「貴方なんて、嫌いよ」
そう言って、少女は私を抱きしめた。
分厚い布地のザラザラとした感触が、肌を撫でる。
すっかり嗅ぎ慣れてしまったラベンダーの香りが、鼻をくすぐっていく。
キリキリとした痛みが、背中に食い込んでくる。
そして、じわりとした湿り気が、襟元を濡らすのを感じた。
「貴方は何一つ、私に勝たせてくれなかった。勉強も、運動も。そして、恋愛でさえも」
「私は、そんなつもりは」
「その澄ました態度が、ずっと、ずっと嫌いだったのよ」
私の首元に顔を埋めながら、なおも恨み言を続ける少女。その震える背中に、私はそっと手を添える。
慈しむように、滑らせていく。
冷めきってしまったその心に、少しでも温もりを与えられたら、と。
きっと、この熱は伝わらないのだろうけど。
静寂に満たされた室内。投げ出された二つのバッグ。破かれた封筒。重なり合う私たち。
永遠とも思える澱んだ時の中、時折漏れる嗚咽だけが、空気を揺らしていた。
そして、いつしか手に伝わる震えも止まった頃。少女の口から、ぽつりと声がこぼれる。
「彼と、お幸せにね」
吐き捨てるように、告げられた一言。
それは決別の言葉。
私たちの友情を、終わらせる言葉だった。
それで最後だと言うように、私を突き放して、起き上がろうとする少女。
灰色に褪せた視界の中、ゆっくりと離れていく華奢な身体。
ラベンダーの香りだけを残して、薄れていく感触。
その身体を、私の両腕が全力で絡め取っていた。
絶対に、逃すものかと。
「さっき、言ってましたよね」
不意の私の行動に、見るからに困惑した顔を見せる少女。
その様子に、くすりと笑みを浮かべながら、私は言葉を紡いでいく。
「貴方は私に、何一つ勝てなかった、なんて」
唇が自然とつり上がるのを感じる。ぎゅっと抑えた少女の身体に震えが走る。
きっと彼女の目には、獲物を前にした獣の姿が映っているのだろう。
そんな想像すらもおかしく思えてきて、ますます微笑みは深くなる。
「でも、それは間違いなんですよ。だって私は、初めて貴方と出会った時から、ずっと負け続けているんですから」
ぐいと少女の身体を引き寄せて、強く、強く、抱きしめる。甘い香りが胸いっぱいに広がって、私の脳を蕩けさせる。
いや、たぶんもうずっと前から、私は蕩けていたのだろう。そして、それでいいと思う自分がいた。
だってこんな言葉、きっとシラフでは口にできないだろうから。
「よく言うじゃないですか。好きになった方が負けって」