転生して会長の甥っ子   作:ぬがー

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第19話

「まずお前たちはぐれ悪魔に言えることは、自分を過大評価しすぎってことだ」

 

 誠二が大量の魔弾を結界内で渦巻かせる。渦の中心にいる俺達以外には躱しようのない攻撃だ。

 しかし回避不能の大渦はあっさりと凌がれた。自身の時間をさらに引き延ばしたユーリにとっては魔弾など止まって見えただろうし、面倒ではあったが難しいことではなかったのだろう。強力な一撃で払うのではなく、全ての魔弾が切り裂かれていた。

 

「悪魔と契約することの危険性は知っていたはずだよな? 嘘はつかないが、肝心なことを言わないこともあるってこともな。教会が広めたし、悪魔も止めようとしなかったんだから知らないとは言わせないぞ。それなのにろくに条件も確認せず『不利な条件』での契約に応じてしまうような奴にこれ以上の厚遇を用意してやるだけの価値があるとでも思ってるのか? 眷属になれたってだけで上級悪魔になるチャンスが与えられるってのに? 眷属になれるのなら命だって惜しまない下級、中級悪魔なら山ほどいるって言うのに? そんなわけないよな。悪魔には「人の価値は平等じゃない」って格言だってあるんだぜ?」

 

「うるさいッ!」

 

 ユーリが俺をナマスにしようと斬りつけてくる。時間制御による加速もあって視認どころか何度斬られたのかすらわからないほどの高速の斬撃だ。だが結界内の加速を維持したまま自分をさらに加速させるのは相当にきついのか、一撃の威力は大分低い。これなら防御特化の俺じゃなくて、攻撃力特化の誠二でも耐えられそうだな。

 

「不本意な契約にしたってそうだ。対象の承認なしに転生させられるのは死人だけだぜ? 悪魔になったのが気にくわないなら、魂が馴染んでしまう前に自殺すればいいじゃないか。そうすれば元の死体に戻れる。元が人間だなんて思い違いをしてるから駄目なんだよ、ただの肉塊のくせにさ」

 

「黙れッ!」

 

 斬撃の速度がさらに上がっていく。氷の鎧も関節部を削られ広がり、障壁まで攻撃が届き始めた。だがその辺に折れた剣が何本も出現し始めたということは、こいつの攻撃より俺の障壁が硬いってことだ。これの調子ならいつまで攻められても俺は大丈夫だろう。

 

「ついでに言うと、眷属を鍛えてくれる上級悪魔っていうのはかなり優しい人なんだぜ? さっきも言った「人の価値は平等じゃない」っていうのは悪魔にも適応されるんだ。何代もかけて高められた血を引き継いで、何もしなくても強くなることが約束されてるって言うのならともかく、そうじゃないのに眷属って立場に胡坐かいて死ぬ気で努力しようとしないやつに『悪魔の駒』を預け続けるほどの価値があるわけねェじゃねぇか」

 

 原作ではそういう奴らも説得して殺すことなく元の主のところに戻したりしていたが、絶対その後処分されてたと思うね。戦闘で死者が出るのが当たり前な悪魔社会で、仕事や訓練が辛いからって逃げ出す根性なしに『駒』をやったままにするなんてとんでもない損害だし、なによりまた裏切ると主は考えるだろうから。魔王から待遇を改善するように言われていたとしても「『悪魔の駒』を持ち逃げするなど万死に値する。だが魔王さまからの指示もあるので、特別に一回死ぬだけで許してやろう」とかになってると思う。

 

「それは……ッ!」

 

「お前の主だってそうだ。確かにお前らはぐれになるような連中には蛇蝎のごとく嫌われる人だったと聞いている。だけど同時に規律を重んじ、努力の価値を認め、部下を安易に切り捨てることを嫌う人だとも聞いているぞ。塔城に仙術を使うように頼んだときだって、監視をつけて暴走を防ぎ、万が一の時は『悪魔の駒』で蘇生させる準備までしていたらしいし。死ぬ危険もある訓練をさせられる仲間を見てられなかったって言ったけど、本当はそいつら喜んでたんじゃないか? 死ぬくらいのこと堕天使との小競り合いが多い地域では日常だったし、聞いたとおりの性格なら遠からず前線に出てただろうから、長い目で見ればそっちの方が生存率は上がるもんな。身内も鍛えさせてたのだって、万が一眷属に欠員が出たらその肉親が『駒』を継いで与えられてた土地とかを引き継げるようにしてたんだ。こんな眷属の事を考えて大事にしてくれる『王』なんて早々いないって。なのに眷属の扱いが酷いから殺すって短絡的すぎるだろうこのバカが」

 

「うるさい、黙れェッ!!」

 

 ついにユーリが加速をやめて俺を殺すべく強力な一撃を放ってきた。だがそんなのは、怒りにかられてゼノヴィアに大剣で特攻した木場と変わらない行動だ。簡単に対処できる。

 

「ぐわっ!?」

 

