シトリー家に来てから色々あり、結局ソーナ姉さん(そう呼べと言われた。ある程度親しくなった頃にソーナ叔母さんと冗談で言ってみたらぶっ飛ばされた)の『女王』になった。
一応とはいえシトリー家の血を引いているというのも理由の一つだが、実際のところ駒の消費数が問題だった。
まず俺の適性を調べて、魔力の扱いに長けていると判断されたので『僧侶』を受け取ったのだが一つでは転生できなかった。
なら神器の能力を最大限に発揮できるようにしようと『戦車』を受け取ったのだが、やっぱりできなかった。
このことから俺は『兵士』で五駒相当以上だとわかり、始めから駒をたくさん使いたくなかったソーナ姉さんの判断で『女王』になったのだ。表向きには「人間との混血とはいえ親族であり、赤の他人よりは信頼できる」という理由になってるけどな。『王』の補佐役である『女王』を駒消費の問題だけで決めたって知られたら恥になるから。大した家柄でもない、神器もそれほど強力でもない椿姫さんを『女王』に据えようとした姉さんは気にしないかもしれないけどな。
後日、この影響で椿姫さんは『騎士』になったけど、これはたいした問題にはならないだろう。原作で重要なポジションだったわけじゃないし、なにより戦闘スタイル的に『女王』である意味なかったし。
それより俺的に問題なのは『女王』の仕事が辛すぎることだ。
『女王』は最強の駒であると同時に『王』の補佐役でもあるので常識や礼儀作法の勉強は厳しかったが、いずれは必要になるものだし辛くはなかった。原因はシトリー家の悪魔社会での立場である。
シトリー家の長女、セラフォルー・レヴィアタンは外交担当の魔王。ここまではいい。だが現在の悪魔にとって外交で必要なのは「どうせこいつらは戦争できないんだから何やってもOK」と思わせないことだ。そのために外交担当は「悪魔が滅ぼうが気にせず自分の気分で戦争ふっかけかねない」キャラでなくてはならない。そのアピールの為にいくつもの家系が被害を被っており、彼女を輩出したシトリー家の立場はどんどん悪くなっているのだ。魔王は実家とは縁を切ったことになっているので支援は受けられないのに、悪影響だけは出ている状態なのである。子供を家に戻しているので『養育費』と言う名目で支援も受けられ、セラフォルーさまを止めたり、アジュカさまを操作したりで評価が上がっているグレモリー家とは真逆で泣けてくる。アピールの一環と言うのもあって溺愛されてるソーナ姉さんは気づいてないみたいだけど。
俺としてはソーナ姉さんの付き添いで社交界に出たときの周囲の陰口、嫌がらせが辛い。セラフォルーさまが妹のソーナ姉さんを溺愛しているのは周知なので、嫌がらせが俺に集中するからなおさらだ。生活基盤、冥界に移さなきゃよかった。母さんや爺さまの『僧侶』の方と魔法の研究をするのはすごく楽しかったが、それを差し引いてもそう思う。
爺さまと言う同類が支えてくれなかったら耐えられなかっただろう。この人はよく一人でこんなのに耐えてきたものだと思う。
そんなある日のこと、いつものように爺さまのところに愚痴りに行ったのだが、いつもとは様子が違った。
「どうしたんですか、爺さま?」
「ん? ああ、ジョージか。ちょうど良かった。お前に話があったんだ」
なんだろ? そんな辛そうな顔で話すことなんか聞きたくないんだが、爺さまが言おうとしているなら逃げるわけにもいかない。
「実はソーナが人間界の学校に通いたいと言ってな。それにお前も付いて行って補佐してやってほしいんだ。せっかく冥界にも慣れてきたところで申し訳ないんだけどね」
「『王』の補佐は『女王』の仕事なんで当然のことです。気にしないでください。でも、学校かぁ……元々住んでたところですから大丈夫だと思いますけど……。でも俺、ソーナ姉さんと歳違いますよ?」
ソーナ姉さんは俺より一つ年上だ。学年が違えば一緒に行動もできなくなるし、同学年の真羅さんが補佐についたほうがいいんじゃないか?
「大丈夫。ソーナは今、人間での中学一年生の歳。学校に通うのは学年の始めからだから中学二年生だ。おかしな言動は中二病で片付く。補佐って言っても、予備のようなものさ」
「……中二病、ですか」
「そう。人間社会に不慣れでも誤魔化せるし、神器所有者は自分に眠っている何らかの力を目覚めさそうとして探知に引っかかってくれる。悪魔にとって実に都合のいい病なんだよ」
中二病、悪魔にとってはそんな意味があったのか。何がどこで役に立ってるかわからないな。
「ともかく、ソーナ姉さんの補佐は承りました。学年が違うので限界はありますけど、できる限りのことはします」
「そうか、助かるよ。良かった良かった」
……なぜだろう、全然良かったって顔してない。なんでだろう? 愚痴る相手がいなくなるから? でも、その程度でここまで落ち込むとは思えないんだよなー。
そう考えていると、疑問に爺さまが答えてくれた。
「ああ、うん、顔が「良かった」とは言ってないって言いたいんだろ? ……これからのことを思うと気が重くてなぁ……セラフォルーはソーナに被害が出ないようにここ十年間くらいは自重してたんだよ……。ソーナが家から離れたら元に戻っちゃうなー、って思うと辛くてな…………」
「……………………できるだけ頻繁に帰ってくるようにソーナ姉さんに言っておきます……」
「頼んだよ。シトリー家にとっては死活問題だからな」
今日は珍しく俺が愚痴を聞く側だった。爺さま、こんなにストレス溜まってたんだなぁ……。