【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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助命~クレマンティーヌ

 その日の牢屋は厳重に警護された。四騎士であるバジウッドも騎士達とともに万が一に備えている。それもこの一般牢には相応しくない人物が収監されていたからだ。それがこの日、ようやく出ていく。看守もようやく一息つけたような顔で見守っている。

 ズーラーノーンの幹部クレマンティーヌ。いや、取り調べで組織を裏切ってべらべらと機密を喋ったので“元”が付くか。それでも彼女が危険人物であることには変わらない。

 

 彼女は朝日をまぶしげに見上げて、大きく伸びをした。クレマンティーヌの動作には猫のような雰囲気が付きまとう。たとえ場が剣呑な雰囲気であっても変わらない。

 

 

「お天道様が気持ちいいねー。牢屋ぐらしでカビが生えたかも」

「ついでに剣でも生やしてやろうか? 本国でどういう扱いになるのかも分からないんだ。いっそのこと、このまま眠ったほうがお前のためにも良いかも知れないぞ」

「……いつの間に回り込んだのかなー?」

「最初からだ。お前が静かにしている保証など、どこにもないからな」

 

 

 クレマンティーヌの影に潜むようにしてセシルが立っていたことに、声を出すまで誰も気付かなかった。スキルなど関係なしに素早く動いていただけである。

 これも一種のマウント取りだ。お前が何をしようといつでも殺せるぞ、と実践してやったのだ。実際のところ、クレマンティーヌの強さは面倒なのだ。セシルにとっては取るに足りないが、他の者にとっては死神に近い。今、警護している騎士たちも彼女の装備があれば皆殺しにされてもおかしくはない。

 流石に帝国も魔導国への引き渡しに武具を返してやるほど親切ではない。今は簡素な平服のみだ。

 

 アインザックが書類にサインをして、帝国から魔導国へと身柄は移譲され終わった。もう一人いた神官は戦闘能力が高くないのでまだ収監されているが、彼もこれまでの所業から明るい未来は無いだろう。

 

 

「よう、セシルさんよ。あんなもん引き取って大丈夫ですかい?」

「バジウッド殿。セシルで良いよ。アレはこちらで引き取らないと逆にマズいからな……それに大量の冒険者プレートを所有してたことからしてどのみち極刑。魔導国がどう扱うか、は俺には決められないけど……捕まえて来たの俺だしなぁ……」

「俺も殿はいらないよ。化け物みたいに強くても、立場はままならないもんだな。俺たちは皇城に戻るが、今度会う時は稽古でもつけてくれや。それとレイナースをよろしくな、あいつも悪いやつじゃないんだよ」

「了解だ。まぁ俺と稽古しても腕が上がるかは分からんが……」

 

 

 軽く手を振った後、バジウッドは威勢よく騎士を取りまとめて戻っていった。感心するほどの手際で、本人の性格も合わせて気持ちの良い人物だとセシルは思う。

 

 さて、セシルにはすべきことがある。それはもちろんクレマンティーヌの扱いに関してだ。正直、憐憫を覚えないわけではないが……クーデリカとウレイリカのいる屋敷に彼女を連れ帰ることはできない。ただ、牢屋に入れたまま永遠に監視するわけにもいかなかった。

 

 セシルは牢屋の方角から振り返って一行を見る。

 

 

「じゃあ俺は魔導国へとコイツを引き渡してくる。留守は任せたぞ」

「引き渡してくるって何日ぐらいかかるんだ?」

転移門(ゲート)……転移魔法で行くから一日かかるか、かからないか。手紙でやり取りしてたから今日で出所させたんだ」

「お早いお帰りをお待ちしていますね」

 

 

 セシルとクレマンティーヌを残して、一行は宿へと戻っていく。仕事が一つ片付いて、日常への帰還に一歩近づくのだ。

 クレマンティーヌは意外にも不安げな顔で訴えてくる。

 

 

「……死刑は免れるんでしょう? 私、全部喋ったわよ」

「だから俺も一緒に行くんだよ。決定権は無いが、お願いぐらいはできるからな」

 

 

 クレマンティーヌは肩を落とした。セシルと素手で戦っても勝ち目はない。装備があっても同じことだろうが……どうあっても自分の命が保証されることはないようだ。

 セシルはクレマンティーヌを連れたまま、一つの使われていない家に入った。そこには黒い穴が開いている。まるで自分のこれから先を示すようにクレマンティーヌには思えた。

 

 転移した先はエ・ランテルではなくナザリックだった。控えていたメイドの一人がクレマンティーヌを引き取る。レベルはクレマンティーヌより上だ。あっさりと抑え込まれてしまう。

 その褐色の肌をしたメイドはサディスティックな顔で扉の一つを指さした。

 

 

「このような体勢で失礼します。アインズ様がそちらの部屋でお待ちです」

「……どうも」

 

 

 見ればまたメイドの控えている部屋がある。今度のメイドからは何の圧力も感じない。一般的なメイドなのだろう。メイドが頭を下げて、扉を開くのでそこを通る。

 中には真っ白なプラチナのような輝きの服に身を包んだ魔導王が、椅子に座って待っていた。

 

 

「……陛下」

「ああ、よせよせ。常の態度でいいよ。久しぶりだなセシル」

「ああ……王様と一介の冒険者じゃ会う機会も減るわな。身分というものは面倒だ。時々は楽しいんだが」

「確かに。だけど俺とか寝ている時間はないから、いつでも会えるぞ?」

「帝国からじゃ伝言(メッセージ)をしてもいいものか……俺は転移門(ゲート)使えないし」

 

 

 気安い会話が始まる。だがアインズはかつての仲間には敬語で接していた。逆にセシルは一段落ちる扱いなのだった。それでもこの世界では特別視されていることには変わりない。

 

 

「さて、まず用事から済ませてしまうか。セシルの願いはアレの助命だな」

「まぁ随分と都合の良いことではあるがな。クレマンティーヌがこれまでに犯した罪を考えれば、情状酌量の余地はないだろう……事情を素直に話してくれたことを差し引いた上でもな」

「いいさ、他ならぬお前の頼みだ。何の罰も与えないわけにはいかないが……実を言えばアレとは面識がある。そのため記憶操作は絶対だな」

「……感謝する」

「良いさ、俺とお前の仲……というやつだな。更生後の扱いも任せる。では雑談に移ろうか。正直こちらの方が大事だ」

 

 

 セシルはアインズの話にとことん付き合った。クレマンティーヌが受ける罰については考えない方が良いと思いながら。




五大最悪ー
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