安価で安住の地を見つける 作:ハンドルを右に
旅は続くよ、どこまでも。
雲一つない青い空の下、彼方へと続く水平線が一面に広がる。この大海原を突き進むのは一頭の羊。
ここは、偉大なる航路に入ってからずっと慌しかったメリー号の甲板。ドラム王国を抜けてからと言うもの、ようやく落ち着ける時間がやってきた。
船長たち幾人、幾匹が備蓄を
『この船に乗っている理由?』
そんな騒動から離れた見張り台の上。
ビビは食い逃げを阻止した
『別に俺なんてビビや他の皆に比べたら、大した理由とか夢とかないからなぁ……話さないとだめ?』
『だめ、って言ったらどうするの?』
『えー』
ハジメ本人はかなり渋っていた。
彼自身の性格なのか、船長自身が「話したくないことは話さなくていい」というスタンスでいるおかげでもあるのか、彼は仲間の話は沢山しても自分の話は滅多にしない。
今までのらりくらりと躱されてきたが、“風邪を看病した礼として”と添えると観念してくれた。単に自分がしたくてやったことを盾にするのは少し狡いような気もしたが、それより彼のことを知りたい気持ちの方が勝ったのだから仕方あるまい。
『いや、本当に成り行きで乗っちゃったんだよ』
アルビダという海賊に捕まって雑用をやらされていた中、ルフィがその船長をやっつけてくれたこと。
そのまま降りた島で不良海軍に囚われたゾロを助けたいと言ったルフィに、恩を返すために色々と手伝ってあげたこと。
晴れて仲間になったゾロと出港するのを見送りに行ったら、いつの間にかルフィの手が伸びてきて船に担ぎこまれてしまったこと。
『……で、俺がここにいるってワケ』
たはは、とハジメは笑いながらこれまでの旅を振り返る。
『なんというか、ルフィさんらしいわね』
その様子が容易に想像できてしまうビビ。
実際、チョッパーの時も同様だったから。
きっと、ナミやウソップ、サンジも細部は違えど、同じような流れで仲間になったのだろう。しかし、こうして誰もがかけがえのない仲間として固い絆で結ばれている。
ビビも、自身がその中にいるのだと考えると心地良い気分になれる。イガラム以外味方がいなかった二年間の潜入生活を癒やしてくれるこの時がいつまでも続いてくれればいいな、とも思ってしまうほどに。
『それからどこかで降りようとしても、いっつもあのゴム腕が伸びてくるから困ってるんだよ。最近だと他の皆も協力してくるからますます避けられないし。今度はどうしようかなあ』
『え、まだ降りる気でいるの?』
『うん……あ、でもこれ内緒ね。誰かに聞かれたらあんな感じに捕まっちゃうから』
甲板の方を指差しながら、もう片方の手で口元に人差し指を立てる。
見張り台から身を乗り出すと、縄で簀巻にされているルフィがいる。危うくアラバスタまでの一週間を食糧不足で過ごすことになりかけたわけだ。
当然のようにナミに殴られ、顔はたこ焼きのように腫れて膨れ上がっている。こんな状態でも「肉ゥ〜」と喚いているあたり、もはや彼は猛獣と同じ扱いをされている。
偉大なる航路に入るまで、あんな風に巻き込まれていたハジメを考えると、ビビはつい可笑しくなってしまう。きっと、死んだ魚のような目の諦め顔もしているんだろうな、なんて考えていると新たに疑問が生まれた。
『他の海賊船にいた、ってことは、ハジメくんはルフィさんに会う前には海に出ていたってこと? どうして?』
『…………』
『あ、イヤそう!』
『いてててて』
口を八の字に歪ませたハジメの頬を指でつつく。
先程まではため息を吐きながらでも、やんちゃする友人の後を追うような、微笑ましい様子で語っていたのに、今は露骨に顔を引きつらせている。
考えるに、この船に乗るきっかけよりも“前の話”が彼にとって聞かれたくない内容だったのだろう。
こんなチャンス、次はいつ来るかわからない。
海賊は常に危険と隣り合わせなのだから。
しばらくそのまま指で突いていると、ハジメは今度も折れてくれた。
しょうがない、と口にした後の言葉。
それは、決して軽いものではなかった。
『故郷がなくなったんだよ。
くらり、と温度差に目眩がした。
彼が育ったのは東の海の隅にある孤島。
地図に載っているかすらも怪しいくらいの、ド田舎の中でも最もド田舎と言っても過言ではないとは言っていた。
一応、島の名前も口にしてくれたが、ビビが聞いたことのないような名前だった。
余程、無茶苦茶な航路を進んでいなければ辿り着くことはないため、海軍も来なければ、逆に海賊も来ない。
いや、人はおろか、ニュース・クーすら立ち寄ることが稀なほど。
