脈を築く好機だ」

 

 

 そこ、共感してしまうんだ……とセシルは思う。あくまでも基本的には前衛職であるセシルには、少々理解に苦しむところがある。しかし、思えば発動に参照される信仰心はどこで測られているのだろうか。セシルはこの世界の四大神信仰にも六大神信仰にも縁がない。

 これで敬虔な信者より遥かに上の魔法が使えるとなると、この世界と“ユグドラシル”はどこかで繋がりを持っているのだろうか?

 

 突然フールーダがくわっと顔を寄せてきた。近すぎて迫力があり過ぎた。

 

 

「失礼を承知でうかがいたいが……第何位階まで行使可能なのですかな?」

「え、ああ……信じてもらえるかはともかく、第九位階まで使える……」

「第九! ホァアアアアアア!」

 

 

 せっかく隠れて会いに来たようなのに、大声をあげるのはいかがなものかと思いつつ、これが魔法を探求する者の熱意かとも思ったりする一行であった。

 先ほどよりも熱がこもった姿勢で、フールーダはセシルの手をガシッと掴んでくる。

 

 

「今、私が取り掛かっている研究は遅れている! よろしければ手伝ってくださらんか!」

「えぇ……まぁ良いですけど」

「良いんですね……」

「セシルさんは基本的に頼まれたことを、断りませんよね。そこが良いところですが」

「では私の私室までご案内いたします! ささお早く!」

「カル……先に戻ってクーデリカとウレイリカの世話と、レメにちょっと仕事が長くなることを伝えてくれ……ケラはどうする来るか?」

「ええ、ご同行します。これでも信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)の端くれですから」

「書類が来るから我々も屋敷に戻っているよ」

 

 

 結果として、高位魔法の使えるセシルと神官としての造詣が深いケラルトがフールーダに同行することになった。案内されたのは魔法省にあるフールーダの部屋だが、研究室と言ったほうが良いかも知れない。何と言うか世間の人々が、魔法使いや魔女に対して思い描く部屋そのものだった。

 

 

「師のことはご存知ですね?」

「ここまでくれば分かっている。我らが王様ですな」

「師から課題として出されたのはこの本なのですが……解読に時間がかかりすぎております。実を言えば……師にはできる限り自分で解読するように言われていたのです。ですが、読解の魔法でも遅々とした速度で……私は私はもう!」

 

 

 フールーダが差し出してきたのは古いがしっかりとした装丁の魔導書だ。“死者の書”と書いてある。というか日本語じゃんとセシルは一人でツッコミを入れそうになった。

 

 

「ふーん。いや、死者の書っていうとエジプトじゃないのか? 中身全然違うけど……」

「セシルさん読めるんですか?」

「うん。あー俺の出身国の文字だから」

「相変わらず謎が多い人ですね……」

「隠してることなんて無いけどね。聞かれたら答えるし……まぁ今じゃ立場もあるが。というかフールーダさんよ、これやっぱり俺が手伝ったらマズイんじゃないか?」

 

 

 見て分かるぐらいフールーダがずーんとした雰囲気を出していた。仕方なくセシルはインベントリからモノクルとパピルス製の巻物を取り出した。

 

 

「俺からはこれを渡そう。アインズ……様から出された宿題は自力でやってもらうとして、これも死者の書……日下出現の書だ。こっちを読めるようになればそっちの解読も進むだろう」

「これは……! 師も持っておられた眼鏡……!」

「ただ、俺が帝国から帰るまでに返してくれよ。おい、なんでケラまで読み始める」

「え? だって古の魔導書ですよ? そんなの私も気になりますよ、当然」

「お前は後からいくらでも読ませてやるから……」

 

 

 結局この日は長時間の間、魔法バカの質問と解読に長々と時間を取られた。結果として割を食ったレメディオスにセシルは散々絞られることになったのだった。

 

 そして、この静かな狂人に手を貸したことが問題となるのは、まだ先の話である。




うっかり余計な災厄を招きそう
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