「まぁこれだけ言っても何がしたいのか理解できないでしょう。初めから順を追って話すとしましょうか」
「ちょっと待ってくれ。さすがに事件が収まったら、どさくさに紛れて魔王さまのとこまで連れてくのは無理だぞ。のんびり話をしている余裕なんかあるのか? それともそれが神器の能力?」
誠二がユーリの謎の余裕について尋ねる。単純に疑問に思っている様子だった。戦う前に敵の情報は集めておきたかったが、ある程度予想がついてしまう俺ではできないことだな。やっぱりこいつに事前に話さないで良かった。
ユーリの方も隠す気はないのか詰まることなく答えを返した。
「ええ、そうです。私の神器の力は時間制御なのですが、自身にしか作用しないのが欠点だったのです。それが禁手に到ったことで結界の内部を世界から切り離し、内部の時間を自由に操作できるようになったのですよ。なのでいくら話していても外は結界を張った瞬間からはぼ時間は経っていませんからご安心ください」
「そりゃすごいな、魔法で再現しようとしたらとんでもなく大掛かりな準備がいるぞ。ただその分扱いが難しそうだ。例えば禁手発動まで時間がかかるとか、結界の境目に何か魔力を帯びたモノがあると不発、とかかな? 独立具現型の神器の所有者を取り込んでも、神器が外にいたら使えないっていうんなら、俺がベイを回収するまで仕掛けてこなかったのも頷ける」
ついでにいうと、内部を加速させるだけならともかく、その加減を自由にいじるのはかなりきついと思う。あと、時間遡行も無理だろうな。神滅具ではなく神器なのだから、禁手に到ったとしてもそこまではいけないはずだ。まぁ今は確認の仕様がないし、戦い始めればすぐにわかる。尋ねる必要はないな。
「その通り。神器と所有者は一つだと判断されますからね。あと禁手の展開には時間がかかるって言うのもあっていますし、中断しようとしたり失敗したりすると消耗が激しいのです。だから君が神器を手元に戻し、別行動する様子がないことを確認してからじゃないと使えなかった、というわけです。
僕の神器の話はこれくらいでいいでしょうか? 話を戻してもかまいませんよね」
「あ、どうぞ」
「じゃあ自己紹介から。私はユーリ。そこの彼が言った通り、元人間のはぐれ悪魔です。君らと同じ特別な『転生者』でもある」
「俺がソーナ姉さんの甥として生まれたり、お前が兵藤の弟として生まれたように、こいつは塔城の主の眷属になったんだそうだ。で、黒歌と一緒に主を殺してはぐれになったらしい」
「お前そう言う情報は伝えてくれよ。話し合いじゃなくて戦闘が目的だったらやられてたかもしれないだろ?」
「確証がなかったんでな。それに、言わない方が良さそうなことは黙ってるって言っただろ。知りたければ塔城から聞けばよかったんだし。
―――それで、あんたはなんで黒歌と一緒になって主を裏切ったんだ? 俺達くらいの才能があればそこまで酷い扱いはされなかったと思うんだが」
そう尋ねると、ユーリは辛そうに顔をゆがめた。そして重っ苦しい声で返事をする。
「私はね。過酷な扱いとか、切り捨てとかができないように契約条件を決めていたし、仕事は問題なくこなせていましたから。でも他の皆はそうじゃなかった。見てられなかったんですよ。君たちには理解できないかもしれませんがね」
「まぁ俺達んとこ激甘だしな。過酷な扱いとか言われてもイメージできねぇよ」
「だな。で、続きは?」
全く上級悪魔への不快感を示さず平然としている俺達にイラついているようだったが、ユーリは話を続けた。
「それで抗議をしたけど受け入れてもらえず、仕方なく黒歌と組んで主を殺したのです。そしてはぐれ悪魔として放浪するうちに、似たような境遇にある者たち――はぐれ悪魔だけでなく、堕天使から逃げた神器保有者やはぐれエクソシストも仲間になり、今では『禍の団』の一派閥として機能しています。さすがに旧魔王派とか英雄派には敵いませんが、魔法使いどもよりは大きな勢力だと自負していますよ。その全員が三大勢力側に戻るから、はぐれ悪魔認定の解除と、眷属を作る際の制限の追加、転生悪魔の地位向上を願いたいのです」