実質的な鎖国状態のような、世界から切り離された島。規模も辛うじて“村”と言えるような限界集落で、特有の変わった風習はあっても平穏に暮らしてきたのが彼だったそうな。
その後はざっくりとした粗筋しか語られなかった。
どこかの海賊が村の“秘宝”とやらの存在を嗅ぎつけて襲われて。
当時子供だった彼は船でこっそり逃されて。
その後に島が
『この時代、非加盟国とか取るに足らない小さな島国がどんな扱いされるかなんて容易に想像できるでしょ?』
『え、ええ。まあ……』
『それが偶々俺の故郷に回ってきたってだけ。こんなのよくある話だよ』
彼の自分語りはそんな諦観の言葉で締められた。
ビビこそ直接目の当たりにはしていないものの、為政者として非加盟国の扱いは聞き及んでいる。
天上金を払い、加盟国として扱われている彼女の住むアラバスタでさえ、海賊が略奪に訪れることは度々ある。海軍の力が及ばない地域なぞ、まさに地獄と言えることは想像に難くない。それこそ、四皇や王下七武海の“ナワバリ”ではないかぎり、ただただ搾取されるだけなのだから。
ただ、それにしても“島ごと吹き飛ばされる”というのは流石に度が過ぎているとは思った。いくら小さな島とはいえ、地形を変えるような真似ができる存在なんて、それこそ海軍大将や四皇クラスに限られると──────
『まあ、色々と修羅場は潜ってきて、何やかんやあってこうして生きていられるんだから儲けものだよね。まだ幸運は続いているようで何より何より』
ハジメはいつものように微笑んでいるが、その目は遠くを見ていた。
……確かにこれは、話したがらないのも無理はない。
暗いのは勿論、故郷がなくなったなんて話を誰かに話す気にならないに決まっている。
『…………』
『…………』
珍しく、二人の間に沈黙が流れた。
好奇心に負けてやぶ蛇をついてしまったかもしれないと気まずくなって、必死にフォローの言葉を取り繕おうとする。
『その、ハジメくんも大変だったのね。海賊に襲われて故郷をなくしたのに、また海賊に捕まってこき使われることになったなんて』
『あ、それ違う』
『え?』
違う? 何が?
そんな視線を向けると、ハジメも「しまった」と小声が漏れた。すぐに視線を逸して誤魔化そうとしても遅い。少し気が引けたものの、ここまで話したのだからもう隠し事はなしだと、ビビは視線で訴えた。
『…………………………』
『すごくイヤそう!!!』
先程よりも顔を歪ませていた。年齢が一気に老け込んだかのように、眉間と顎に皺が寄っている。
しかしこちらも負けていられないとじっと横顔を見つめていたら、ビビの頑固さには勝てないと悟ったのだろう。ハジメは盛大なため息とともに目元を抑えた。
そこで少しの後悔が胸中に生まれる。
もしや、ここにも何か話すことが憚られるほどの重い過去が──────
『いや……その……アルビダに喧嘩ふっかけたのって実は……俺でさ。倒せると思って自信満々に啖呵切ったのに下っ端に一撃で伸されちゃって……その……』
返ってきたのは歯切れの悪い、子供の言い訳のような拙い言葉。
見れば、風邪を引いていた時よりも顔が真っ赤になっていた。段々と声が小さくなるのは、本当に恥ずかしがっている証に他ならなかった。
身構えていた体の力がすっと抜けてしまう。
『ぷっ』
『ほら笑うと思ったァ! だから言いたくなかったのにさァ!』
『ご、ごめ……でも……ふふっ』
ビビは笑わずにはいられなかった。
故郷の話よりも“この失敗談”が一番聞かれたくなかったんだな、と確信して、自分が踏み込みすぎたことに関しては完全に杞憂だったのだから。
これまでの旅で彼の性格はもうわかっていた。
この船で頼りにされている大人のような振りをしていながら、根は仲間の皆と同じくらい子供っぽくて──────度が過ぎるくらいの見栄っ張りと言うことは。
彼の声に反応し、甲板にいた仲間たちの視線が集まる。
深掘りされないように逃げるように見張り台から降りていく姿を見届ける。途中で樽に足をぶつけて、耳まで真っ赤にしながら悶えていた。
ふと、樽で思い出した。
……皆は偉大なる航路に入る際に、あのような酒樽に足を乗せて、己の夢に“誓い”を立てたと言う話を。
海賊王。
世界一の大剣豪。
世界地図の作成。
勇敢なる海の戦士。
オールブルーの発見。
各々が掲げる夢はどれも納得できるものだった。
ビビもまた、少し羨ましいと思っていたから印象に残っている。
……彼の夢だけどうにもイメージがつかなかったが、今は違う。
先の話を聞かされれば確かにあんな夢を口にするに違いない。
──────俺は、安住の地を探しに!
