三大勢力の会談の準備に追われるある日の事、俺はソーナ姉さんの指示で姫島さんが住んでいる神社に向かっていた。なんでも、そこで天使陣営のお偉いさんが来て願掛けに赤龍帝に贈り物をするからその準備を手伝ってほしいと言われたのだという。
なんで俺が呼ばれたのか俺にもソーナ姉さんにもさっぱりだったが、これから和平を結ぼうとしている組織のお偉いさんの要望を下っ端が断るわけにもいかない。誰が来るかは伝えられていなかったが、原作知識から天使のトップであるミカエルさんが来ているのは想像できたので失礼にならない服装で行くことにした。私服とかありえないし、悪魔の正装は天使には受けが悪いから人間の正装だ。
失礼にならないようにゆっくりと歩いて神社に来て、姫島さんに案内されて神社の本殿に向かうと、そこには金色の翼を十二枚も持つ天使がいた。
「はじめまして、シトリーの『女王』譲治君。私はミカエル、天使の長をしています。聞いたとおり、とても悪魔とは思えない強さの聖なるオーラですね」
どうやらミカエルさんで間違っていなかったようだ。俺も失礼のない挨拶を返そうとしたが、それは止められた。きちんとした挨拶をするとなると長いし、口調もどうでもいいからさっさと本題に入りたいのだという。
「アスカロンを赤龍帝に贈る準備をしたいのですが、その前に確かめないといけないことがあるのです。これを怠ると重大な問題が起きかねない。なので君の神器『
「わかりました」
使うようにと言われたので、足元に出現させてそのまま騎乗する。これで普段から張られている弱い障壁に加えて、強固な障壁が展開され、正しく使っている状態になった。
「ふむ、七重の障壁ですか。ずいぶんパワーアップを繰り返しているのですね」
「普通に訓練してたらこうなりました。ただ禁手には到れていませんが」
「真面目な努力型にはそういうことは多いので、気にすることはないと思いますよ。今手元にある力を駆使して戦い、堅実に実力をつけていこうとすると、どうしても禁手は発現しにくくなりますから。それに禁手に到れるだけの地力はついているのですから、危機的状況に陥った時、それを抜け出せる力を発現できる可能性が高いと考えれば損ではありませんし」
ミカエルさんはそう言いながら、ベイを撫でる。だが可愛がるというより、検査するような手つきだ。
「それにしても聖なるオーラが異常に強い。普通の『聖馬の寵』とは比べ物になりませんね。これはもう、間違いなさそうです」
「? 何がですか?」
そっちだけで勝手に納得してもこちらにはわからない。言うつもりがないのなら素直にそう言って欲しいものだ。
確認が終わったようなのでベイから降りて尋ねると、意外とすんなりとミカエルさんは説明を始めてくれた。
「先にもう一つ聞かせてください。英雄の魂を引き継いだ者はご存じですか? これを知らないと言っても分かりませんから」
「噂では聞いています。英雄の子孫に稀に現れる、英雄の残留思念を宿す者の事ですね」
ただでさえ英雄の血を引いていて身体能力とかが高いのに、魂も欠片程度とはいえ引き継いでるせいでさらに能力が向上している連中。強さはどの程度の濃さで血を継いでいるかによって変わるが、魂を引き継いでいなくてもサーゼクスさまに手傷を負わせたベオウルフさまみたいなのが魂を引き継いだりしたらとんでもないことになるというのは知識として知っている。
「そうです。転生者と似ていますが、こちらは魂が年月で劣化してしまっているので記憶も引き継がれず、血縁者のみに現れるわけです。ただこれには例外があって、残留思念を納めるに足る神器を魂を引き継いだ者が所持していた場合、そちらに残留思念は取り込まれてしまい、次からはその神器の所有者が魂を引き継ぐことになるのです」
「そういえば神器に過去の所有者の残留思念が残っているって話は聞いたことがあります。それで英雄の残留思念も一緒に取り込まれてしまうんですね。そしてゲオルギウスも『聖馬の寵』を持っていたとされている……」
ここまで聞けば理解できた。ミカエルさんも頷いているし、間違いないのだろう。
「ええ、実際に所有していました。その結果、その『聖馬の寵』の所有者は例外なくゲオルギウスの魂を引き継ぐものとなっています。あなたが聖剣を使えるのもこれが原因でしょう。そんなあなたが傍にいては本来の担い手の元に戻ろうとアスカロンがどんな反応をするか分かりません。最悪、『龍殺し』の力で内側から現赤龍帝を殺すでしょう。そんな状態で赤龍帝にアスカロンを譲るわけにはいかないんですよ」
「それで俺の協力を要請したんですね。ゲオルギウスの魂の継承者から譲渡されれば、アスカロンも素直に受け入れるだろうということですか。それより別の贈り物にした方が早い気もしますが」
「そういうわけにもいかないんですよ。現赤龍帝への贈り物でこれ以上の物はありませんし、これくらいの物を出さないと他の二勢力から色々と言われてしまいます」
まぁそうだろうな。裏の事情も大体わかるからそれは理解できる。
要は操作しきれなくなったときにぶつけるため、半分悪魔でドラゴンな白龍皇に効果抜群な『龍殺し』の『聖剣』を兵藤に与えて、歴代最強と言われているヴァーリの敵になれる程度まで強化したいのだろう。
もちろん、その程度で埋まるほど両者の才能の差は小さくないし、多少消耗させることはできてもヴァーリが勝つだろう。だが『雑魚を踏みつぶした』のではなく『宿敵を撃破した』のなら、戦闘直後は隙ができる。そこを奇襲して始末するつもりなんだろうな。暴走するだけで言うことを聞かない天龍なんて邪魔なだけだし。そもそも三大勢力が一時的にでも和平を結んだのは二天龍の排除の為だったんだから、願掛けとして問題はないからな。
ちなみにこの戦闘直後を狙う方法、神滅具持ちを始末する時の常套手段だったりする。感情の高ぶりに合わせて戦闘力が跳ね上がる連中相手に真っ向勝負は愚策だし、元が人間だから少々の攻撃でも当たれば死ぬから。今回はどちらも人外で少々の傷では生き残ってしまうが、それでも真正面からやり合うよりはずっと被害を小さくできるだろうからこの戦法が選ばれたんだろうな。
「それに対価として、その特別仕様の『聖馬の寵』の制御について後日お教えします。今回は転生者である君の魂で押さえつけられてしまって違いましたが、これまでの所有者はゲオルギウスの魂に影響されてか皆自分から教会に接触して来て働いてくださっていたのでデータは十分に揃っていますから。これで協力してもらえませんか?」
「勿論です。最大勢力の和平に必要なことですし、対価までもらえるのなら断る理由はありません」
いやマジで。上からの命令だったらどうしても必要なことだし報酬なしでも断れないけど、わざわざ対価も払ってもらえるとか本当にありがたい。太っ腹だな、ミカエルさんは。
「では説明は受け渡しが済んだ後に。まずはするべきことをするとしましょう」
「はい」
ミカエルさんに連れられて儀式場に向かうと、アジュカさまとアザゼル総督がいた。喋りたがりで神器マニアのアザゼル総督は出ていくのを必死に我慢していたそうだ。四分の一『悪魔』で『転生者』な俺が『聖人』の魂を内包した神器をどう成長させているか調べたくてしょうがなかったらしい。後日、聖人の魂の力を引き出すのを補助する人工神器を作るのと引き換えに検査を受ける約束をして、アスカロンの調整を開始した。といっても俺は魔法陣の一角で立ってるだけだったんだけどな。