「あー、つまり人間の味方ぶりたいわけね、もう悪魔だってのに。郷に入れば郷に従えって言葉を知らないんかね」
「知ってても実感はしてないからあんなことやってるんだろ。俺は人間らしいわがままさだと思うけどな。俺らも価値観が前世のままだったら同じこと考えてたと思うし。ただ悪魔としちゃ論外だろうな」
ユーリの言葉を聞き流しながらベイに跨り、誠二も魔力を高まらせ、魔法で全身に障壁を展開していく。
そのまともに聞く気など欠片もない対応にユーリもキレて大声を出す。
「何なんだよお前らは! 元々は人間なんだろ!? 『原作』のあった世界で、僕と同じように平和に生きていたんだろ!? なんでそんな反応ができるんだよ!」
案外沸点が低かった。始めの丁寧な口調が嘘のようだ。まぁ待遇に不満を持って主を殺してしまう程度の精神なんだからこのくらいで当然か。
「俺は魔法使いの常識叩き込まれてるからな。こう、少年向けとかじゃないグロイやつ。各勢力が行っている実験とか改造だって知ってるぜ。体いじって異形にしたり、寿命を削って力に変えたり、色々だ。それに比べれば転生悪魔の扱いなんて極楽みたいなもんだよ」
例えるなら、転生悪魔たちが強制されているのは遠坂凛が行っていたような生まれ持った才能を磨き上げる特訓で、教会の戦士養成機関やグリゴリなんかがやっているのは間桐桜が受けた元より役目の為に適した形に変える改造だ。普通の魔法使いや俺らも似たようなことはするが、対象は裏社会のルールに従わない、つまりしてはいけないと知っているのにやらかし、殺されることが確定した連中だけなのでずいぶんマシだと思う。
かつて俺の案内で教会のエクソシストに施された改造を解析している研究室に入ったことのある誠二もうんうんと頷いていた。
「あれは衝撃だったな。見かけはともかく中身は完全に人間じゃなかったし。『新人教育』って名目でいきなりあんなとこに連れてかれた俺の気持ちにもなってみろっての」
「俺もそうだったんだよ。母さんが「転生者の教育といったらコレ!」って裏業界のおっかないとこばかり見せられたんだから。肉体より精神の方が歳くって、頭が固くなった連中には最適な教育なんだとさ。おかげでバカなことしないで済んでるから文句も言えないんだけどな」
いやマジで。裏関係の教育とか碌に受けていなかったから、あの教育がなければ絶対におかしな言動して社交界で浮いてた。ソーナ姉さんの傍にずっとくっついてるだけならともかく、シトリー家次期当主の『女王』として社交界に出るのなら必須だったな。
「お前たちは何を言ってるんだ! もしそうなら、そっちも辞めさせないと駄目だろう! それにはこの会談が最大のチャンスなんだ! なのになぜ僕の話を聞こうとしない!? ふざけてるのかッ!!」
「うわ、ひょっとしてこいつ正義に酔ってるバカか? めんどくさいなぁ……」
「そういってやるな。言ってることは人間としては正しいんだからさ。ただもう悪魔になってるのにいつまでも自分に都合のいい常識引きずってるから迷惑なだけだ。悪魔にとっても、人間にとってもな」
「ッ、もういい! お前らを殺して、主人公たちも倒し、僕の力を示したうえで交渉材料にする! だからさっさと死ね!」
叫んでも喚いても、一向に堪えた様子のない俺達についに我慢も限界に達したのか、ユーリは剣を抜き構える。
それに合わせて俺もデュランダルの柄を氷で延長して槍に変え、誠二も多数の魔弾を待機状態にした。ついでに二人分の氷の鎧も作る。慢心しまくりの奴はこっちの準備が整うまで待ってくれるからありがたいな。
「じゃ、やりますか。自分がどれだけ甘やかされてたか教えてやろうぜ」
「おう。といっても、お前は煽るんじゃねェぞ? どっちかつーと不利なのは禁手に取り込まれたこっちだからな」
「わかってるって」