それは、故郷を無くした者にとっては非常にありふれていて、切実な願いなのだから。
潮風に包まれながら、ビビは心の中で祈る。
願わくば、そんな儚い夢が叶いますように、と。
◇◇◇◇◇
「ビビ!!!」
「え」
甲高い金属音が、ビビの意識を現実に戻す。
目の前には黄金のフックが迫っていて、それを長剣が受け止めていた。
腕を震わせながら剣を持つコーザと、微動だにせず葉巻を吹かしながら片手間に凶器を振るうクロコダイル。本気で当てるつもりのない牽制の攻撃でも力量差は歴然だった。
「コーザ! 皆!」
少しの間、呆然としてしまったようだ。
周りを見れば、ビビたちについてきてくれた反乱軍の者たちが膝をついている。
いつの間にかビビ自身も馬から降りていて、膝には血塗れのハジメが横たわっている。
喧騒の中で掻き消えそうな、隙間風のようにか細い空気音。それは、彼の口から発せられている確かな呼吸であった。
けれども失血のせいで体温の低下が著しく、加えて毒が体内を回っているせいか、微かな呼吸でさえ彼に苦痛を与え続けている。
そんな中、ビビとハジメを守るために、コーザがクロコダイルに立ち向かっていた。
「やめておけコーザ……今更お姫様を守るナイト気取りなんてするタマでもねェだろ」
「……はっ、んなもん俺には似合わないだろ。単にお前には
「借りだと?」
剣の柄を握る手から血が滲む。
その眼光は相手が七武海であろうと竦むことなく、向ける感情はビビのそれと匹敵する。
脳裏に浮かぶ、度重なる災害に遭っても折れずに立ち向かった父の姿。
ビビから砂嵐の正体を聞いた時からずっと、我慢していた感情を爆発させた。
「よくも、俺達の──────親父のユバを滅茶苦茶にしてくれたな……!」
「……なるほど。なら、親子揃ってガリガリにしてやるのも悪くねぇか」
「っ!」
黄金のフックとは反対側の腕が伸びてくる。
本能が避けろと叫ぶ。悪魔の実を宿したそれは、触れるだけでも取り返しがつかないことになる。
……だが、避ければその攻撃は背後にいる二人に及ぶ。
──────死んでも守れ、砂砂団!
ふと、かつての少年が口にした言葉が聞こえたのは果たして空耳なのだろうか。
確かに、奇しくもあの時と同じだと思った。
コーザはニヤリと笑う。
ならばやることは決まっている、と、腹を括った時だった。
「させんっ!」
黒い影がひとつ、砂漠を駆け抜ける。
クロコダイルの腕は空振り、ビビたちは抱え込まれたまま距離を離される。
……確かに速いが、捉えられない程度ではない。
腕を砂化させて伸ばそうとしたが、進路上に大きな影が重なった。
「次から次へと鬱陶しい、何だお前ら?」
「我ら、ツメゲリ部隊」
「ここは、我ら四人がカタをつけさせてもらおう」
アラバスタ護衛隊が誇るエリートの四人。
その腕力は、たとえ
とはいえ、クロコダイルにとっては取るに足らない石ころも同然。いくら腕っ節が強いところで、
「……あぁ?」
無論、それには
「さすがに顔色が変わったな」
クロコダイルが目を見張ったのは彼らの武器である。
身の丈ほどの大きい斧や槍。
それら全ての先から滴る水。
それは“砂”という特性上、最も警戒するべき“弱点”であった。
「なるほど、どこでそれを知った?」
余裕の笑みは消え、淡々とした調子で能力の弱点の出処を訊くクロコダイル。
今後のことを考えると、知っている者は全て始末する必要も出てくると考えたのだろう。
ツメゲリ部隊の彼らの脳裏に浮かぶのは一人の男。
囚われの王を救い、軍内部に回っていた毒を看破し、自分たちを戦いの土俵に立つための方法を伝授してくれた。さらに、この強大な敵に対して独りで立ち向ったヘンテコな覆面を被った男の姿。きっと、彼がいないと破れかぶれになっていた、のかもしれない。
……そんな彼のことを何と言うのか?