 氷の鎧を作り直し、そのうえでベイに前進させる。それだけでユーリは目測が狂い、俺の頭がみぞおちに突き刺さって跳ね返されることになった。

 

「あ、が……」

 

 ベイに騎乗しているため、俺は全身聖なるオーラで包まれている状態なので、その頭突きを喰らった腹からぶすぶすと煙が出ているな。起き上がることもできないみたいだ。

 

「自分がどれだけバカなことをしたか自覚できたか? だったら大人しく捕まれ。悪魔政府の本部に送って、脳から裏切り者共の情報を引きずり出さないといけないからな」

 

「うる、さいッ! 悪魔にとって有利な話ばかり言われて納得できるか! 第一この土地で悪魔のルールが敷かれることに人間が同意したわけじゃない! 勝手にそっちが言ってるだけだろう!!」

 

「神や悪魔ってのはそういうものだと思うけどなぁ……。人間がどう考えようが知ったことじゃないのさ。だけどその言葉にはきちんと反論することもできるぞ」

 

「え……?」

 

「この土地の管理者、すなわち日本の八百万の神々と悪魔は交流があるんだよ。姫島さんが神社を一つ融通してもらってるのもそのつながりがあってこそだ。『供物を受け取り加護を与える』日本の神と『対価を受け取り願いを叶える』悪魔は価値観が似通ってたって言うのも交流がある理由の一つだな。

 そして悪魔は日本の神に代わって相容れない存在――他の神を認めない、自称唯一神の『聖書の神』とかだな――とその軍勢から土地を守る代わりに、氏子衆に対して悪魔のルールを敷くことを許されてるのさ」

 

 そもそもここが人間の土地だと考えている時点で見当違いなのだ。ここは八百万の神の国。当然、そこで敷かれる法も彼らが決める。いくら『進化論の人類』という天然物が混じっていようと、所詮『人間』は各神話勢力が自分たちに『信仰』や欲や恐怖と言った『感情』、『贄』などを捧げさせるために作られた存在。この世界では被造物にすぎない人間の作ったルールに上位種族が従うなどありえない、と言う考えが主流なのだ。

 なお日本では人間から神に成りあがる事もあるので西洋ほど種族差による見下しはないが、だからこそ成り上がりもできないやつに従うなどありえないという感じだな。俺達悪魔もこれに近くて「従えたければ力をつけろ。ただし力をつけるのを黙って見ているとは言っていない」というスタンスだ。

 

「そん、な」

 

「つまりお前への返事はこうなる。

 人間にとって有利な話ばかりされても聞くわけがない。第一この土地で人間の法が敷かれることに誰かが同意したわけじゃない。人間が勝手に言ってるだけじゃないか」

 

「う、うあああぁぁぁぁぁぁっ!!!???」

 

 言葉攻めが過ぎたのか、ユーリが錯乱して殴りかかってくる。それを誠二が蹴飛ばして沈めた。

 俺達と同等のスペックを持っている割にはずいぶんあっさり片付いた気もするが、魔力にしろ神器にしろ精神力で扱うものなので、錯乱している状態ならこんなものだ。こちらはろくに消耗もしないで勝てたので、罠ということはないだろうから警戒する必要もないだろう。こいつの二の舞にならないよう、教訓として覚えておけば十分だな。

 

「これで二人で撃破したって大手を振って言えるな。いくら俺の方が相性が良いからって、手柄を独占するのはどうかと思ってたんだよ」

 

「いや、それはわかる。だけどやりすぎじゃね?」

 

「えー、いいじゃんか、これくらい。それに原作知識だけを頼りに現実見ずに行動するかませ系転生者を蹂躙するのは全転生者の憧れだろ?」

 

「一緒にすんな」

 

 

 この後はユーリを氷漬けにして保存し、ソーナ姉さんたちと合流した。後でわかったことだが、こいつがいなくなったことで裏切り者派閥は英雄派に完全に取り込まれてしまったからあんまり役に立たない情報しかなかったんだけどな。

 このとき、兵藤がどうなるかは若干不安だったが、どうにかヴァーリにいいのを喰らわせて引き分けとなった。左腕を肩までと左の翼を対価に禁手『赤龍帝の鎧』を発動し、堕天使製の補助具で維持してどうにか一矢報いたらしいな。原作と違ってスイッチ姫は既婚者なのによくやったものだと思う。さすがは『強い思いが力を引き出す』なんて武器が存在する世界で主人公を張っていた奴。ライザーさまが上手いこと餌で釣って鍛えたというのもあるだろうが、この程度の逆境をどうにかする程度の精神は持っていたということか。

 

 とまぁこんな感じで、最大勢力の和平会議は出席者の想定を超える事態は起きることなく(リアスさんのミスは除く。アザゼル総督もヴァーリをダブルスパイにするつもりっぽいから除外)、順当に終了した。テロリストに加担している魔法使いも大量に退治できたし、大変有意義な一日だったと言えるだろう。

 

 

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