決まっているだろう。
四人は各々武器を構えながら言い放つ。
「「「「友からだ」」」」
「ハッ……いいだろう、“力の差”というものを教えてやる」
国のため、王女のため、そして友のため。
たとえ勝てないとわかっていても、立ち向かうには充分すぎる理由が彼らにはあるのだ。
「ビビ様、よくぞご無事でいてくださいました!」
「チャカ!?」
ビビたちを連れて離脱した影は変身したチャカだった。
イヌイヌの実──────モデルジャッカル。
それはアラバスタの守り神の一柱として扱われながら、こと砂漠の陸地における移動能力は群を抜いている動物。しかもそれが鍛え抜かれたチャカの身体能力と併さり、たとえ大人三人を抱えても馬に匹敵する速さで駆け抜ける。
「お前……」
「一人で抱えるな、コーザ。今となっては国王軍も反乱軍も関係ない」
「……悪い」
普段は人獣型による戦闘に利用しており、こうして全身の姿を変えている彼を見る機会は少ないためか、一瞬面食らったコーザ。
ただ、その言葉はかつて稽古をつけてもらっていた時と同じ声色だった。
「チャカ。貴方、あの流砂に捕まっていたはずじゃ……!」
「説明は後です。まずはこれを彼に」
「これは……」
「解毒薬です。コーザ、これを彼に」
「ああ!」
チャカから受け取った試験管サイズの瓶に入った液体を意識のないハジメの口に押し込むコーザ。
どこでこんなものを、と聞きたくなる気持ちはあるが、彼の容態は一刻を争っている。
効き目は抜群なのか、少し飲ませただけでも四肢の震えはみるみる落ち着いていく。
間近に迫った死への脅威はこれで解決した。
しかし、予断を許さない状況はまだ続いている。
「それにしても酷い出血だ。なんと惨いことに……」
「チャカ、止めろ! さすがにこれはこの場で応急処置しないとマズいぞ!」
「っ、仕方あるまい!」
チャカが走り抜けた後に残る血痕。
肉体に大きな空洞ができたように、おびただしく溢れ出ている。内臓が飛び出ていないのは果たして奇跡か、それとも今もなお必死に患部を押さえ続けている彼女の健闘のおかげなのか。
「お願いっ! 止まって! お願いだからぁ!」
この布は彼が使っていたマント。
しかしそれも血を吸いきれず地面に滴る。
鮮血に染まったそれは、元はアラバスタ王国の国旗だったとわかる者はもはや誰もいない。
「出血が止まらない……っ。これではもはや助からぬか……!」
「……くそっ」
チャカとコーザは目を伏せる。
毒のことと言い、あらゆることを予見していた彼であっても、目前に迫る死に抗うことはできない。
多くの国民を救える可能性を掴んだ代償は、彼一人の命だとでも言うのか。
「そんなことないっ!」
それでも少女は否定する。
涙で見えなくなった視界は、走馬灯のように再び彼との思い出を想起させる。
『アラバスタの住みやすい場所?』
『そうそう。具体的に言うと水源が豊富で暑すぎなくて虫とか少ないところ。あと都市に近くて陽当たりがいいと尚ありがたいかな』
『そんなところあったかしら……?』
出会ってばかりの頃に聞かれたあの問いかけ。
初めはどんな意図があるのかわからなかったが、彼の夢を知った今を踏まえてみればわかる。
彼は、この国を“夢の到達点”にしようと考えてくれていたのだ。
こんなにも光栄なことがあるだろうか──────王女としても、ひとりの少女としても。
だから、ナノハナで一度潜伏した時、ゆっくりとする暇がなく散策できないことを残念に思っていた彼とこんな約束を交した。
『なら、私がアラバスタを案内するわね!』
『えっ、いいの?』
『うん、任せてっ!』
あの時、彼の顔が一気に明るくなったのは今でも鮮明に覚えている。
……それが今は蒼白に変わり果ててしまっている。
「なんで止まらないの……止まってよぉ……!」
ビビは祈るように、手の甲に額をつける。
染み出た血が、手を伝って額にこびりつこうとも構わない。そんな少女の切実な願う姿に諦めかけた二人も何もせずにはいられなくなる。
どうにか医者を連れてくればあるいは──────と、藁にも縋ろうとしていたところだった。
「ぐおっ!?」
突如、チャカの胸が切り裂かれた。
「チャカ!? くそ──────ぐあっ!?」
コーザが余所見をした隙に、彼の腹部に何かが引っかかる。振り回されるようにチャカの元まで飛ばされ、二人が巻き込まれる形でまとめて遠くへ放り投げられてしまった。
サラサラ、と静かに地面へ砂が降りかかる音に反応し、ビビは顔を上げる。
……もはや誰の仕業かと疑う余地はない。
「まあ、いい運動にはなったな」
肩を回しながら、血の跡を追ってきたクロコダイルは悠々と歩いて来る。ツメゲリ部隊を相手にしても傷がついた様子は全くない。
「どこまで追いかけてくるのよ」
「おいおい、初めはそっちから乗り込んで来たくせに酷い言い草じゃねえか。
俺は“その男を殺し損ねていないか”念のため確認しに来ただけだ。俺自身、この目で死体を見るまでは死んだと信じられそうにねぇからな……」
「っ、殺してやる……!」
よりにもよって、お前が彼の言葉を使うのか。
偶然であっても、ビビの逆鱗に触れるには充分すぎるほど皮肉に聞こえる。
そんな殺意を示しても、レインディナーズの時と同じく奴が浮かべるのは嘲笑ばかり。
海賊王亡き今において
「もう頼りになる部下や仲間とやらはいなくなったな。次はどうする、ミス・ウェンズデー? 今度は誰を犠牲にするんだ?」
犠牲。
その二文字に、ビビは大きく肩を震わせた。
「犠牲、なんて」
「ここに倒れている奴らは、お前を守るために俺にやられたわけだ。あの“ツメゲリなんとか”とかいうヤツらも、“麦わら”も含めてな。
そして、あと30分もすればお前の大好きな国民共は広場ごと吹き飛ぶことになる」
淡々と事実を述べるクロコダイル。
同時に地面に座り込んだビビの首元を掴み、己の目線まで持ち上げた。
夢見がちな王女に、現実を突きつけるために。
「結局、お前の徒労は無駄な犠牲者を生んだだけだ。わかりやすく言ってやる──────お前に国は救えない」
「…………あ」
手に持っていた血濡れの国旗が地に落ちる。
ビビは目をつぶり、涙を流すことしかできなかった。
……
たとえ内乱を止められても、クロコダイルを何とかしないと意味がなかった。
計画を覆しても、奴は王下七武海。
こと砂漠において無敵に近いこの男は、たった独りでも万を超える軍勢相手を一蹴するのだから。
「ッ!」
それでも、ビビは心を持ち直して気持ちを振り絞る。
たとえ顔中が涙に濡れてみっともなくても、このまま命を奪われる寸前であろうとも。
大好きなこの国のために、仲間のために、父のように気高くあろうする。
……ああでも、ひとつだけ弱音を吐いても構わないだろうか。
自分のためではなく、近くに横たわる少年のために。
きっとこんな状態になっても、見栄っ張りなこの人は決して声に出して言わないだろうから。
本当なら救いの手を差し伸べるのが自分だったらいいのだけれど、どうやらそれは叶いそうにない。
だからせめて、無事であってほしいという祈りを込めて、代わりに言葉にしてあげよう。
誰か、彼を──────
「助けて」
雨粒のようにこぼれた言葉に反応したのか。
「………………ッ!」
バチバチ、と。
どこかで小さな稲妻が走る音がした。
・ ビビ
原作よりも犠牲者は少ないはずなのに曇っているのは変わりない……妙だな?
勿論、こちらでも彼女の声はちゃんと仲間達に届いている。
それは彼も例外ではない。
・ コーザ
大人になっても、反乱軍の頭目になっても、彼の性根はいつだって幼い頃に野盗から女の子を守ったときのまま。
状況が状況なので表面には表れていないが、血塗れに変わり果てた少年の姿を見た時の幼馴染の取り乱しっぷりに何かを勘ぐっている。
・ ツメゲリ部隊の皆さん
一時の力に頼ることなく、共に戦った戦友を守るために立ち上がった者たち。エリートらしくスマートに戦うが、健闘も虚しく敗れた。
実は個人個人に名前がある(公式)
・ チャカ
とある人物から助けられ、授かった解毒薬を使う。しかし想定よりもボロ雑巾だったため、結局、助からぬノルマを達成してしまう。
・ サー・クロコダイル
ビビとバギーを虐待している時に輝く男。しっかり反省し、直接自ら死亡確認しにきている。えらいね。
なお毒針はしまっている。認めた相手以外には使わないからこそ「奥の手」と言うものなのだ。
・ 少年
視界がモノクロになる〜……(絶賛走馬灯中)
次回も掲示板はお休みで、回想パートという名の東の海編ダイジェストになるかと。
タグ詐欺では?(自問自答)